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大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜  作者: ナカノムラアヤスケ
第四の部 学園生活満喫中のお話
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第三十九話 ハァハァ男子にも歴史あり──自業自得です

今回は第三者視点。


「この俺が帰るというのに見送りの一つも無しか。くそっ」


 留置所で一週間の謹慎──もはや拘留であるが──生活を終えて、ハァハァ男子ことバルサ・アモスは人気ひとけの無い道を歩いていた。


 幼少の頃から名家の次男として生まれ育った彼にとって、堅い寝床に薄い毛布、それと机しか無い狭い空間で過ごすなど考えられなかった。


 普通の人間であってもそのような部屋に一週間閉じ込められれば相当の苦痛を感じるだろう。贅沢に慣れていた貴族の子息ともなれば尚更だ。


 加えて、町中で許可無く魔法を放ち、一般人に被害を及ぼしかけた事への処罰として、一週間の謹慎(拘留)生活の間に大量の反省文を書かなければならなかった。これを怠れば謹慎(拘留)期間が加算されるという脅し付き。サボるわけにもいかず、バルサは際限ない精神的苦痛を味わいながらも反省文を書き終えた。


 リースたちが思ったように、いくつかの減刑要因があったとしても甘い処置には違いなかった。ただ、これが初犯であったことが最大の原因だ。二度目に同じ事を仕出かせば問答無用に退学処分になると、学校の教師に釘を刺された。バルサの実家であるアモス家にも話は伝わっておりこの処分には同意していた。


「どれもこれも、全部あの無属性野郎のせいだ……」


 どれもこれも、終始バルサの自業自得なのであるが、本人にとって諸悪の根源は無属性リースに他ならなかった。


 そもそものケチがつき始めたのは、入学式の時からだ。


 アモス家はアルファイア家、ガノアルク家ほどでは無いが、魔法使いの間ではそれなりに名の通っている貴族。次期当主であるバルサの兄もバルサと同じくジーニアス魔法学校に在籍しており、現在は三年生のノーブルクラスに在籍している。


 小さな嫉妬はもちろんあったが、それ以上に兄への強い憧憬を抱いていた。バルサは優秀な兄の兄弟として恥じぬ存在であろうとし、アモス家の一員であることの誇りを胸にジーニアス魔法学校に入学した。


 叶うことなら主席合格を果たしたかったが、今年は運が悪かったとしか言い様がない。


 何せ同年代にはカディナとアルフィがいたのだから。


 通っていた中等学校こそ違ったが、カディナの優秀さは貴族の子息令嬢の間では有名だった。


 アルフィの噂は、入学前の生徒たちにも知れ渡っていた。歴史的に希少な四属性持ち。教師が直々にスカウトをしに行くほどの逸材だ。


 主席合格を目指していたものの、二人の存在もありバルサは主席合格は無理であろうと半ば予想していた。それでも力を尽くして入学試験に臨んだが、結果はやはり一歩及ばず。それでもノーブルクラスの最上位に位置する成績を得ていた。


 ところが、だ。


 予想に反し、カディナやアルフィでは無くどこぞのしれない無属性の平民リースが主席合格を果たしていた。しかも、入学式の席で新入生相手に大それた宣言。


 ラトスもカディナも当初は無属性魔法に対する偏見は強かった。それはバルサも同じであり、むしろそこに平民という要素も加わったことで、リースへの憤りは二人以上のものを感じていた。


 バルサの感情は特別なことではなかった。


 この世界では無属性──とりわけ防御魔法の地位は相当に低い。無属性魔法に攻撃能力を有した魔法はほとんど存在せず、あったとしても属性魔法に比べて遙かに劣っていた。そして、防御する暇があったら一つでも多くの攻撃をたたき込む事が魔法使いたちの間で常識だったからだ。


 また、貴族と平民では魔法使いの才能に最も強く影響している『血』の濃さがまるで違う。貴族たちは才能ある魔法使い同士の結婚を繰り返しており、一方平民はそんなことを関係無しに婚姻を繰り返している。どちらの子供がより魔法使いとしての色濃い血筋を受け継いでいるかは歴然。


 魔法使いとしての血を受け継ぐ自負のある貴族が、平民出身の魔法使いに強い優越感プライドを感じるのは自然のことと言えた。それだけに、貴族バルサが抱く平民リースへの苛立ちもまた自然であった。


 無属性の平民をこれ以上調子づかせては貴族としての沽券に関わる。そう考えたバルサはリースを手紙で呼び出し、貴族と平民の間に存在している『格』の違いを教え込もうとした。


 ──が、事態は予想の遙か斜め上の彼方を飛び抜けた。


 リースは机の中にあった呼び出しの手紙を『ラブレター』だと勘違いし、クラス全員に向けて暴露したのだ。そして、話の流れからどうしてか『手紙の差出人は同性愛者の男子』という意味不明の結論に至った。


 手紙の差出人こそバルサであると発覚しなかったが、彼のプライドは大きく傷つけられた。名指しでは無かったが、同性愛者扱いされたのだ。ここで怒りを感じなかったらそれこそ同性愛者だ。


 ……ある意味、自業自得であったが。


 ただ、これは序の口であったのを彼は数日後に知った。


 ──魔力測定の時に起こった悲劇のやり取りである。


 気がつけば、バルサには『男の胸倉を掴んでハァハァと興奮する性癖を持った男子』という不名誉の極限とも言える称号レッテルが張られたのであった。


 おかげでクラスメイトの男子からは避けられ、女子からも白い目で見られるようになった。傷口を広げたのはリースだが、発端を作り出したのはバルサ自身であり、やはり自業自得だ。


 これを自戒にして己を改められるほどに殊勝な人間であるのなら、バルサも最初からこのような行動に出ていない。


 バルサも愚かでは無い。下手な小細工をしても、予想を超える形でしっぺ返しが来る。


 大きな憤りを感じながらも、以降にバルサはリースに対しての余計な手出しを控えていた。むしろ『関わりを絶っていた』の方が正しかった。


 不愉快なものから目をそらすことで、バルサの気持ちは一端の落ち着きを取り戻した。


 ──〝それ〟が再燃するまでは、さほど時間は掛からなかった。


 ラトスとの決闘を切っ掛けに、リースへの注目がノーブルクラスに限らず、一年生の全てに広がりだしたからだ。無属性魔法で防御魔法の使い手の話題は、否応なしにバルサの耳に滑り込んだ。


 多くの一年生がリースの──ひいては防御魔法への見直しを始めていても、バルサは一向に認められなかった。むしろ、リースを褒め称えようとする者にすらバルサは怒り、あるいは哀れみを感じ始めていた。


 平民が、魔法使いとしての優秀な才能を秘めているはずの貴族に勝てるはずが無い。皆、騙されているのだ。


 第三者がいれば、バルサが一度もリースの闘う姿を見ていなかったことによる誤りだと指摘していただろう。


 悲しいことに、ハァハァ男子として認識されているバルサに友人はいなかった。

もしくはリースに下手な小細工やちょっかいを出さなければ、こんなことにはならなかったかもしれない。あるいは少しでもリースという〝異彩〟の存在を許容できれば話も変わっただろう。 


『たられば』の仮定は意味をなさず、バルサはとうとうリースへの決闘を挑む事を決意した。


 無属性の平民などという存在を認め始めている生徒の目を覚まし、貴族こそが真の魔法使いであると知らしめるために。


 ところが、妙な使命感を胸に挑んだ結果、待っていたのは一週間に渡る地獄のような留置所生活。


 出鼻を挫かれたどころか複雑骨折したような心境だ。


 一週間の時間を要したおかげか、バルサも冷静さを取り戻し、己が仕出かした事の重大性は理解していた。いくら頭に血が上っていたとしても、町中で魔法を使うのはまずかった。


 だとしても、己が怒り狂う原因となったリースを許せるかは別問題だ。


 また同じような事をすれば即時退学なのはバルサも承知していた。だが同時に、リースへ決闘を挑むことそのものは禁止されてはいない。


 今度こそ、正式な決闘の場で奴の化けの皮を剥がし、生徒たちの認識を改めてやる。


 その意気込みを抱き、バルサは学生寮への帰路を歩いていた。


 ──断言しよう。


 バルサがこのままリースに決闘を挑んだとしても、確実にバルサは敗北するだろう。防御魔法を──リースの実力を見誤り、なおかつ初見であればバルサが勝ちを得る確率はゼロにも等しかった。


「首を洗って待っていろよ、無属性」


 ──そう……このまま・・・・であれば、だ。



「……首を洗うのはあなたの方かもしれないわよ?」



 突如として聞こえた『声』に、バルサは足を止めた。


 姿は見えない。しかし、己にとって不快な言葉にバルサは顔を顰めた。


「今の言葉はどういう意味だ?」

「言わなくちゃ分からない?」

「貴様……俺があの無属性に負けるというのか!」


 怒りを発するバルサに、『声』はむしろかみ殺した笑いを漏らした。


「少なくとも、対策も無しに挑めば確実に負けるわ。それも、この上なく無様にね」

「────ッ!!」

「おっと、魔法を使うのは止めておきなさい。あなた、今度また同じ事・・・をすれば一週間の謹慎処分では済まないでしょ」


 怒り任せに魔法の投影を行おうとしたバルサだったが、その声に寸前で思いとどまった。


「気を悪くしたのならごめんなさい。別にあなたを馬鹿にするつもりは無かったのよ」

「……俺を侮辱するのが目的では無いのなら、一体何が目的なんだ」

「簡単な話よ」


 クスクスと、忍び笑いを響かせながら、それは姿を現した。


 バルサが眼を見開くも、『それ』は構わずに言った。


「あなたに、リース・ローヴィスを倒して欲しいのよ」

 

 

突き抜けた名前をご期待の皆様、残念でした。ハァハァ男子は普通にまともな名前でした。実は彼が初めて登場した第十話前後で既に決まってました。彼が再登場するのはあの時点で半ば決定していたわけです。

下手にリースに手を出さなければ、不遇な扱いにはならなかったでしょう。哀れです(そう書いたのは作者ですけどね)


さて、本文の最後に謎の人物が登場したわけですが、読者の皆さまも色々とお考えだと思います。これに関する感想文は確実なるネタバレ要素てんこ盛りなので絶対に返信しません。その辺りはご了承ください。みんな、想像を膨らませておいてください。


というか、最近感想文に返信せずにゴメンなさい。でも、送られた返信は全部目を通しています。多くの感想文をいただけてありがたい限りです。毎度、執筆の励みになります。


以降も、感想文やレビューは大歓迎です。

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