第二話 都に出てきた田舎者──カモは果たしてどちらだ?
気晴らしに投稿。短めです。
その二日後、俺は故郷の町から都へと続く直線ルートの『上空』を『疾走』していた。
空を『走る』と、他人が聞けば首を傾げるか頭の中身を心配したくなるような言い回しだが、やっている本人からすれば間違いではないと断言できるだろう。
あらかじめ断っておくが、これは確かに魔法を利用しての移動手段だが、決して風属性の魔法を使っているわけではない。あくまで俺が扱えるのは防御魔法だけである。
「流石に都には行ったこと無いからな……。婆さんの言ってた話が間違いでなきゃ、このペースで行けばあとちょいでつくか? 手荷物が少なくなったのは婆さんにマジで感謝だな」
こうして迅速な『空の旅』ができるのも婆さんが渡してくれた『道具』のお陰だ。常日頃の恩もあり、普段の態度はともかくとして内心では頭が上がらない。今回も『道具』の他に大きな力になってくれたのだ。今度都で美味しい物でも見繕って土産に帰ろう。
ともあれ、まずは都にたどり着くのが先決。力を貸してくれた婆さんに報いるためにも、また俺自身の『野望』の為にも気合いを入れなければ。
「──お?」
空を優雅に飛ぶ鳥が、自らの領域に人間がいる事実に目を点にしているのを微笑ましく眺めてから視線を前方に移すと巨大な城壁に囲まれた街を発見した。その中央部には『城』と思わしき巨大建造物もある。
どうやら目的地に到着したようだ。
流石に空からそのまま乗り込むと騒ぎになるので止めておこう。俺は地面に降り立とうと緩やかに落下を始めたのだった。
検問を越えて防壁の中に足を踏み入れれば、我が故郷と同じ人類の住む場所とは思えないほどに巨大で広大な町並みが広がっていた。
とりあえず目に付く人、人、人。今日は祭りですか?と田舎者丸出しの質問を通行人Aに訪ねたが、笑いながら「いつもこんな感じだ」と答えてくれた。マジでか。コレで本当に祭りとかあったらどうなるんだろう。死人がでるんじゃないか?
新鮮な光景に自然と顔がキョロキョロと動いてしまう。やはり田舎もの丸出しだが、ここは下手に気構えるよりも田舎者具合を全面的に押し出した方が自然だと思うことにする。だって田舎者だもん。
──ドンッ!
「おっとっと。これは失ーー」
「てめぇどこに目を付けてんだ! 気をつけろ!」
前方への注意が疎かになり、前から歩いてきたガラの悪そうな男とぶつかってしまった。彼は俺に厳しい視線を向けると怒鳴り声をあげ、そのまま足早に人混みの中に消えていった。謝罪の言葉を口にする暇もなかった。
「まったくーーホント、どこに目を付けているんだか」
ガラの悪そうな男の懐から引き抜いたお財布は、小銭が数枚は入っているだけだった。ま、人様の財布を盗もうとした授業料としてありがたくいただいておこう。
ガラの悪いーースリの男は俺が囮として懐に忍ばせて置いた空の財布を抜き取っただけ。本当に大事な物はしっかりと別の場所に保管してある。
田舎者である俺はスリにとっては格好の的であろうが、俺にとってはそういう奴こそが極上の獲物。地元では『スリ殺し』の名をほしいままにする俺である。あんな程度の低いスリにくれてやる銭は一銭も無い。ちなみにこの手の小技は山奥に住まう婆さんから伝授された。
その後、同じ様な手口のスリとさらに五度ほど遭遇し、臨時収入がウッハウハになった。なお、空になった財布はその都度、囮用財布として有効活用させてもらった。
美味しいイベントをこなしていくと、やがて都での第一の目的地ーー『狩人組合』の建物にたどり着いた。
狩人は『魔物』を狩猟して日々の糧を得ている職種だ。通常の動物と違い、魔力をため込んで変異してしまった動物は凶暴性を内包した危険生物になってしまうが、それを討伐して得られる肉や骨、角などはとても有用な素材となる。武器や防具はもちろんのこと、日常品から美術品に至るまで様々な用途がある。もちろん、凶暴性を秘めた魔物は危険であり、狩猟には大きなリスクが付きまとう。だが、それを差し引いても一攫千金を狙う者が狩人の道を選ぶ。
狩人組合はそれら狩人に仕事を紹介したり素材の買い取りを行っている組織だ。その支部は国内に多数点在しており、もちろん我が愛すべき故郷にもある。素材買い取りは狩人に限らず一般からも受け付けており、弱い魔物を狩った子供が小遣いを得るために利用することもある。
俺がここを訪れた目的もお金である。小遣いと呼ぶにはかなり大金だが。
流石に都だけあってかなり大きな建物だ。だが中にはいるとわかりやすいように案内板が設置されていたので、それに従って素材の買い取りカウンターを目指す。
受付窓口の前に並ぶ列で待つこと十分と少し。
「こんにちは。こちらは素材買い取りの受付です。こちらの用紙に売却する魔物の名称を記入してください。その後、査定場にご案内しますのでそちらの方に魔獣を提出してください」
受付職員さんの指示に従い、俺は売却するために『持って』来た魔物の名前を出された用紙に書いた。特に問題なく書き終えた俺はペンと用紙を返却する。
「ハイ、受けたま……わり……?」
にこやかに対応しようとした受付さんだったが、その調子が用紙に書いた魔物の名前を目にすると急に鈍った。
「……大変申し訳ないのですが、こちらの記入に間違いは無いのでしょうか?」
質問の意図は飲み込めないが、受付さんの言葉に頷いた。
「…………少々お待ちください」
受付は用紙を手に取ると、慌ただしい様子で奥へと引っ込んでしまった。
「……字が汚かったんだろうか」
結果から言えば、お金はがっつり稼げました。
タダどうしてか、獲物の査定をしてくれた職員(受付とは別の人)がしつこいくらいにこちらの身分や魔物を狩った場所を聞いてきたが、とりあえず自分は一般庶民であり、故郷の付近にある山奥で狩猟したと正直に答えた。その後、狩人への勧誘もされたが当面はその気が無いので辞退し、金を受け取り足早に狩人組合を出たのだった。
ともあれコレで必要な『金』は手に入れた。
次はいよいよジーニアス魔法学校だ。
街中の描写を詳しくしてもどうかとおもいあっさり目の文章に。
今回リースが使用した『移動手段』ですが今後もバンバン登場してきます。現時点でネタは開かせないので「こんなんでねぇの?」との感想文をいただいてもネタバレ防止のために返信はいたしません。ただ感想文は大歓迎です。いつか種を明かした時に「ニヨり」としていただけると嬉しいです。
これとは別に
『カンナのカンナ 〜間違いで召喚された俺のシナリオブレイカーな英雄伝説〜』
http://ncode.syosetu.com/n3877cq/
短編2作『異世界に召喚された彼らが手に入れたものシリーズ』
http://ncode.syosetu.com/s7810c/
があるのでよければどうぞ。