第六十七話 本気です──暴論でした
連続更新三日目(最後)です。
観客の視線を一身に集めながら、リースが動き出す。
「跳躍!」
反射力場を踏み抜き、反動でリースの躯が放物線を描きながら宙を舞う。
これまでリースは空中で更に跳躍を使って機動を変化させ、どうにかミュリエルに接近しようと試みていたが、ミュリエルはそれをことごとく読み切り、リースの魔力切れを狙って反撃を加えていた。
だが、ミュリエルは空中のリースへと手を向ける。その表情には明らかな焦りが含まれていた。
「ッ、炎──」
「『飛天加速』!!」
ミュリエルが魔法を投影する前に、リースの背中にある銀翼の一つが砕け散る。次の瞬間、砕け散った地点から銀光が吹き出し、彼の躯を一気にミュリエルに向けて弾き飛ばした。
「──ッ、地震波!」
強引に攻撃魔法の投影を中断したミュリエルは、地属性魔法で己の足下を鳴動させた。投影の破棄と新たな投影、双方を仕損じなかったのはまさに幸運としか言い様がなかった。
「『剛腕手甲』!!」
ミュリエルがその場を離れた直後に、リースの拳が彼女の立っていた場所に着弾。銀の装甲に覆われた腕は、轟音を立てながら決闘場の床を粉砕した。
辛うじて攻撃の範囲外に逃れたミュリエルであったが、その破壊力にゾッとした。もし今のが直撃していたら、骨折どころか肉体が弾けていても不思議ではない。
「徹甲弾!」
こみ上げてくる恐怖を理性の力で抑え込み、ミュリエルは貫通力のある爆炎魔法で反撃を試みる。
だが──。
「『要塞防壁』!」
リースが右手を前にかざすと、腕を覆っていた装甲が開かれるように展開し、面積を広げて彼の眼前にそびえ立つ。
徹甲弾が装甲に激突し炸裂するも、爆炎は装甲を貫通すること無くリースに届くことは無かった。
爆炎が晴れた後、元の大きさに戻った装甲を腕に纏わせながらリースは不敵な笑みを浮かべた。
「その魔法はもう通用しないぜ、ミュリエル」
「まさか……その腕を構成する一枚一枚が通常の防壁だというの!?」
六角形防壁は魔力の効率という点で考えれば通常の防壁に勝っている。ただその代償として構造的な欠陥、貫通力の強い魔法には弱いという欠点を孕んでいた。ミュリエルも底を突くことをリースの攻略手段としていた。
だが、通常の防壁は六角形防壁に勝る点があった。
純粋な強度だ。
六角形防壁は与えられた衝撃を防壁全体に拡散することで一点が崩壊することを防ぐのに対し、通常防壁は圧倒的な頑強度を誇っているのだ。
しかし、六角形構造を用いない防壁の魔力消費量は凄まじい。同じ階級の魔法を防ぐのに、攻撃魔法に比べて四倍以上の魔力を消費する。
それだけでは無い。
先ほどのリースは跳躍を使った直後に加速の魔法を使用した。あの魔法と跳躍の同時使用は、リースの本来持つ内包魔力では不可能であるはずだ。
「察しのいいお前なら、俺が何をしたのか理解できてるだろ」
試すようなリースの問いかけに、ミュリエルが緊張感を含んだ唾を飲み込み、答えた。
「……あの魔力砲という魔法は元々、攻撃魔法ではなかった。本来の目的は──」
「どういう事なのですかアルフィ・ライトハート!? 説明なさい、あなたは全て分かっているのでしょう!!」
「そうだよライトハート! あの二つの魔法って、同時には使用できないんじゃ無かったのか!?」
至近距離から発せられる別々の叫びに、アルフィは顔を顰めながら淡々と説明を始める。
「そもそも、だ。魔力砲も加速も、本来あいつが編み出した魔法の副産物だ」
──超化。
リースが本気を出すときに使う強化魔法である。
「原理は至って簡単だ。さっき見たとおり、反射力場で圧縮した膨大な量の魔力を体内に取り込むだけだ」
圧縮されている魔力はリースの魔力だけでは無い。空気中を漂う外素もろとも巻き込み、圧縮しているのだ。
圧縮された魔力を敵に向けて解放したのが『魔力砲』。
移動の推進力として使用するのが『加速』。
その二つの根幹をなすのが『超化』
圧縮された膨大な魔力を体内に取り込み、そのまま内素に転換する技法。
アルフィの口から語られた暴論じみた仕組みに、カディナは顔を引きつらせながら言った。
「……外素を属性関係なく無差別に取り込める、無属性魔法使いだから可能な芸当ですね」
「それだけじゃ無い。体内で魔力砲を炸裂させてるようなもんだからな」
「──って、それ普通に死んじゃうんじゃないかな!?」
ラトスが顔を蒼白にさせながら悲鳴を上げる。魔力砲を直に受けた経験もあり、その威力は文字通り骨身に染みている。あんな威力を体内で炸裂などさせたら、と考えると血の気が引く。
「爆炎魔法の直撃を受けても耐えきれる、リースの強靱な肉体があってこそ可能な荒技だ。危ないから絶対に真似するなよ」
「したくても出来ないよ!」
──だが、ここに来てアルフィが先ほど言っていた言葉の意味がラトスにも分かった。
落ち着きを取り戻してから、ラトスはギリッと歯噛みをした。
「……僕との決闘で、ローヴィスは完全に手加減をしていたんだね」
「少なくともリースにとっては本気だったよ」
ただ、本領を出していない状況での本気、と注釈が付いてしまう。慰めにはならない。
「彼の性格から察するに、闘う相手を侮辱するような人では無いんでしょうけど……」
「アレは本人なりに強くなるためにやってるんだとさ。やられている方にとっては舐めプレイ以外の何物でも無いけどな」
いわば、剣士が剣を使わずに徒手空拳で本気を出しているのと同じ。
あるいは当人にとってこれも鍛錬の一種であるが、闘っている相手に対しては侮辱に他ならない。
一番心底腹立たしく思っているのは、そんなハンデを背負った相手に本気を出させずに負けてしまった敗者に他ならなかった。
──三人が見守る中、闘いは最終局面を迎える。
前話で大体みんなわかってたよwww。
ただナカノムラは『速さが足りない』の方ばかり考えていたけど、まさかガン◯ムネタの方を連想していた人がいて驚いたよ。確かに手とか光っちゃう格闘系ガンダムとかいるもんね。それはそれでアリだとは思うけどね!!
技名はちょっと訂正するかもしれません。
いろいろな国の言葉が混ざっているのは気にしたら負け。
カッコイイ響きなら大方は許される──はず!!
今回、アルフィがリースの『超化』についてざっくりと説明しましたが、もちろんこれで全てではありません。少しずつ明らかにしていきます。