第六十六話 輝きます──勝負します
連続投稿二日目。
タイトルでネタが分かった人は、ある意味同志だなこれ。
状況は圧倒的に優位に進んでいながら、ミュリエルは見た目ほどの余裕を保ってはいなかった。
流れは確実にミュリエル側にあるものの、一手を間違えれば次の瞬間には簡単にひっくり返ることを理解していたからだ。
リースの特性である『魔力の瞬間回復』に関しては、実はさほど脅威を抱いていなかった。無論、驚愕に値する能力であるのは否定しようが無く、もしかしたら無属性魔法使いに対する見方がひっくり返る可能性もある。
残念ながら、リースの内包魔力の低さが致命的に足を引っ張っていた。低い魔力量のせいで、リースが連続で魔法を投影できる数には限度が生じている。おかげでこうして優位な立ち位置にいられるわけだが、彼が平凡な魔法使い程度の魔力さえ有していればと今は敵であったが心底悔やまれる。
厄介なのは、やはりリースの高い身体能力。
まさか徹甲弾の直撃を受けながらもリースが立ち上がったときは本当に驚いた。〝貫通〟の能力に偏っているだけで威力は爆裂よりも幾分か劣る。それでも生身の人間相手であれば意識を刈り取るには十分すぎる破壊力を持っていたはずなのだ。
その上、当初よりかは鈍っていたが、相変わらずの素早さでミュリエルの魔法が直撃するのだけは避けている。驚きを通り越して呆れるレベルのタフネスぶりだ。
(どんな風に鍛え上がればあんな体力の化け物ができあがるのかしら?)
この決闘が終わった後、リースに問い質してみよう。
だが、今集中すべきは目の前の闘いだ。
ミュリエルの見立てでは、八対二の割合で彼女が有利。直撃こそ避けてはいるが、爆炎魔法の効果範囲は広い。完全に回避は出来ておらず、リースの体力は徐々に削れてきている。
こちらも魔力をかなり消費しているが、それでもまだ半分近くは残量がある。一手を間違えれば手痛い反撃を喰らうのは間違いないが、逆を言えば一手も間違わなければこちらの勝利は固い。
どうやらリースは一発逆転の手を狙っているようだ。
右手の中に銀の光が集まっている──魔力の圧縮による魔力砲だ。防壁の投影を左手だけに限定し、右腕にずっと魔力を集め続けている。
おそらく、限界まで溜めた魔力をミュリエルの至近距離で解放し、撃ち出される爆炎ごとミュリエルを吹き飛ばそうと言う算段だろう。
ならば、近づけさせなければいいだけのこと。強引に接近しようものなら、それこそ特大の爆炎魔法を見舞うだけのこと。
──だが、ミュリエルの中には小さな懸念が残っていた。
不安、と言い換えても良いだろう。
(……この程度で、本当に四属性持ちに勝てる実力があるのかしら)
おそらく、本人たちの様子から察するに、リースがアルフィに勝ちを得ているのは本当だろう。だが、勝ち続けるほどの能力を持っているかと考えるとどうにも腑に落ちない。
そしてもう一つの懸念が、リースの顔だ。
顔は痛みで引きつっており、躯もボロボロだ。対してこちらはほぼ無傷であり魔力も半分とは言え残っている。
リースは破天荒ではあるが愚鈍では無い。状況の分析は正確に出来ているはずだ。
なのに、その表情には一切の諦めが無く、むしろ時を置くごとに闘志を増しているかのようだ。
それが、どうしても強がりには見えない。
(……まさか──まだ見落としている部分がある?)
その可能性に行き着いたとき、リースが不意に足を止めた。
──右手には、眩い輝きが宿っている。
「ミュリエル、正直悪かった!」
突然の謝罪を、彼女は理解出来なかった。なにに対して謝っているのか、皆目見当も付かなかった。
「お前のことを完全に舐めてた! まさかアルフィ以外でここまで出来る奴が同世代にいるなんて思ってなかった!」
──右手には、魔力砲の輝きが宿っている。
言葉の意味は理解できず、だがそれとは別にミュリエルの思考は加速していた。
先ほどから感じていた懸念が大きな不安を呼び、彼女の胸中に広がり始めていた。
──右手には、『魔力』の輝きが宿っている。
何かを……見落としている。
確信に近いものを抱きながら、その正体に辿り着かない。
「だから──ここからは本気だ」
──右手には、収束した莫大な量の魔力が宿っている!
「いくぜ───ッ!」
リースが、右腕を振りかぶり。
その輝きを自身の胸に叩き込んだ。
誰もがリースの行動の意図が分からなかった。
何せ、攻撃魔法を自身に叩き込んだのだ。
自棄になって自滅したのかとすら思った。それ以外に考えつかない。闘っているミュリエルもそうであったし、闘いの推移を見守っている学園長ですらそうだ。
だが、二人だけ全く違う反応を見せていた。
「よくぞリースに『アレ』を使わせた」
──大賢者はほくそ笑む。
「まったく、ようやく本気になったか」
──アルフィは呆れる。
そして──
「『超化』!!」
──ドンッと、リースの全身から限界まで抑えつけていたものが決壊したかのように銀の輝きが溢れ出す。
ミュリエルは、輝きが何なのかを知っていた。
「まさか──魔光現象!?」
端的に言ってしまえば、超高濃度の魔力が発する光。
一流の魔法使いが本気を出した場合、この『魔光』が漏れ出す。ミュリエル自身、師である学校長が魔光を発する場面を見たことはあった。珍しくはあったが、四属性持ちや複合属性と比べればまだ希有な現象では無い。
だが、リースの保有する魔力は平均的な魔法使いすら下回るほど。魔光を発するほどの魔力は持っていないはず。
──先ほどまでは。
ようやく、ミュリエルは己の見落としに気が付いた。
そうなのだ。
魔光そのものは実はずっとミュリエルは目にしていた。ただ、当たり前の様にリースが使っていたので気が付かなかった。
リースが魔力砲や加速を使用していた時に発せられていた銀の輝き。
アレはまさしく、魔光に他ならなかった。
──あの魔法の本質は、攻撃や移動では無かったのだと、ようやく理解できた。
ミュリエルが言葉を失う中、リースから発せられていた銀の光──魔光の勢いは衰えていく。だがそれは魔力が減少したわけでは無い。
リースの背後。ちょうど加速を使用したときに反射が出現するような位置に、銀の光が収束。菱形上をした銀色の物体が三枚出現した。
まるで無機質の『翼』にも見えた。
変化は止まらない。
彼の右腕にやはり光が集まると、半透明の装甲が彼の右腕を覆う。それらが形を成すと、無骨すぎる一回り大きな腕が形成された。
銀の翼と腕を得たリースが叫ぶ
「いくぞ、ミュリエル・ウッドロウ! 尋常に勝負といこうじゃないか!」
次からはガチバトルだぜ!
今回初登場のリース本気モード。
元ネタは『もっと輝けぇぇぇぇぇ!』なあの作品。
知らない? そんなあなたは『速さが足りない』!!
本気モードの説明は次話にある程度するのでお待ち下さい。