第三十五話 朝練後の朝食です──荒ぶりました
明けましておめでとうございます!
『アブソリュート・ストライク』の新年初更新!
朝練を終えた俺は一度部屋に戻る。なんと、この学校の寮には全部屋に『シャワー』なるものが魔法具完備されている。これはお湯を生み出す効果があり、おかげでいつでも好きなときに汗を流すことができるのだ。
この魔法具がなければ、町にある大衆浴場まで行かなければならなかっただろう。さすがは高い入学金と学費を要求するだけある。
話は逸れたが、部屋のシャワーで汗を洗い流し、改めて制服に腕を通して寮の外に出ると、やはりミュリエルが出口で待っていた。
さすがに今の時間帯だと食堂を利用しようと起きてくる生徒も多い。男子寮の前に一人で立つ女子の姿は非常に注目を集めていた。当の本人は相変わらず考えの読めない無表情であり、集まる注目を気に止める様子は無かった。
「……それで、いつもは見ない顔が一緒にいる訳か?」
「そんなところだ」
食堂で合流したアルフィが、席に座ってから発した言葉。視線の先には当然のように俺の隣に同席するミュリエル。朝食のメニューにあるパンを「はむはむ」と食べる姿は小動物を連想させた。……躯のごく一部は特大だが。
アルフィに、昨夜から朝練までミュリエルが関わった一部始終を伝えた。それを聞いたアルフィは呆れた顔になる。
「類は友を呼ぶと言うが、まさにその体現者だよな」
「その中におまえも間違いなく含まれてるからな」
「よし、表に出ろ」
本当のことを言っただけなのに、アルフィが半ギレした。
今にも四属性魔法をぶっ放しそうな親友をどうにか宥めつつ、俺たちも朝食を食べ始めた。
「でも意外だな。普段から彼女ほしい彼女ほしいと言っているから、彼女──ミュリエルの申し出はありがたかったんじゃ無いのか? 何で断ったんだよ」
「打算ありありの恋愛はさすがにちょっと……」
「──ちっ、このヘタレが」
「よし、その喧嘩買った」
今まさに戦いの幕が開ける!
と、そこで制止する声が割り込む。
「……朝の食堂で物騒なことは止めなよ」
「「実際に水属性魔法をぶっ放したラトスに言われたくない」」
「君たちさっきまで喧嘩してなかったっけ!?」
朝食の乗ったトレーを手にしたラトスが叫んだ。
ラトスはトレーをテーブルの上に置いてから、俺の隣に座るミュリエルを見た。
「……昨日のアレは冗談では無かったみたいだね」
「俺が毎日朝練する広場に、俺が来る前に来てたからな。しかも寝てたし」
「え、広場で寝てたの?」
呆れ果てるラトス。気持ちはよく分かる。
「ん? ……ということは、ウッドロウが寝ていたところにローヴィスが居合わせたんだよね」
おい、そこでなぜ俺を睨むよラトス。
やましいことなど……無い……はず……だよね?
「……まさか、寝入っている彼女に変なことしてないだろうね」
「はっはっは、まさか俺がそんな紳士にあるまじき暴挙を犯すはずが無い。なぁミュリエル」
縋るように隣の席に顔を向けると、彼女はちょうど手にしていたパンを食べ終えたところだった。話を聞いていなかったのか、口の端にパン屑をくっつけたままコテンと首をかしげた。くそっ、ちょっと可愛いじゃないの。
──では無くて!
「ねぇウッドロウ。ローヴィスに変な事をされなかった。もし何かされたら正直に言っていいよ。……ライトハートがお仕置きするから」
「俺がかっ!?」
ミュリエルは己の胸をポヨポヨと揺すってからぽつりと。
「…………むしろ、手を出して欲しかった」
「女の子なんだからもうちょっと自分を大事にしようよ! というか、自分で言ってる意味分かってる!?」
「雄しべと雌しべが──」
「段階すっ飛ばしすぎぃぃぃぃっっ!!」
ラトスが顔を真っ赤にしながらの絶叫が食堂の中に響き渡った。
絶叫が引き金では無かったが、ふと気になった事をミュリエルに聞いてみた。
「ところでミュリエル。アルフィには興味ないのか?」
「人を『こっち』呼ばわりすんな」
四属性のアルフィは世界的にも珍しい存在だ。興味の対象としてはこの上ない。
だが、ミュリエルはまたもコテンと首を傾げて。
「……ところで、彼は誰?」
「今の今まで知らずに会話してたんかい!」
ラトスの代わりに今度は俺が荒ぶるツッコミを入れてしまった。
「アルフィだよ! 今話題の四属性持ちのイケメン!! 爆発しろ!」
「──っ、彼が!?」
「本当に今気がついたのかよ!!」
この反応昨日も見たよ。ラトスの存在にようやく気がついたときと全く同じだ。
「この無駄に迸るイケメンオーラが至近距離にいるのによく今までスルーできたな! 爆発すればいいのに!」
「どさくさに紛れて俺をディスるのは止めろ」
最後の呟きはアルフィだ。もちろん無視。
「……確かに四属性は珍しい。考察の対象ではある。ただ、今はリース・ローヴィスへに対する興味の方が強い」
「イケメンであることに関しては?」
「──? 確かに容姿は秀でていると思うけど、さほど興味を抱く要素では無い」
「だってよ。残念だったなイケメ(ドガッ)ぶへぇあっ!?」
アルフィの右ストレートが頬にめり込んだ。
「そのドヤ顔にイラッときた。反省はしない」
「ちょ、いきなりグーパンは止めてくんない?」
「いきなりじゃ無いとおまえは防壁張るだろ」
俺に防壁を使う暇無く拳を届かせるのはアルフィぐらいのものだ。さすがは幼馴染みで親友だ。
「最初に会ったときもそうだったけれど、一つのことに集中するとほかに全く興味を持たなくなるよね、彼女」
昨日と全く同じ状況にラトスが言葉を漏らした。するとミュリエルはラトスの方を向き。
「ところであなたはいつ来たの?」
「普通に会話成立したよねさっき!!」
「────はっ!?」
「なにその『無意識のうちに会話してた自分に驚き』みたいな顔は!」
このやりとりはミュリエルの持ちネタなのだろうか。
「つ、疲れる。まるでローヴィスが二人に増えたみたいだ……」
「おい、俺が二人に増えたらここまでの騒ぎじゃ済まねぇぞ」
「自分で言っちゃうんだ!?」
どうでもいいが、ずっと叫んでいるラトスの喉は大丈夫なのだろうか。
それからというもの、ミュリエルは事あるごとに俺の元を訪れた。授業ごとの準備時間にも昼休みにも、放課後にもだ。
ただ、授業の合間ですることといえば教室の入り口からじっと俺を眺めるだけだったり、昼休みは俺の隣に座って飯を食べ、時折こちらをチラ見する程度。
本人曰く「接する時間が長いほど恋愛感情は芽生えやすくなる」というのだが、あのやりとりで恋愛感情が本当に芽生えるかは疑問だ。
言動はともかく、行動は思いの外常識の範囲に収まっていた。時折露骨なアプローチをして一部から荒ぶるツッコミが炸裂したりするが、それを除けば新たな友人ができたような感覚だ。
ミュリエルの行動に一番反応しているラトスだったが、悪感情は抱いていないらしい。なんだかんだで憎めないといった風だな。ただ、ミュリエルが俺にアプローチを仕掛ける度にもの凄く不機嫌になるのは止めて欲しい。
ミュリエルはとにかく美人だ。大鉄球おっぱいもさることながら、何を考えているか全く不明な表情は見方を変えれば神秘的な印象を周囲に与えている。
そんな美少女が毎日訪ねてくるとなれば話題にならない方がおかしい。目的が俺であればなおさらだ。
これが、またも小さな騒動を起こす切っ掛けとなるのは、ミュリエルと知り合って数日後のことであった。
日常パートをダラダラと続けるより、テンポよく物語が進む方が良いかなと思っています。ただ日常パートが少なすぎるとキャラの掘り下げが不十分になってしまうのが悩みどころ。
今回、連続更新はないです。早くて明後日以降になると思いますのでご了承ください。