第五十九話 いつの間にか仲良しです──本人たちは気がついていないようです
前回のあとがきにも書きましたが
書籍化しちゃうんですよこの作品!!
動揺が走る観客席の中で、比較的冷静に決闘を観戦しているものもいた。前もってリースからミュリエルが二属性持ちであることを知らされていたアルフィもその一人。そして、彼の側で観戦していたラトスとカディナも同じであった。
「……凄いね。ローヴィスの接近を上手い具合に躱してる」
「おそらく、これまで行われてきた決闘の中で、リース・ローヴィスとアルフィ・ライトハートを除けば彼女が一番の巧妙者でしょうね」
多少の驚きはあったものの、二人の関心はミュリエルが二属性持ちであったことよりも、それを操りリースを翻弄する魔法の練度に集中していた。
どちらも、これまでの既成概念を覆すようなリースの魔法を攻略しようと、常日頃に頭を悩ませている。その為か、二属性持ち程度のことなら短時間で受け入れられる土台が出来上がっていた。
「ねぇアルフィ・ライトハート。この決闘、貴方はどう見ますか?」
「どう、と聞かれてもな。まだ始まったばかりでなんとも」
カディナに問われたアルフィは言葉に迷う。
ただ──、と彼は付け足す。
「お前ら二人の言うとおり、ミュリエルの練度は一年生の中ではトップクラスだろうな。二つの属性をしっかりと操り、制御している。下手すれば両方とも投影が曖昧になって発動すらままならないだろうに」
「僕は水属性だけだから彼女の扱う属性とは無縁だけど、具体的にはどのくらい難しいんだい? 困難であるのは容易に想像できるけど」
カディナに続けてラトスが更に問いかけると、アルフィは顎に手を当てて唸った。
「明確な言葉で説明するのは難しいな。右手で料理と作りながら左手で勉強する? いや、右手で数学を解きながら左手で小説を書く?」
「とりあえず、言葉で言い表せないくらいに難しいのは理解できた」
「……私としては、そんな難しいことを四つ同時に行っている貴方に戦慄しますね」
「リースの奴によく言われるな」
『彼にだけは言われたくは無いだろうな』と思うと同時に、『彼の言い分ももっともだ』と複雑な感想を抱く二人である。
結局、どちらも常識外れな魔法使いという結論に至る。
「ところで、お前たちそんなに仲良かったっけ」
普通に会話しているラトスとカディナに、疑問を抱くアルフィ。少し前までは余所余所しい感じがあったはずなのに、いつの間にか気さくに言葉を交わしている。
「言われてみればそうですね。何ででしょうか」
「いや、僕に言われても。……でも、前ほど話しにくい印象は無くなったかな」
互いに顔を見合わせ、揃って首を傾げる二人。傍目から見れば美男と美女が同じ動作をしており、非常に〝絵になる〟光景だった。しかし、それを見るアルフィも首を傾げた。
(おかしいな。男女的な色恋沙汰の気配を欠片も感じない)
仲の良い同性友達の一シーンを見ているような気分だった。
確かにラトスは男子にしては華奢であり、どちらかと言えば女性的な顔立ち。アルフィは、ラトスが女顔であることを理由に己の感じた違和感を納得させた。
──この場にリースがいれば、盛大に顔を顰めていたに違いないが、彼は決闘場の中央で闘っている最中であった。
それはともかく、アルフィは決闘場での闘いに意識を戻した。
リースは跳躍を駆使しながら何度も接近戦を挑もうとするが、その都度ミュリエルに出鼻を挫かれている。加速は初動を潰されることを嫌ってか、開幕に一度使って以降は投影していない。ただミュリエルも、どうにかリースの体勢を崩して追撃を行うが、彼の防壁に阻まれて有効打を与えられていなかった。
戦況は五分五分。どちら共に相手へ目立ったダメージを与えられていなかった。強いて言えば初手でミュリエルが使った炎壁によって、リースが軽く炙られた程度だ。
リースの決闘でこれほどまで伯仲した闘いはなかった。観客席の生徒たちは固唾を呑んで戦況を見守る。
ただ一人、アルフィだけが険しい視線で闘いを見ていた。
「ライトハート、何か気になる点でもあるの? さっき分からないって言った割に、今は難しい顔をしているけど」
「ちょっと、な」
ラトスの言葉に返答を濁すアルフィ。
──その内心には懸念があった。
要領を得ないアルフィの言葉を疑問に思いつつ、ラトスが決闘に視線を戻す。
リースは跳躍を使って急接近。ミュリエルはそれを大地戦槍で迎え撃つと、リースは更に跳躍を使って回避。更にもう一度跳躍を使って軌道を変え、ミュリエルへと突撃。だが、ミュリエルはそれを地属性魔法で迎え撃ちリースの勢いを相殺。続けて火属性魔法でリースを吹き飛ばし間合いを外す。
──その時になって、ラトスは違和感を覚えた。
「……あれ?」
「どうかしましたか?」
「いや、どうかしたわけじゃないんだけど……」
漠然とした違和感に、ラトスはしばらく闘いの推移を見守る。最初はただ単に白熱した闘いだと思っていたが、少し視点を変えて眺めているとあることに気が付いた。
「──最初と闘いの流れが同じ?」
リースが始めに跳躍使ってからミュリエルが火属性魔法で彼を吹き飛ばすまで。その中間行程に大きく差異はあれど、一連の攻防における最初と最後の流れが決闘の開始に見せた攻防とほとんど同じなのだ。
偶然の一言で片付けられない違和感だった。
「気が付いたか」
「──ッ! ライトハート君も?」
「当たり前だろ。俺がどれだけリースと手合わせしたと思ってんだ」
ラトスの疑問にアルフィが険しい表情で答えた。
「ミュリエルの奴。おそらく自分の立てた仮説を検証するために、あえて同じ状況を作ってる。そしてリースも、それを理解した上で付き合ってる」
「ど、どういうことですか?」
「……ここまで来たら、お前らには教えておいてやる。多分、この決闘でバレちまうだろうからな」
ラトスとカディナの疑問を抱いた視線を受け、アルフィが小さく息を吐いた。
「疑問に思ったことはないか? リースがどれだけ魔法を投影しても魔力切れを起こさない事に」
──そして、アルフィの口から語られたリースの『特性』は、二人の既成概念を覆すような内容であった。
次回とその次あたりで、リースの『特性』や魔法の『弱点』を明かしていく予定です。
お楽しみに。




