第五十三話 本音を話します──『無』限の可能性
「……良い機会です。前からあなたに聞いておきたい事がありました」
カディナは真剣な眼差しをこちらに向けてきた。それを受け、俺も真面目に答えようと少し気持ちを切り替えた。
「朝食の席でアルフィ・ライトハートの言っていたことは間違いではありません。今の私では、あなたに勝つことはできないでしょう。それどころか、序列的には私の下であるはずのアルフィ・ライトハートにも及ぶかどうか」
彼女も、これまで幾度となく俺やアルフィが同級生を相手に決闘場で闘う姿を見てきたのだろう。整った顔立ちが悔しげに小さく歪む。
「でも、だからこそ分からない。どうして無属性しか扱えないあなたが、アルフィ・ライトハートと同等かそれ以上の実力を得られたのか。なにがあなたをそこまで駆り立てたのか。なにか大きな目的があったのではなかったのですか?」
正直に言えば拍子抜けな質問だった。ただ、カディナにとっては真剣そのものであるのは分かっていたので、俺は小さく口の端を小さく吊り上げるだけに留めた。
──あと、いちいち人の名前をフルネームで呼ぶの疲れないのかな、とかも思ったがもちろん口にしない。
「それを聞いてどうするよ。もし俺に壮大な野望があったとして、お前はどうするつもりだ?」
「いえ、純粋に疑問に思っただけです。非効率で役立たずとされていた無属性魔法をあそこまで昇華させるには、何かしらの大きな目的があるとしか考えられません。ましてや平民が魔法使いとしての遙かな高みを目指そうと考えるなら尚更です」
非常に真面目なカディナの疑問に、今度は堪えきれずに笑い声を上げてしまった。馬鹿にされたと思ったのか顔を赤らめるカディナだったが、流石に許して欲しい。
「な、なにが可笑しいのですか!?」
「いや、悪い。お前を侮辱するつもりで笑ったわけじゃないんだ」
一頻りに笑い声を上げてから、俺は呼吸を整えてカディナの方を向いた。
「ただ期待に添えなくて悪いけど、俺はお前の考えているような特別な目的を持ってるわけじゃない」
言ったとおり、期待通りの答えではないだろうが、それでも彼女に俺の中にある〝芯〟を伝える。
「俺は、無属性魔法が好きなんだ」
「────?」
何を言っているんだこいつ、という顔だったが、俺は構わずに続けた。
「割と勘違いされやすいんだが、俺は自分が無属性の魔法使いであることに負い目を感じたことは一度たりともない」
むしろ俺は自分が無属性の魔法使いであることに誇りすら感じている。
……誇りは言い過ぎかもしれないが、少なくとも〝無属性〟であることを悔やんだことはない。
「お前の言うとおり無属性の魔法使いは『滅多にいない落ちこぼれ』って世間では言われてる。けど、落ちこぼれのままなのはその世間様が大本の原因だ」
本当は大賢者からの受け売りだが、俺も同じ意見だった。
数え切れないほどの試行錯誤が積み重なって、今の魔法が成り立っている。魔法陣の一つを取り出しても、そこには先人たちの叡智が詰まっている。
「魔法の才能を有しているか生業にしている奴のほとんどは、属性魔法の使い手だ。で、使う奴が多ければ多いほど、検証される機会ってのは多くなる。逆もまた然りだ」
無属性魔法は誰にでも扱える魔法だが、無属性魔法を専門に扱っている魔法使いは滅多にいないだろう。少なくとも、俺は俺以外の無属性魔法使いを見たことがない。
仮に使い手がいたとしても、自ら名乗るでることはないに違いない。何せ、無属性魔法使いは世間では『役立たず』と呼ばれているからだ。
扱う者が少なく、表舞台に立つ気概すら持てない。ゆえに、属性魔法に比べて試行錯誤の数が圧倒的に少ない。これこそが無属性魔法が『役立たず』から抜け出せない最大の要因だ。
「どいつもこいつも無属性魔法は〝非効率〟って点にだけ目がいって、その可能性には見向きもしない。俺から言わせてもらえば、むしろ無属性は〝可能性〟の塊って考えているさ」
「無属性魔法の……可能性?」
「考えてもみろ。防壁の一つとっても、応用の次第でどれだけ使い道があるよ」
「……あ」
最初こそ首を傾げたカディナだったが、俺の言わんとしたことを理解してハッとなった。
魔力消費の効率化を計った『六角形防壁』。周囲に展開し広域を守護する『広域結界』。手に纏わせ打撃力を底上げする『手甲』。
防壁だけでもこれほどの応用幅があるし、このほかにもまだまだ手数があるし、防壁に限った話ではない。反射にだって『魔力砲』や『跳躍』が存在している。
無属性魔法というのは構造が単純であり、だからこそ創意工夫の幅が属性魔法よりも広い。
──こんなに面白い魔法が他にあるだろうか。
「俺にとって、魔法ってのは最高の玩具だ。そいつで、どれだけ上り詰める事ができるのかが知りたいのさ。
──でもって、世間様では役立たずとされている俺の好きな無属性魔法で最強になれたら、それこそ最高に愉快で痛快な話になるじゃないか」
最強になりたいというよりかは、好きな存在が一番輝ける存在になってほしい。リースが最強を目指す切っ掛けの大元はこれに近いと思います。もちろん、純粋に闘いを楽しんでいる部分もありますし、強くなることへの渇望もあります。
あとは『役立たずのものが実は最強だったら面白くない?』とか考えてるでしょう。
短期連載作品
『最弱無敵のコンダクター(旧題 : 導く者は吸血の姫君と踊る)』を最近投稿したので、そちらもどうぞ。
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