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大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜  作者: ナカノムラアヤスケ
第五の部 学園生活順風満帆なお話
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第二百六十七話 後悔も抱えて、さらなる一歩へ

 

 放課後のお茶会も終わり解散すると、俺はそのまま真っ直ぐに寮へと帰る気にもなれず、友人たちと別れて夕暮れ時の街を一人で歩いていた。


 かなり波乱に満ちた課外授業であったが、どうにか乗り切る事ができた。俺一人の功績ではないが、学生代表としての役目はとりあえずは全うできたと、少しくらいは胸を張って良いだろう。重責からようやく解放されたという爽快感も多少はあった。


 ──だが、思うところが無いわけでもなかった。


「どうした小僧。らしくもなく物憂げだな」

「……気配を消してまで、さも当然のように出てくるのはやめてくれねぇか。心臓に悪い」


 なんら前触れもなく隣に現れた大賢者に恐れ慄く。こういう時が、まだまだ叶わないと思わされる瞬間である。魔法使い云々を差し引いても、あまりにも多方面に芸達者すぎる。当人曰く「時間だけは腐るほどあったからな」と。


「……何しにきたんだよ」

「なぁに。ちと弟子の様子を見にきたまでよ。寮に行くつもりじゃったが、道すがらに偶々見つけたからな」


 この前に来たばかりだろ、と思ったが。大賢者なりに俺を慮っているのは分かっている。


 大賢者は俺に理不尽な無茶はさせるが、決して不条理な無謀をさせようとはして来ない。俺が必ず『できる』と確信して非道な試練を容赦無く課してくるのだ。


「あれから、頭がちょくちょくぼーっとする以外は特に何もないって。それも徐々に治ってきてるしな」

「そいつは重畳じゃ。お主のことだから、儂の言いつけを破るようなバカはしないだろうが、念の為じゃしな」


 この短時間で何度も様子を見にくるのは、それだけおれの『アレ』が問題あったという事だ。理解しつつも「過保護すぎないか」と内心の気恥ずかしさは仕方がなかろう。


「んで、さっきは妙に物憂げだったみたいじゃが。何か悩み事でもあるのかの」

「げっ、そこまで見てたのかよ」

「弟子の悩みを聞くのも師匠の勤めじゃ。解決できるかはわからんが、口にするだけでもスッキリするじゃろ。この大賢者に話すだけ話してみぃ」


 ──どうしようもなく引っかかるのはやはり、エディとジルコの退学だ。


 あの二人の仕出かしはどうあろうと弁明の余地はなく、学校長の下した処罰は真っ当なものだ。そこに異論を挟む余地は俺も無い。


 ただ、ラピスのあの残念そうな顔がチラつく。


 あいつらが誰かの腰巾着になろうとはせず、真っ当にジーニアスの生徒として励んでいれば、もっと別の展開があったのかもしれない。ラピスが自身の性別を告白し『女』となってからも、友人としての関係を続けられたのでは──なんて考えも出てくるのだ。


「あの二人は最後まで、魔法をただの出世の手段にしか思ってなかった。魔法を楽しいって思ったことなんて、本当は一度も無かったんじゃねぇかな

「もしくは、早々に諦めたか、辺りかのぅ」


 元から魔法が好きではなく、貴族として生まれた義務から嫌々と魔法を学んでいたのかもしれない。あるいは、強烈すぎる才能を目の当たりにしたせいで心がどこかで折れてしまった、なんてこともあり得るだろう。


 だから魔法を学ぶってことを止めてしまった。


 ジーニアスは自らを高めるものには惜しみない助力を注ぐが、そうで無いものは容赦無く切り捨てる方針だ。そこに異論を挟む余地はない。入学した時点で、この学校は彼らの居場所ではなかったのだろう。


 出会い方から最後に至るまでの経過も全てが最悪だったと断言できる。


 それでも。


「あいつらが少しでも魔法に希望を抱いてたら──そう思わせてくれる奴がいたら、ちっとはマシな結末になってたんじゃねぇかなって」


 俺には大賢者が居てくれた。小憎(こにく)たらしくも偉大な師匠が導き、可能性を示してくれたからこそ、今の俺がいるのだ。


 もしあの日、黄泉の森で出会わなかったら俺はさらなる高みを目指そうとする今の俺にはなれなかっただろう。ただのちょっとした思いつきを実行して満足するだけ。同郷の天才が躍進していく様をただぼんやりと眺めているだけの人生を送っていたように思える。


 無属性の防御魔法に尽きない夢を抱かせてくれたのは、大賢者なのだ。


 でもエディとジルコには、魔法の楽しさや魔法使いとしての希望を抱かせてくれるような誰かがいなかったのかもしれない。


 大賢者は軽口を挟むことはあっても茶化すことは一切なく、穏やかな様子で俺の話を聞いていた。そんな彼女が、俺の背中をポンと叩いた。


「ジーニアスに入ったのは、正解じゃったな」

「唐突だな。なんの話だよ」

「昔のお主であれば、魔法のこと以外なんぞてんで興味がなかったじゃろうに、今は魔法以外のことであれこれと頭を悩ませておる」

「魔法のことを疎かにしたつもりはないけどな」

「そりゃそうじゃ。お主が魔法馬鹿であるのは変わらんよ。じゃが、それでも魔法以外のことにも目が向いたようで、師匠としては嬉しいんじゃよ」


 言われてみれば確かにそうかもしれない。課外授業の学生代表を任されて、魔法以外の事で随分と奔走した。大変には違いなかったが、思い返せばやはり、胸の奥には充実とその後の達成感が芽生えていた。


 そしてやはり、エディとジルコの結末がその中で唯一の染みのように拭えないのだ。


「つっても、もう終わっちまった話で、今更どうこうできるもんでも無いんだけどさ」

「人間生きておれば、嫌でも悔やみっつーもんは積み重なっていくもんじゃ。そうした後悔にどうやって向き合うかもまた、人生の課題よのぅ」

「婆さんにもあるのか、そう言ったどうしようもない後悔ってのは」

「おうよ。こう見えて世間様よりも長生きしておるからな。後悔の数ならちょっとしたもんじゃよ。かっかっか」


 実際に大賢者がどれほどの永い時を過ごしているかは、俺にもわからない。聞いたところで絶対に答えてくれない確信はある。それでも、この豪快な師匠だって多くの経験と沢山の後悔を味わってきたのだ。そしてそれらを笑い飛ばせるほどに強い魔法使いなのだと、彼女の快活な笑い声を聞いて感じるのだ。


「それで、お前さんはどうしたいんじゃ?」


 婆さんに問いを投げかけられて、ふとゼスト先生の言葉を思い出す。


 ──大賢者を目指しながらでいい。そいつと重なる道があるかもしれねぇからな。


 自身の魔法をとことんまで追求したいという願いと、それに並行した俺が進む人生の道標。


 率直な気持ちが口から溢れる。


「……俺は、魔法が楽しいものだって、素晴らしいものだって。諦めている奴がいるなら、そいつらにもう一度教えてやりたい」


 無属性の防御魔法でここまで来れたのは、大賢者の婆さんがいてくれたからこそだ。彼女が俺に魔法の可能性や夢を教わった。なら俺も、誰かにその事を伝えたいと思ったのだ。


「なら『教師』とやらを目指すというのもアリかの?」 

「それ、最近誰かに言われたよ」


 無属性魔法の可能性だけではない。


 魔法という存在の可能性を、その楽しさを俺以外の誰かに伝えたい。


 なら確かに、教師の道を志すのもありかなと、以前より強く思う。


 ──たとえどのような道を歩もうとも、俺にはまだまだ足りないものが多すぎる。


 上を見れば遥かな頂きを仰ぐが、頂点は未だに輪郭すら見えない。


 その輪郭を目に焼き付けるにもまだまだ身の丈は足りなさすぎる。経験が浅すぎる。


 だから学ぶのだ。


 ジーニアス魔法学校という成長の場で。


 頼もしい友人たちと共に。


 この胸の中に出来た小さな染みも引っくるめて、進むのだ。


「後悔するのは良い。後ろを振り向いたって全然構わん。足を止めるのだって無駄ではない。だが、必ず前に進む事をやめてはならん。そして悔やみ振り返り足を止めたのであれば、次に踏み出す一歩は以前よりも確実に力強くなるのじゃよ」

「誰の言葉だよ、それ」

「大賢者様のありがたいお言葉じゃよ。心に刻んでおくが良い」

「はいはい」


 胸を張ってふんぞり返る大賢者に、俺は軽く返す。


 ただこっそりと、胸の奥に刻みつけるのであった。


課外授業編完結

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大賢者pop
― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 教師かぁ 挫折、後悔、失敗。それらを経験して、なお自力で前に進める人は少ないですが。 傍に人がいるだけで、それでもと思える人は多いと思います。 …
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