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第六話 入学式です──『奴』が現れました

作者「待たせたな!」

リース「またせすぎじゃい!!」

ボグンッ(抉りこむようなボディブロー)。

作者「ごふぉぁっ!? ……と、というわけで六話目です」

 

 少しばかりの月日が経過し、ジーニアス魔法学校はいよいよ入学式を迎えてた。国内から選ばれた将来を有望視された若者たちの新たなる門出だ。


(いよいよ学生パートに突入か)


 真新しい学生服を纏ったアルフィは、感慨深く思った。


 入学式が行われている講堂は学校の中で一番の大きさを持っており、人が普通に喋るだけでは隅々まで声が届かない。それでも式辞を述べている教職員の声がはっきりと聞こえるのは、壇上の演台に備え付けられている『器具』のおかげだ。風の属性を秘めた魔術具で、受け取った声を遠方にまで届かせる効果がある。


(見た目はそのまんま『マイク』だよな)


 アルフィかれを除けばおそらく意味が通らないであろう言葉を思い浮かべつつ、入学式は進行していく。


 今は新入生の各分野を担当する教師の説明だ。最初に壇上に上がったのは、アルフィをこの学校へといざなった男性教師だった。


『水属性の担当になるウェリアスです。あまり荒事は得意では無いので、攻撃魔法に関してはあまりみなさんの力になれないかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします』


 少し気弱そうな自己紹介に、新入生の何人かがウェリアスをバカにするような視線を向けて、忍び笑いをしていた。現在の主流では、攻撃魔法をいかに上手に操れるかが魔法使いの大きなステータスとなっている。魔法使い同士での戦闘では、魔法の修得数とその威力が勝敗の大きな要因となっているからだ。中には、攻撃魔法を扱えない者は魔法使いですらない、と言って憚らない者さえいる始末だ。今笑った者は、おそらくその認識を強く持っているのだろう。


(ふんっ、馬鹿どもが……)


 奇しくも笑った一人の近くにいたアルフィは、その者の狭窄さに呆れ果てていた。


 ウェリアスは学校長から直々に人材発掘スカウトの役割を言い渡されるほどの人物だ。その教師の能力が並であるはずがない。


 アルフィは特待生扱いであり、入学試験は免除されていた。ただし、現段階の知識、実力を把握するために筆記、実技ともに試験と同じ形式のものを受けている。結果として、成績は最上級の結果を得ることができていた。ただ惜しむらくは双方ともに満点には届かずだった。筆記ではそれまで習った事に関しては全て答えられたが、習っていない部分までは答えきれずに数問の間違い。実技では「荒事は苦手」と言ってのけたウェリアスを相手に及ばずじまい。四属性を操るアルフィは、水属性だけを操るウェリアスに破れたのだ。

 

 ただし、ウェリアスに負けた結果を『悔しい』とは思っていても、それは彼個人に対する話であって『水属性だけ』という点や『攻撃魔法が苦手』という事柄に関してはそれほど憤りは感じていなかった。


 何しろ四属性の魔法を操るアルフィは、無属性でさらに『防御魔法』のみを駆使して戦う同世代の少年に負け越しているのだから。


 あの幼馴染みで腐れ縁の悪友は極めて特殊な件だとしても、属性や魔法の数がその人物の全てを評価しているわけではないと、アルフィは身に染みて理解していた。

 

 教師の紹介はさらに続いていく、


『ゼストだ。一応は風属性の担当をやってる。俺もウェリアス先生と同じであんまり戦闘は好きじゃない・・・・・・んでな。どちらかっつーと理論を研究すんのが好きだから、興味のある奴は俺の研究室に来い。以上』


 他の教師に比べてかなりだらしない印象の男性だ。


 最後に女性の教師が壇上にあがった。


『……火属性を担当するヒュリアよ。以後よろしく』


 それだけ言って、彼女はすぐさま壇上から降りてしまった。他の教師に比べて明らかに短すぎる自己紹介に、新入生たちはざわめいた。おそらくはかなりの美女であるはずなのだが、美しさよりも目元に深く刻まれた隈と生気を失っている肌の色のほうが際だっていた。


 アルフィはその様子に何となく心当たりがあった。


(……あれは、プライドを真正面から叩き潰された者の顔だな)


 実体験・・・があるだけに、アルフィはヒュリアと言う女教師の心境を、表情から察することができた。おそらく、彼女の『芯』となっていたであろう誇りプライドが微塵に粉砕されたのだろう。あの状態になると、培ってきた年月と熱意があればあるほど立ち直るのに時間が掛かる。


 ……嫌な予感を覚えた。


 背筋がぶるりと震える。


 教師の自己紹介が終わると、次に新入生の代表者が答辞を述べる段階に移る。名を呼ばれて壇上に上がったのは、翡翠色の長い髪をした女子だ。


 カディナ・アルファイア。


 直前で生気のない様子だったヒュリアとは対照的に、浮かべている笑みには自信が満ちあふれていた。


 彼女の名前は既に新入生たちの間では有名だった。何しろ、今期の入学試験を筆記、実技共にほとんど・・・・満点に近い点数で合格したのだから。実技はやはり教師相手に勝利するのは難しかったようだが、筆記に至っては掛け値無しの満点である。また、彼女の実家は国内でも有数の実力ある貴族。加えるならば、天は彼女に一つも二つも与えたのか、ずば抜けた美貌と容姿の持ち主でもあった。正直に言うと「本当に同じ歳か?」という程だ。特に一部分の自己主張が激しすぎるが、そこを指摘するのは紳士ではない。


(……当面の目標は、とりあえずあの女を追い抜くことだ)


 筆記試験で満点を取っていれば、あの壇上に上っていたのは彼女ではなく己だったはずだ。アルフィは悔しい気持ちを胸の奥で噛みしめていた。


 入学式はいよいよ最後の段階、学校長からの挨拶だ。


 この国で三指に入る大魔法使いであり、長命種族の代表格であるエルフ族。地属性魔法の極みに至る人物。


 ジーニアス魔法学校校長、『ディスト・ユーベルグ』。


 種族の特長である長い耳に、齢百年を越えているとは思えない端正な顔立ち。女性はおろか男性すら魅了しそうな風貌の彼が、壇上の上でゆっくりと口を開いた、


『まずは新入生の諸君、我がジーニアス魔法学校へようこそ。我ら教師一同は君たちの入学を心から歓迎しよう』


 心に響きわたるような声に、音を立てることすら無礼とばかりに講堂の中は静まりかえっていた。


『さて、長々とした話は私の好むところではないし、君たちも退屈してしまうだろう。なので、私が今日この席で君たちに贈りたい言葉は手短にしておこうか』


 学校長は一度目を閉じ、そして言った。


『研鑽し、考え、周囲の全てから学びなさい。目の前の現実を受け止め、肯定しなさい。魔法とは可能性の塊です。あなたたちの未来と同じく、あきらめない限り魔法への道は無限に広がるのですから』


 彼はそう言ってから、新入生たちの顔を見渡した。


 誰もが彼の言葉に聞き入っていた。


 ディストはその反応に満足したのか、笑みを浮かべながらうなずいた。


『……最後に。今年の入学試験で『最優秀成績』を納めた生徒に、ジーニアス魔法学校に入学するにあたっての抱負を語って貰いましょう』


 え? という空気が講堂の中に漂った。入学試験の最優秀成績者はカディナであり、彼女はもう既に壇上に上がった後だ。彼女がもう一度何かを喋って貰うのだろうか。アルフィを含む講堂にいるほとんどの者が一斉に彼女へ視線を向けたが、カディナは状況が飲み込めていないのか呆然としているようだ。


「では、お願いします」


 そういって学校長が壇上から降りると、代わりに登場したのはーー。


『えーっと、ご紹介に預かりましたリース・ローヴィスです。父は腕の良い酒職人で、母は専業主婦。妹が一人いる平民家庭の長男。座右の銘は『人生は楽しんだ者勝ち』です』



 …………………………。



 ……………………なっ!?


「何でおまえがそこにいるんだぁぁぁぁぁぁぁっっ!?!!?」


 最低でも長期休暇がある数ヶ月後に帰省までは顔を合わせないだろうと思っていた『宿敵ゆうじん』の登場に、公の場でありながらアルフィは壇上の者を指さしながら絶叫した。カディナに集まっていた視線が今度はそちらに集中するが、本人はそれどころではなかった。


「お、アルフィ。半月ぶりぐらいだな。元気してた?」

「お前のせいでもう色々と一杯一杯だよっ!」


 アルフィは整列した生徒たちの間を強引に抜け出すと、壇上のリースに詰め寄りその胸ぐらを掴み上げた。


「おいこら、今度は何をヤラカした。え? 今度は何をしでかしたんだっ!?」

「まぁまぁ待てや。人を問題事のカリスマみたいに言うなよ。……照れるじゃねぇか」


 それは誰も褒めてねぇよ、と講堂内にいた人間の心が一つになった。


「落ち着けよアルフィ。今は入学式の最中だ。説明だったら後でいくらでもしてやるからちょっと手を離してくれよ。……実は結構苦しくなってきた」

「……本当にこのまま絞め殺してやろうかこの男」


 言葉に殺気を含ませながらも、アルフィは渋々と掴んでいた胸元を解放した。リースは皺になった制服を手で叩いてならす。


 ちなみにこの間、学校長は苦笑を、ウェリアスは驚きに目を見開き、ヒュリアはこの世の終わりとばかりに頭を抱え、ゼストにいたっては腹を抱えて大爆笑していた。


『……どこぞのイケメンが乱入してきたので失礼しました。爆発すればいいのに「いきなりだなおい!」。だからちょっとだけ静かにしてくれってば……話がおわらないじゃんよ』

 

 困ったちゃんを見るような視線を向けられ、イケメンアルフィは肩を震わせながら、だが入学式が進まなくなるのを嫌って押し黙った。


『どこまで話したっけか……。聞くところによると、俺の入学試験の結果は筆記、実技ともに『満点』だったようです。いやぁ、実技はともかく・・・・・・・筆記まで満点取れるとは思って無かったわ〜』


 ーーヒュリア先生っ、落ち着いてください! 誰かヒュリア先生を保健室にお連れしろ! 頭を抱えて絶叫してらっしゃる!


 女性教師は周囲にいた同僚に連れられて講堂から退出していった。


 その一部始終を目撃したアルフィは確信に至る。


 こいつリースの実技試験を担当したのは彼女だったのだろう。ご愁傷様、としか言いようがなかった。


 直後、凄まじい殺気を感じ取った。悲鳴を上げそうになるのをどうにか堪えて気配の元に視線を目を向ければ。


 新入生の代表者様が凄まじい形相でこちらをーー正確にはリースの方をにらみつけていた。直接ではなく、さらにはこの距離ですら明確に感じる程の殺気。近くにいる新入生は涙目でちびりそうな悲惨な状況に追い込まれていた。


 それだけで人を殺せそうな視線を向けられながらも、リースは調子を全く崩さないで続けた。この図太さを尊敬したいような遠慮したいような、少し迷うアルフィである。


「結果として、今日この席を預かることになったわけだが、どうせなので宣言させて貰おう」


 へらへらした笑みから、大胆不敵なそれに表情を変貌させる。


 彼は人差し指の一本を立てると、天を指し示すように頭上に掲げ、大きく言い放った。



『俺はこの学校で『最強』を目指す!


 最終的な将来の目標は『防御魔法で天下取り』だ!


 平民が生意気言ってるのが許せない輩は掛かってこいや!


 まとめて返り討ちにするから!


 では、以後よろしくぅぅっ!!』



 アルフィは、数秒後に起こるであろう大騒ぎブーイングを予期し、深い深いため息を吐くのであった。

前書きの寸劇は深く考えないでください。唐突に思いついただけなので。……続きませんよ?


執筆には関係ないのですが、日常でちょっといいことがあったので、そのハイテンションを使って書き上げました。


遅くなりましたが、総合評価が7000に到達しました。ありがとうございます。感想も多くいただいて感激でございます。毎回楽しみにしています。


『カンナのカンナ 〜間違いで召喚された俺のシナリオブレイカーな英雄伝説〜』

http://ncode.syosetu.com/n3877cq/

↑ こっちもよろしくお願いします!

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大賢者pop
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[良い点] リースの拳をまともに受けて普通に喋れる作者スゲェェェェェ!
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