第八十二話 編入してきたようですが──ご飯はちゃんと食べましょう
再! 書! 籍! 化!
『入れ替え戦』が行われてから数日後──。
「テリア・ウォルアクトです。よろしくお願いします」
『入れ替え戦』の勝者であり編入生であるテリアがノーブルクラスの教壇で自己紹介をする。
決闘場の観客席からでは詳細は窺えなかったが、近くで見るとこれまたなかなかのイケメンだな。
「んじゃぁ、空いてるそこの席に座ってくれや」
ゼストに促されて、テリアが教室の席に座る。数日前まではトムが据わってた場所。即日で教室の移動が行われなかったのは、手続きや私物などの運び出しがあったからだ。
入れ替え戦で敗者となってしまったトムは、今頃一般クラスの片隅で項垂れていることだろう。多少の同情はあれど『頑張ってくれ』と他人事のように応援するしかない。
しばらくの間、テリアへと好奇の目が向けられるが、向けられた本人は自然としている。人に見られることに慣れている証拠だ。このクラスの大半はそうであろうから彼が特別なわけでも無いのだが。
また、女子生徒の数名は若干頬を赤らめて熱い視線を向けていたりもする。それに対してテリアは柔らかく笑みを浮かべて小さく手を振る。
くそっ、またイケメン枠かよ。どうして俺の周囲にはイケメンが集まるのだろうか。
……約一名は優男とは言い難いけどな。おっぱい付いてるし。
「編入生への質問タイムは後にしとけよ。とりあえず朝の連絡事項だ。聞き逃したら適当に近くの奴にでも聞け。二度も説明するのは面倒くさいからな」
平常運転で寝不足のゼストが頭を掻きながらホームルームを開始した。
これと言った特別な話は無かった。強いて言えば試験が終わり開放的になったところで羽目を外した生徒が目立つので多少は自重しろとのこと。
「俺としては人様に迷惑をかけなければ自己責任の範囲で何をしても構わんと思ってるがね」
──おい教師。そこでどうして真っ直ぐに俺を見るんだよ。
視線で抗議してもゼストはどこ吹く風と言った具合だ。
そして最後に。
「事前に連絡をしてたはずだが、他クラスとの『合同授業』が近日に行われる。日程にはまだ余裕があるが、頭の中には残しておけよ」
この教師、見た目はくたびれた白衣のおっさんだが、仕事そのものには本当にそつが無い。生徒にとって重要なことはどんなことであれ、期間に余裕を持って伝えるのを常としている。
『合同授業』の話も既に試験が開始する前に説明を受けていた。 ざっくり説明すると、他のクラスの人間も交えて授業を行うというものだ。
普段顔を合わせている面子とだけで無く、違った生徒と一緒に授業を行うことで新たな刺激を受けようというのが狙いなのだそうだ。
「知っての通り、授業は校舎の外で行われる。比較的魔獣の出にくい場所を選んでるが、絶対は無いからな。各自準備は怠らないように」
合同授業は都の近郊にある草原での青空教室の形になる。
ゼストの言うとおり魔獣が出没する可能性も否定できないが、さほど心配はしていない。都の近郊は定期的に国の正規軍が魔獣の駆除作業を行っており、それに漏れた分は狩人組合が担当している。
ともあれ、出るときはやっぱり出るので確実に安全とも言い切れない。その辺りに関しては『実戦での緊張感を欠片ほどでも味わう』という面があるのだと。
それから適当な話の後、朝のホームルームは終了した。
予想通りと言うべか、ゼストが教室から出て行くなりテリアの元へクラス内の生徒たちが一気に集まった。
恒例の質問タイムである。
似たような状況はミュリエルがクラスに移籍してきた時に経験していたので、同じような事になるとは思っていたが……。
「どこかの誰かさんと違って、コミュ力高ぇなぁ」
俺たちは少し離れた場所で編入生とその周囲の人集りを眺めていた。
テリアは矢次にされる質問に対して、一つ一つ丁寧に答えていく。明らかに場慣れしている雰囲気だ。
ミュリエルなんざ、移籍してきた日に質問しようと集まったクラスメイトが己を取り囲んでも、我関せずに黙々と本を読み始めたからな。
完全に無視を決め込んではおらず一応話は聞いていたようだが、質問がされてもそちらの方に見向きもせず答えも一言か二言で完結。これでは話の膨らませようが無い。
「私にコミュ力を求めること自体がそもそも間違ってる」
「自覚はあったんだな……一応は。威張るところじゃないけど」
えっへんと鼻息をならすミュリエルに、アルフィがやれやれと肩を竦めた。
人の話を聞かないわけでも無いし、応える気が無いわけでもない。無関心な事への反応がもの凄く淡泊なだけだ。
だからこうして友人である俺たちとは、口数こそ中で一番少ないが普通に話せている。
「……ウッドロウさんの場合はもう少し他人と話す機会を増やすべきだと私は思うのですけど」
「無理」
「いえ、断言されても……」
きっぱりと言い切られてカディナがガックリと肩を落とした。
「諦めろカディナ。この手の人間が他人から言われて己を改善するはずが無いからな」
「……やけに実感が籠もってますね」
なにせ引きこもり歴百年以上の猛者がいるからな。研究者気質の人間というのは割と共通点が多い。
──同じ研究者同士、いつか大賢者とミュリエルを会わせてみるのも一興だな。
なんてことを考えていると、いつの間にか教室内のざわめきが小さくなっていることに気が付いた。
それから、人がこちらに向かってくる気配。
俺たち四人が揃ってそちらを向くと、つい先程まで生徒たちに囲まれていた編入生が俺たちに近付いてきていた。
「君は……リース・ローヴィス君で良かったのかな?」
「おう。ノーブルクラス主席のリース・ローヴィスはこの俺だ」
親指で自分を指し示しながらドヤ顔を決めてみた。
案の定、カディナとアルフィからもの凄い視線で睨み付けられたが、当のテリアは笑みを浮かべだけだ。
ドヤ顔を晒した張本人であるが「すげぇなこいつ」と編入生に対して戦慄した。普通、ほぼ初対面の相手にドヤ顔されたら頬の一つも引き攣るもんだぞ。
「俺は……ホームルームの始めに自己紹介はしたけど改めて。テリア・ウォルアクトだ。ウォルアクト家の次男坊だ、以後、見知りおきを」
「ご丁寧にどうも、まだ質問攻めにしたい奴らがそこにいるけど、それは良いのかい?」
テリアを囲んでいた集団はまだ集まったままこちらを眺めていた。彼はそちらに顔を向け、笑みを浮かべてから改めてこちらへと向き直る。
「君の話は聞いているよ。今年の入学試験で唯一の満点合格を成し遂げたって。ノーブルクラスに編入したら一度顔を合わせておきたいと思っていた」
「そりゃ……ご丁寧にどうも」
どうしよう、すごく礼儀正しいイケメンだ。
どこぞの短気なイケメンも見習って欲しいくらいだ。
「それと『四属性持ち』『アルファイア家のご令嬢』『複合属性使い』。なかなかに壮観な顔ぶれだね」
一応、アルフィたちに関しても多少は聞き及んでいるようだ。
「これから同じクラスに所属する者として、互いに研鑽していけたらと思っている。どうかよろしく頼みたい」
そう言って差し出されたテリアの手を、俺はとりあえず握り返した。さすがにここで手を叩き返すほどの無礼者ではないつもりだ。
ただ、手を握った感想としては。
「お前さん、ちゃんとご飯食べてる? 手が細すぎだろ」
「よく言われるよ。これでも三食毎日しっかりと食べてるんだけどな」
握った手を上下しながら、テリアは少し困ったように言ったのである。
どうも、ナカノムラです。
先日の『小説家になろう公式生放送』を見てくれた方はご存知かと思いますが。
昨年の九月に書籍化が頓挫してしまった『アブソリュート・ストライク』ですが。
なんと再び再書籍化が決定しました!
よっしゃぁぁぁぁぁぁ!!
幸いにもとある出版社さんからのお話が来まして、現在鋭意書籍化に向けての作業を行っている最中です。
現時点では『再書籍化』という事実だけでして、詳しい情報は後々に活動報告やあとがき。
それとナカノムラのツイッターにてご報告させていただく予定です。
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以上、ナカノムラでした。