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大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜  作者: ナカノムラアヤスケ
第四の部 学園生活満喫中のお話
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第三十八話 相互の理解は大事です──実は誰も知らないようでした

区切りの問題で、今回は長めです。


「町の中で属性魔法を使うなんて、何を考えてるんだ! 魔法使いでも無い一般人がたくさんいるんだぞ!!」

 

 男子生徒の暴挙にラトスが憤慨する。


 ラトスも以前に食堂で水魔法をぶちまけたことがあったが、アレはジーニアス魔法学校の中であり、周囲にいるのは見習いとはいえ魔法使いがほとんどだったから少し怒られた程度で済んだのだ。町中でぶちかますのとはわけが違う。


「そこの無属性野郎が俺を無視するのが悪いんだよ!」


 男子生徒は悪びれも無く、さも当然とばかりに言葉を返した。どうなっても知らねぇぞ。


「……ねぇ、俺って呼ばれてたの?」

「少なくとも名指しでは無かった」


 試しにミュリエルに質問してみるが、彼女は首を横に振った。


「聞く相手の選択がおかしいと思うのは俺だけか?」

「安心して、僕も思ってたから。……まぁ、ウッドロウの言うとおり、明確にローヴィスのことを呼んではいなかったけど」

「確かにな」


 形はどうあれ、三者三様に俺の意見に同意してくれた。


 彼らの言葉を受け、俺は男子生徒に言った。


「人を呼ぶときはちゃんと名前を言わないと駄目だって教わらなかったのか? まさか、人の名前を口にするのを恥ずかしがっちゃう照れ屋さんなのか?」

「何でそうもお前は嬉々として人を煽るんだ」


 俺は事実を言ったまでぞアルフィ。むしろ俺の親切心と受け取って欲しいくらいだ。


「何故あの男子は現れた当初から興奮している?」

「皆目見当もつかん」


 ミュリエルの指摘に俺は首を横に振るしか無かった。


「ふざけるな貴様! 俺との約束をすっぽかしてどの口が言うんだ! 人をさんざん待たせておいて、貴様は町で遊び回っていたとかふざけてんのか!!」


 男子生徒の口から出た〝約束〟という言葉に、俺は腕を組んで考え込んでしまう。


 はて、あの男子と会う約束をいつ取り付けたのだろうか。


 …………。


 ……………………。


 ………………………………。


 もしかして『アレ』か?


「その顔は心当たりありって顔だな」

「『アレ』を約束と言っていいのかがちょっと自信無いんだよなぁ」

「いいから本人に確認してみろ」


 アルフィに促されて、俺は記憶の中にある『アレ』を皆に説明した。


 ──遡ること数時間前の話である。


 今日の授業が終わり、帰り支度をしている最中だった。そのときはちょうどアルフィはトイレに行っていて席を外していたな。


 そんな時、いきなり俺の前に一人の男子生徒が現れた。


 彼は俺の前に来るなりこちらを指さしてこう叫んだ。


「リース・ローヴィス! 貴様に決闘を申し込む!」


 よく見ると、男の胸ぐらを掴んでハァハァする性癖を持った、同じノーブルクラスの生徒だった。別に人としてどうかは知らないが、俺は男より女の子の方が好きなのであまりお近づきになりたくないタイプだ。


 それでも交際では無く決闘を申し込まれたのなら、引き受けるのはやぶさかでは無い。ノーブルクラスの生徒なら実力も期待できる。


 ただ、今日は放課後に予定があった。


 もちろん、ケーキ屋の予約であった。一週間も待っていてようやく順番が俺に回ってきたのだ。


 俺を除き、一緒に三人まで同席が可能と言うことなので、すでにアルフィ、ラトス、ミュリエルは誘ってある。


 これを逃せば次に予約を取れる機会がどれほど先になるのか分からない。さすがに今回ばかりは決闘よりもこちらを優先する他ない。


 もちろん、明日以降ならば全く問題ない。俺はその旨をハァハァ男子に伝えようとしたのだが……。


「あし──」

「良いか! 逃げずに必ず来いよ! 分かったな!!」


 彼は俺の言葉を待たずに、教室の外へと飛び出してしまった。 取り残されてしまった俺は、彼の言葉を思い出すが、どこで決闘を行うのか、申請を出す先生が誰なのかを覚えていなかった。もしかしたら聞き忘れていたのかと思い、近くにいたクラスメイトに聞いていた。あれだけ大きな声で叫んでいたし、誰か一人くらいはハァハァ男子の言葉を覚えているだろうと。


 俺の思っていたとおり、ハァ男子(面倒なので略した)との会話を覚えていた生徒はいたが、俺の求める答えは返ってこなかった。


 俺に意地悪をしているとか、覚えていないとかでは無く、それ以前の問題にハァ男子が一言も日時に関する台詞を口にしていなかった事実が判明。


「……俺にどないせぇっちゅぅねん」


 思わず漏らした俺の嘆きに、聞いていたクラスメイトたちが揃って苦笑した。ノーブルクラスの生徒なのに、ハァ男子はちょっとお馬鹿さんなのかもしれない。


 仕方が無く、クラスメイトたちには、ハァ男子を見かけたら伝言を伝えるように頼んだ。今日は予定があり、明日以降なら問題ないので改めて声を掛けて欲しい、と。


 頼み事を終えた頃にアルフィが戻り、彼と一緒に教室を出てラトスたちと合流し、そしてケーキ屋で美味いケーキを食べた後、今に至るのである。

 



 記憶の中にある心当たりを説明し終えると、三人から帰ってきたのは。


「……それは本当に約束をした、と言えるのか?」

「約束とは両者の相互理解があって初めて成立する。一方通行の申し出は約束とはいえない」

「そもそも、ちゃんと日時や場所を指定しない時点で決闘の申し出としては破綻していると思う」


 アルフィが疑問を浮かべ、ミュリエルが論破し、ラトスが最後に正論を付け足した。おおよその満場一致で俺と同意見のようだ。 俺たちの言葉を耳にしたハァ男子がまなじりをつり上げた。


「俺が悪いと言うのか!!」

「確かに、ローヴィスが失礼で不遜で厚顔無恥な礼儀知らずなのは間違いないけれど、だからといって君が町中で魔法を使って良い理由にはならない」

「そ、それは……」


 ラトスの咎めるような視線に、ハァ男子は怯んだ。


 ……さりげなく俺はディスられていた。


リースこいつが防いでくれたから良いものの、もし一般人に命中していたら惨事にも発展してたな」


 ラトスと同じく、アルフィもハァ男子を睨み付けた。


 ジーニアスの生徒に支給されている制服は、簡易ながらも魔法への耐性処理エンチャントが施されている。


 更に言えば、こちらも気休めではあるが、魔法使いはそうでない者に比べて日常的に魔力に触れているおかげか、肉体的にも魔法への抵抗力を有している。詳しい原理は不明だが、魔法による強い衝撃が与えられた際、反射的に魔力で膜を作るのではと考えられている。


 これらの理由があるからこそ、ジーニアス魔法学校の生徒ならば、初級魔法程度なら大怪我を負うことはまず無い。よって、学校の敷地内であれば、厳重注意と処罰で済む。


 だが、それが敷地の外──町中ともなれば話は別。肉体的にも装備的にも耐性を持ち合わせない人間に魔法が命中すれば大怪我を負う可能性が高かった。


 逆上したからといって、確かにやり過ぎだった。


 ──ハァ男子が怒られるのは確実だが、それは後にしておこう。


 やれやれ、と俺は肩をすくめた。


「別に決闘するのは問題ないんだけどな。今日だけはケーキ屋に行く予定があったってだけなのに」

「平民の貴様が貴族である俺の申し出よりも優先することなどあるはずが無いだろ! しかもその予定がたかがケーキだと!?」


 たかがケーキとは聞き捨てならないな。


「甘味は何よりも勝る最優先事項に決まってんだろうが! ぶっ殺すぞ!!」

「ん、甘味は世の真理。あなたとは比べものにならないほど尊い存在だ。このゴミカスが」

「そこの糖分中毒者二人、殺気を引っ込めろ。あいつが割と本気で怯えビビッてる」


 アルフィに窘められた。ケーキを馬鹿にされた事への憤りが沈静化する。


「で、実際にどうするんだ。あいつと決闘を──ん?」


 アルフィがそこまで言って首を傾げた。


「なぁリース。ところであいつって誰だ?」

「そりゃハァハァ男子だろ」

「いや、それってお前が勝手につけた渾名あだなだろ。名前だよ、名前」


 改めて指摘され、俺は腕を組んでしばらく考え込んだ。


 …………………………………………。


「わかんねぇ」

「や、クラスメイトだろ」


 アルフィがビシッとツッコミを入れたが。

「そういうお前だってクラスメイトだろ」

「…………言われてみればそうだな。俺もずっとハァハァ男子で覚えていた」

「君たち、ちょっと酷すぎない? 同じクラスの生徒ぐらいちゃんと覚えておきなよ」

「だったらラトス、お前は知ってるのか?」

「僕が知るわけ無いでしょ。今日初めて会ったんだから」

「甘味を馬鹿にするような奴の名前を覚える価値、一切なし。記憶容量の無駄」

「君は君でいい加減に落ち着きなさい」


 重大な事実が判明した。


 この場にいる誰もがハァハァ男子の名前を知らなかった。


 ちなみに、どうして途中からハァハァ男子が一言も喋らなかったというと。


「お、おい離せ! 俺を誰だと──ちょ、生意気言ってごめんなさい申し訳ありま……ぎゃぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」


 誰かしらの通報を受け、駆けつけた治安維持の警備兵たちに取り押さえられていた。彼らは有無言わさず、極めて迅速かつスマートな手並みでハァハァ男子を縛り上げ、連行していった。


 なお、俺たちに関しては周囲の人間から証言があり、被害者であることは間違いないのでお咎めは無し。軽い取り調べはあったがその日のうちに解放された。


 一方でハァハァ男子には大量の反省文の提出。それに加えて警備兵屯所にある留置所で一週間の謹慎生活。留置所にあるのは反省文を書くための机と、硬い寝床と薄い毛布。ふかふかのベッドに慣れ親しんだ貴族のお坊ちゃんには厳しいだろう。


 ただ、それを加味しても町中で魔法をぶっ放したにしてはかなり甘めの処分だ。


 ジーニアス魔法学校の生徒であり初犯だった事。俺たちを含む一般人に怪我が無かったこと。そして、ハァハァ男子の実家がそれなりの名門貴族であったことが要因らしい。


 翌日にゼストから顛末を聞かされると、ミュリエルが言った。


「悪は滅んだ」


 いや、死んでないからな。   

 

前話のハァハァ男子の取り巻きの部分を修正し、ハァハァ男子単独にしました。

それと三十話の終盤を一部書き換えました。


ちなみに、ハァハァ男子にはちゃんとした名前がありますし、作中にも登場する予定です。

ハァ山ハァ男みたいな妙な名前にはなりませんので悪しからず。

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