第八十一話 発想は逆ですね──戦闘力は高いほうが良い
戦闘力……。
立ち会いの教師が決着を宣言し、決闘場の壇上を覆っていた『夢幻の結界』が解除される。
トムは『結界』のおかげで傷が全て〝無かったこと〟にされたが意識は戻らず、駆けつけた救護員の手で決闘場から運び出された。
勝者は『挑戦者』。トムはこの敗北によってノーブルクラスから脱落。一般クラスへの移籍となる。
規則では入れ替え戦に敗北した者は次の学期──今回なら二学期まではノーブルクラス在籍者への入れ替え戦は行えない。少なくとも彼は今学期中は一般クラスで過ごすことになる。それ以降は彼の頑張り次第だ。
ただ彼の場合、実技テストの成績はともかく筆記が壊滅的だったはず。入れ替え戦を挑むには試験の総合得点でノーブルクラスの成績圏内に収まっている必要があり、片一方が優秀でも駄目なのだ。彼は次回の試験で余程頑張らないと難しいか。
同じクラスメイトではあったが、それ以上の繋がりは無いにも等しい。薄情かも知れないが、俺の関心はトムよりも彼に勝利した挑戦者の方に向いていた。
──防御に特化した魔法使い。
人のことは全く言えない立場だが、かなり珍しい部類に入る。ただし、俺とは発想が真逆だ。
俺は防御魔法を自分なりに手を加えて攻撃も防御もこなせるように運用している。あの男は逆に、攻撃魔法を『防御』として扱える形に改造している。
魔法使いとしての実力は間違いなくノーブルクラスの中盤。余力を隠しているのは明らかなのでトップ陣に食い込むかもしれない。
『決闘』の余韻に醒めやらぬ中、実況席から落ち着いた風の放送が流れた。
『決着が付いたため、ここで情報の開示を行いたいと思います。今回の入れ替え戦に挑戦したのは『テリア・ウォルアクト』君。そして、トム君は敗北したために一般クラスへの降格、そしてテリア君がノーブルクラスへ編入することが決定しました』
ようやく挑戦者の名前が明かされたか。
テリア・ウォルアクト──その名前を聞いたカディナが顎に手を当て思い出すように言った。
「ウォルアクト……ガノアルクさんの実家ほどではないにしろ、実力ある水属性の一族だったはずです」
俺たちは一斉にラトスの方へと顔を向けた。四対八つの目を向けられて、ラトスは気圧されたように仰け反る。
少し咳払いをしてからラトスは気を取り直すように口を開く。
「た、確かにウォルアクト家の事は僕も多少は知ってるよ。同じ水属性の一族だしね」
貴族の中でも力関係は存在しているが、同じ属性の家同士だと特に序列的なものが生まれてくるからな。そういったところで自然と話は耳に入ってくるのだろう。
「とはいっても多少の域は出ないよ。積極的に交友関係を結んでいる相手ではないし、せいぜい社交パーティーでご当主の顔を少し拝見した程度だ。そのご子息の顔だって見たこと無いんだから」
けど、とラトスは続けた。
「噂は聞いたことある。ウォルアクト家の次男は優れた才能を持った優秀な魔法使いだってね」
「それがあのテリアって奴か」
「長男は年齢が二十ほどで既に領地でご当主の手伝いを任されているはずだから、おそらくは」
問題は、ラトスの耳にテリアという男がジーニアスに入学していた事実が伝わっていなかったことだ。もし一緒に入学していれば、間違いなくラトスの元に情報が届いていたはずだ。こいつは以前の取り巻きは遠ざかっているが、元からある貴族間の繋がりはあるみたいだからな。
そこでカディナがハッと顔を上げた。
「もしかして……ウッドロウさんが先程言いかけていたのは」
話を向けられたミュリエルはこくりと頷いた。
「さっき名前を聞いて確信した。一年生の名簿の中に『テリア・ウェルアクト』の名前は無かった」
「……さらりと言ったけど、おまえまさか一年生の名前を全部覚えてるのか?」
「──(コクリ)」
さも当然とばかりにミュリエルは頷き、アルフィが唖然とした。この大鉄球、普段は寝ぼけたような顔してるがその実はめちゃくちゃハイスペックな頭をしており、興味のある事への記憶力も抜群に良い。そそられない事柄に対しては致命的に物覚えが悪いし意識も向かないけどな。
ミュリエルは更に続けた。
「あの人は一般クラスの、それ以前にジーニアスの生徒でも無かった。なぜなら外部からの『途中編入生』だったから」
「「「あっ!」」」
俺たちは揃って合点がいった。
──ミュリエルの考察通り、直後の実況でテリアが外部からの途中編入者であることが明かされた。
アルフィは決闘場に残っているテリアを見ながら腕を組んだ。
「……編入制度は確かあるけど、いきなりノーブルクラス入りを希望するってのは、相当に自信が無ければできないだろ」
「その相当な自信があったんだろうね」
ラトスが神妙な顔つきで壇上の編入生を見据えていた。同じ水属性の使い手であるし、彼と同じようにノーブルクラスへの編入を狙っていたのだ。俺たちよりも感じる何かがあるのだろう。
テリアが決闘場から去って行く──と、その途中。不意に編入生──テリアが俺たちが座る側の観客席へと目を向ける。
彼は誰かを探すように視界を巡らせ、やがてとある一点を見つめると足を止めた。
「────ッ」
ラトスがびくりと肩を震わせた。
「どうしたラトス」
「いや……あの人がこっちを見ていたような気がして」
「確かにこっちの方を見ちゃいるが……気のせいなんじゃねぇの?」
この付近には学年屈指の戦闘力を持つ生徒が二人もいる。遠目からでもそちらに目が行くのも無理からぬ話だ。
──もっとも、正確には三人なのだが。
「……変なこと考えてない?」
「いんや、特になんも」
折角ご立派な破城槌を持っているというのに、残念な限りだ。
前書きの時点で戦闘力を察した人、かなりのナカノムラ通ですね。
寒い日が続いて滅入っている今日この頃。
ナカノムラはちょっとでも体調が微妙だと感じたら、お風呂はいって葛根湯飲んでマスクしながら寝てます。
みなさんも「ちょっと変じゃない?」とほんの少しでも違和感を感じたら風邪の対策をしておきましょう。
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以上、ナカノムラでした。
追記:なろうラジオの出演が近づいてきていてナカノムラはすでに緊張気味です。




