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大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜  作者: ナカノムラアヤスケ
第三の部 学校生活が開始したお話
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第二十八話 まだ始まったばかりです──切なくて言葉が出ない


 ──俺には最近、悩みがある。


「……解せぬ」

「いきなり唐突だね君は」

「あんまり相手にしない方が良いぞ。リースの戯言は気にするだけ無駄だ」

「ふーん、そうなんだ。じゃ、いっか」

「お前ら俺に対して酷すぎない!?」

「「普段のお前(君)の態度がむしろ酷すぎる」」


 微妙に長い台詞が殆ど合致しただと! そんなに酷いか?


 俺とアルフィ、そこにラトスが加わり、もはやおなじみのメンバーとなりつつあった。放課後になり、何となくで食堂におもむき席に付いたのだが……。


「「自覚無いのが更に性質タチが悪い」」

「だから何で綺麗にハモるよ! お前ら仲良いな!?」


 俺がつぶやいた一言に対して彼らの対応が予想を超えて酷かった。


「これまで何度か挑まれた決闘には対して苦戦することなく完勝。授業でも教師の質問にはきっちりと答えて、主席合格であることに恥じない姿を見せつけてるリース・ローヴィスが、どうして現状に不満を持つんだ?」

「……聞いてると、少しイラっとくるね」

「俺も口にしてて少しイラっとした」


 さっきからアルフィとラトスが冷たい。


 というか──。


「俺の不機嫌はお前らが原因だよ!!」


 両手でテーブルを叩くと、俺は二人の『後ろ』を指さした。首を傾げる二人は一旦顔を見合わせてから、背後を振り返る。


 ──辺りに黄色い歓声が響きわたった。


 ついに俺は耐えきれずに叫ぶ。


「どうしてお前らの後ろにはそんなに女子が大量にいるの!! 俺の後ろはがらがらだぞ!!」


 彼らの後方の座席は女子率が異様に高く、さらに密集率もこれまた高かった。誰もがアルフィとラトスの甘いますくに魅了された者ばかりだ。


 アルフィとラトスは女子たちの甲高い声に嫌な顔一つせず、むしろ柔らかい笑みを浮かべて手を小さく振った。


 途端、女子たちの何割かが顔を真っ赤にし、また何割かが鼻に手を当てた。抑えた手の間から鼻血がでているのが見える。そして最後の何割かが恍惚な笑みを浮かべたまま気を失った。


 リアクション多彩だな。そして二人の無駄に達者なイケメン対応にイラっとした。


 本当は理解している。


 アルフィは故郷の村にいた頃から女子に囲まれていたので、俺としてはもはや慣れたものだ。ラトスにしたって、中身は女の子アレだが男子用の制服を着ているし顔も中性的に整っている。先入観さえなければ普通にかっこいい男子生徒にも見えるだろう。


(外見的には)イケメン男子が二人も集えば、この騒ぎも当然の帰結なのかもしれない。


 ……だとしても、羨ましいのには変わりない。俺だって女子からの黄色い歓声は欲しいのだ。


 というか、たまに女子から嫉妬の目で見られているのは恐らく気のせいではない。おい、俺は男の子ですよ。何で嫉妬のそんな目で見てくるんですか? 


「彼女が──欲しい!!」

「少なくとも、そう言っている内はできないんじゃないのか?」

「うるせぇぇぇなぁぁぁ! イケメンは良いよなモテてよぉぉぉぉ! 可愛い子いたら紹介してくださいお願いします!」

「……怒っているのか卑屈になっているか分からない反応だね」


 アルフィに頭を下げる俺を目に、ラトスが冷静につっこむ。


「切実なんだよ! もの凄く!」


 血涙を流さんばかりの勢いで答えると、ラトスは急にこちらから視線を外し、己の指を弄り始めた。


「……さ、参考までに聞くけど……き、君はどういったタイプの子が好みなんだ?」

「お? なになに、ラトスが良い子ちゃん紹介してくれんのか?」

「あ、あくまで参考にだ。い、いずれ紹介するかもしれなかったりしたときに、好みのタイプが分からないと紹介のしようがないだろ」

「そうさな。顔はそりゃ可愛い方が良いけど……」


 改めて聞かれるとそれはそれで答えに迷うな。俺はしばらく考えるが、無意識にラトスの『胸元』に目が行った。


「強いて言うなら、胸がおっきな子だと非常に嬉しい」

「……それでどうして僕の方を向くのかな?」

「あ、いや…………別に」


 俺は不自然にならないように気を付けながら、ラトスから目を背けた。


 ──決闘が終わってから数日後、第一決闘場アリーナで行われた闘いに関してそれとなく聞いてみたのだが、予想していたとおり闘いの終盤はよく覚えていなかった。


 とどめに放った『一撃カノン』の衝撃で記憶が曖昧になっていた。おかげで、俺がラトスの『胸』の奥に隠されていたおおきい・・・・真実を目撃した事実も覚えていなかったのだ。


 なので、ラトスが女の子であると知っているのはこの場では俺だけ。


 俺が彼女ラトスの性別を知っていると分かれば、ラトスもこれから先の学校生活は送りにくいに違いない。俺はそれも望むところではないので、誰かに伝えるつもりは無い。


「そうか……胸の大きな……」


 ラトスは譫言のように呟きながら己の胸元を触った。


 ……おい、人がせっかく秘密にしようと思ってるのに、意味深な真似するなよ。その奥に特大の秘密が格納されてるのは知ってるから。ほら、隣のアルフィが変な顔してるだろ。


 言いたいのに言えないもどかしさを誤魔化すため、俺は天井を見上げた。

 

 ──チリッ……。 

 

 不意に、背中に注がれる強い視線を感じ取った。

 

 振り返った放課後の食堂は、勉強をしたり茶を飲んだりする生徒たちがまばらにいる程度。

 

 だが、食堂の片隅に、こちらを睨みつけてくる生徒の集団があった。見たことのない生徒だが、睨みつけてくる原因は予想できる。

 

 ──ラトスとの決闘で、多少は防御魔法の『可能性』とやらをある程度見せつけることはできた……と思う。


 周囲から向けられる侮蔑の視線は格段に減った。これは間違いない。ノーブルクラスの同級生からも、以前より気軽に声を掛けられるようになった。皆、俺とラトスの決闘を観客席で目撃した者たちだ。


 ただ、全生徒の認識を変えられた訳ではない。


 第一決闘場アリーナに集まった生徒は多かったが、それでも一年生の中でもあの決闘を見なかった者はかなりいる。俺の噂は耳に届いていたとしても、素直に信じられるかといえば答えは否だろう。それに、あの決闘を見た者の中にも、平民が名をあげるのを良しとしない者はいるはず。加えてそれまで『役立たず』とされていた防御魔法の使い手だ。受け入れ難いのは仕方がないのかもしれない。


 俺を睨みつけてきた生徒たちもその手合いだろう。加えて俺は平民でありジーニアスに通う生徒の大半は貴族出身者だ。

 こちらの視線に気が付くとおもしろくなさそうな顔をして食堂から去っていった。


「どうしたリース?」

「……いんや、何でも無い──」


 アルフィの声に俺は首を横に振った。


 焦ることはない。まだジーニアス魔法学校での生活は始まったばかりだ。今後に機会はいくらでもある。


 防御魔法が伊達では無いことを証明し、そして防御魔法で天下を取るのだ。その道が険しいのは承知の上。


 だとしても、もし何時の日かそれを達成することが出来たのとすれば。



 ──これほど痛快な事はないだろう。



 ……そんなことを考えて、俺は視線を戻すと──アルフィとラトスの背後に募る女子たちの姿が目に入った。ねぇ、なんかさっきよりも増えてません?


 もう一度振り返れば、やはりがらがら。


 更に視線を戻せば、女子がいっぱい。


 ……この差は何なんでしょうね本当に。


 切なくなってきちゃうぜ。

 

活動報告にも載せましたが

http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/604944/blogkey/1594713/

この話を書いている最中に文書の構成に少し違和感を感じたので、しばらくしたら話の入れ替えを行おうと思います。


それと、アブソリュートは(『カンナ』もですが)更新を一旦休止します。よって、明日と明後日の更新はありません。


では、以上です。

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大賢者pop
― 新着の感想 ―
[良い点] 泣くな主人公、大抵の男は君の同志だぞ。
[気になる点] 読んでて思いましたがアルフィたちの後ろに女性たちがいるのっておかしいと思うんです なぜなら尊顔が見えないから…!
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