第七十六話 入れ替えが起こりそうです
人集りの中を探すと、丁度ラトスの姿を発見できた。近付くと、あちらも俺に気が付いたようだ。
「よぅラトス。結果は上々だったみたいだな」
「そうかな……もっと上の方を狙ってたんだけどね。……ウッドロウはアレ、絶対本気出してないよね」
「俺としちゃ、本気出してないのにきっちり点数を取ってる辺りが恐ろしい」
「同感だよ」
溜息を吐いてから肩を竦めるラトス。最初の頃に比べれば随分と気軽に会話が出来るようになったもんだ。
「君の方は、悔しいけどさすがとしか言い様がないね。やっぱり、入学式での主席合格はハッタリじゃ無かったみたいだね」
「おいおい、まだ疑ってたのかよ」
「実技試験の方はともかくとして、普段の態度を見て座学も優秀だなんて信じられないよ。……あれだけちゃらんぽらんなのに、ライトハートよりも成績が上とかおかしくない?」
「馬鹿にしてんのか?」
眼鏡掛けてる奴が成績優秀者とは限らないのと同じだ。世の中には学業諸々が壊滅的なのに射的と糸遊びに能力を極振りした眼鏡男子がいるかも知れないだろ。
「まさか。これでも賞賛しているつもりだよ」
「どこがだ……それよりも、今回の成績だったらノーブルクラスの圏内。当然、狙ってんだろ?」
「うん、今日か明日中にゼスト先生に申請するつもりだよ」
俺の問いかけに、ラトスは真剣な顔で頷いた。
先にも説明したが、ノーブルクラスの生徒は試験の総合成績が上位陣から外れれば免籍となる可能性が出てくる。ノーブルクラスと一般クラスの生徒が入れ替わるにはあと一つ必要な事がある。
それはノーブルクラスに在籍するのに足る成績を収めた生徒が、ノーブルクラスの成績最下位の生徒と闘いこれに勝利すること。
ゼストの話によれば、入れ替え戦は毎年必ず何回かは行われるらしい。だがそれは例年なら二学期の中間試験辺りから。早くても一学期の期末試験頃。授業が進むにつれて試験で出題される問題も難しくなり、それについて行けなくなる生徒が出てくるからだそうだが……今回はかなり早い部類に入るな。
そもそも、ラトスは入学試験で大きなミスさえしなければ、間違いなくノーブルクラス入りだったはずだ。実際に闘い、そしてその後の決闘を見てきた俺はそう確信している。元々実力を備えていたのだから、今回の試験の結果は当然とも言えた。
「いつまでも君たちの背中を追ってばかりもいられないからね。この辺りで少し距離をつめさせて貰うよ」
「おぅ、楽しみにしてる」
挑戦とも取れるラトスの言葉に俺はにやりと笑って応えた。 ──と、そんなとき唐突に俺の両目が背後から伸びてきた手によって塞がれた。
「だーれだ」
「……あの、何してるんですかねミュリエルさんよ」
「む、どうしてすぐにバレた」
だって声で分かるし。あと背中に二つの山が触れてるし。迫力は大鉄球だが感触は最高級の羽毛を積めた布団よりも柔らかい。
振り返ると、ちょっぴり不満顔のミュリエルがいる。
「私の成績、見た?」
「見たけど」
「ほぼど真ん中。凄いでしょ」
「狙ってたのかよ!? ってか、それ真面目に頑張ってる奴らに真正面から喧嘩売ってるからな!」
──ズビシッ!
「はうっ……」
腰に手を当てドヤ顔をするミュリエルの頭に手刀を叩き込んだ。
「ちなみに、別途に用意した解答用紙で答え合わせしたら筆記試験は満点だったようです」
頭を抑えて蹲るミュリエルの後ろには、腕を組んで無意識に巨大弩おっぱいを強調しながら眉間に少し皺を寄せてるカディナ。……形容詞が長い? 大事なところです。
「……いえ、彼女に文句を言っても仕方が無いですね。結局の所は、ミュリエル・ウッドロウに文句を抱かないほど完璧な成績を収めれば済む話ですから」
「いやいやいや、普通に文句言っても良いと思うぞこいつには」
最近になって話をする機会が増えて分かったが、カディナは少し真面目すぎる。俺ぐらい適当になれとは言わないが、ちょっとくらい肩の力を抜いた方が楽だろうに。
「ところで、アルフィ・ライトハートは一緒でないのですか?」
「あいつか。ほれ」
俺が指さした先をカディナとミュリエルが振り向くと「ああ」と諦め混じりの声が口から漏れた。
イケメンのアルフィ君は、他クラスの女子達に黄色い声を集めながら囲まれている。ノーブルクラスの女子がいないのは、同じクラスで普段から接しているので慣れたからだ。こういうファン的な輩というのは、普段会えない分いざ接したときの興奮具合が跳ね上がるのだろう。
総合成績の順位は三位とトップには手が届かなかったが、それでも他の生徒に比べれば輝かしい結果には違いない。
あれ、おかしいな。同じ輝かしい成績である一位の俺には黄色い声を掛けてくれる女子が近くにいないぞ? アルフィの周りにはあんなに沢山いるのに。
「……爆発すれば良いのに」
「あなたたちは本当に幼馴染みなんですか?」
「おお、無二の親友だ」
親友であることと、イケメン爆死推奨委員会であることは別だ。ちなみに会長は俺で会員も今のところ俺一人だけだ。随時会員募集中。
「アルフィは相変わらず。それに比べてリースは……残念」
「実はお前けっこうぐいぐい来る奴だな。俺もぐいぐいいっちゃうぞ」
「あうあうあうあう」
ミュリエルの頬を摑んでぐいぐいと引っ張ってやる。女子を相手にしているよりも、悪友と接しているような気分になる。
「あら、ガノアルクさんは?」
カディナの声に俺はラトスの方を向いたが、つい先ほどまでいた青髪の姿はそこにいなかった。
こちらに一言も伝えずに立ち去ったのだろうか。普段なら別れ言葉の一つでも残していく位には礼儀正しい奴なのに。
「……ガノアルク、なんだか不機嫌だった」
少しだけ赤くなった頬を擦りながらミュリエルがポツリと呟く。どうやら彼女はラトスの去り際を目撃していたようだ。
しかし不機嫌ねぇ。何がそんなに気に触ったんだろうか。ちょっとミュリエルとカディナに構い過ぎたからか?
どうにもカディナとミュリエルが人を呼ぶときの形式が曖昧になっていた感じがします。
前回まではともかく今話からはちゃんと決めていこうと思います。
カディナは基本的に他人を呼ぶ時はフルネームで。
ミュリエルはファミリーネーム。親しくなった相手に対しては個人名を呼ぶ形にします。
以前までのは気が向いたら修正していこうかな?
文章的な矛盾が生じたら直すけど、とりあえず前話まではこれに関しての修正はあまり考えていませんので悪しからず。