第二百六十五話 罰と道筋
「リース君、きみが責任を感じる必要はありません。君の行動は人としても、また学年首席としても正しかった。それは、ジーニアス魔法学校の長として保証しますし、また君の周囲の人間もまた認めてくれます」
「そう言ってくれるのは嬉しいんですがねぇ」
決闘で二人をぶちのめした事自体に全く後悔はない。ただその後はもう少し何かやりようがあったのではないか。自分でもたらればの話で悩むのはらしくないとは思いつつも、そうした考えがどうしても頭にチラつく。
──もっと、反抗を抱く余地すらなく徹底的に『分からせ』ればよかったのか。
色々と思考がぐるぐると駆け巡って、俺はバチンと自身の拳を手の平に打ち付けた。
「とりあえず、あいつらはいっぺんぶん殴りたい」
結局、あいつらが悪いのは確実であるし、やらかしたのもあいつらである。俺にこんな悩みを抱かせるあの馬鹿どもを、今度こそきっちり締め上げたい。
「気持ちは分かりますが、相手は仮にも貴族の子息たちですよ。決闘でならいざ知らず、私的な理由で害せば流石に問題になってしまいますよ」
「うっ……」
至極もっともな論を学校長からいただき、俺は呻く。
授業の一環としてまともな手順を取れば殴れるが、普通に殴ったら俺が捕まってしまう。牢屋に入ってまであの二人に怒り心頭なのかと問われると、そこもまた疑問だ。ただこのままだとあまりにスッキリしない。
「暴力的な処置は許可できませんし、残念ながら君の手で鬱憤を晴らすのもまた許されません。ただ、彼らをそのまま無罪放免で終わらせる事もまた許されません」
「えっ?」
悶々と頭を抱えている俺に、学校長が言う。
──エディとジルコの両名は、一身上の都合により退学──という建前で、実質的に追放処分となった。
これだけでも二人にとっては重い罰にはなるが、それだけでは済まされない。内密の話にはなるが、学校長は二人の実家に、向こう五十年はジーニアス魔法学校への入学は拒否すると通達したのだ。
「五十年……あの二人の孫くらいまでは、入学できそうにないっすね」
学校長が長命種であるからこその、具体的な期間設定だ。
名門ジーニアス魔法学校というのは、たとえ一般クラスであろうとも卒業すればその肩書きは魔法使いにとって相当の称号になる。エディとジルコは孫の代に至るまでその栄誉に至る道を閉ざされることとなったのだ。
「これに異議を申し立てる、あるいは君やその周辺の者に害をなした場合、彼らが行ったその全てを世間に公表すると伝えました」
今回の事件は俺個人への恨みが発端だとしても、それに一年生が全員巻き込まれたのだ。前述のように、責任の全てが死んだ狩人に向けられているものの、これが学生のやらかしだと露見すれば最悪だ。あの二人の実家は一年生の親御たちから激しく敵意を向けられ、総出で潰されるであろう。
「俺の証言だけで、誘導香をあの二人が使ったって物的証拠はないんですけど、その辺りはどうするんですか? 下手にごねられたら面倒になりそうですけど」
エディとジルコは、一応は死亡した狩人たちとの繋がりを証言している。けれども言った通り、それを証明する証拠がない。もし裁判に発展した場合、二人が知らぬ存ぜぬを通せばそれがそのまま通りかねない。
そこで、学校長は笑いながら立てた指を左右に振った。
「これでも長きに渡り、魔法学校の校長を務めてきた実績があります。国内での影響力は多少なりともあるのですよ。たとえ状況証拠であろうとも、私が発言すれば、あの両名の生家は以降、長きに渡って冷遇されるでしょうね」
普段の気さくさからたまに忘れそうになるが、この人が国内最高峰の魔法学校を統べる校長だ。時には国王の相談役も担うほどの御仁である。『多少は』と謙遜しているが、実際には大貴族並みの発言力もありそうである。
「御家が潰されるか、息子の代限りで冷遇を我慢するか。ギリギリで後者が妥当か」
「そういうことです」
子供達のやらかしに目を瞑る代わりに、その子たちが受ける罰則を甘んじて受け入れろと、下手に殴って終わりよりも遥かに尾をひく重たい罰だ。これ以上俺がとやかくいうのも野暮というものだ。
当事者の二人は文字通り、己の誤った選択を死ぬまで突きつけられることになる。逆に、当事者の二人が亡くなった頃には罰は罷免されるという訳だ。
「ただ、私はそれ以上の罰を彼らに与えようとは思いません。あの二人はまだ若い。ジーニアスで受け入れることはありませんが、そのほかで心を入れ替え、正しい道筋で立ち上がろうとするのであれば、私が関わる道理はありません」
エディとジルコは確かに間違いを犯した。学校長は罰を下した。それでも、あの二人が別の場所で更生の道を歩むというのであれば止めはしない。それが、一度は生徒として彼らを預かった学校長なりの矜持なのだろう。
──ひとつだけ、最後の最後まで不明だったのが、身元不明の狩人たちだ。
俺が駆けつけた時点で全員が魔獣に食い殺されたのは確か。その後に九尾狐の放った魔法によって遺骸も装備も判別不能になるほどに焼け焦げてしまった。あとで調査もされたようだが、かろうじて人間の死体があった──程度しか分からないほどの損傷であったらしい。
あの二人組からは、誘導香を渡されてジーニアスに迷惑をかけたい程度の話しかなかったようだ。それだけで誘いに乗るあいつらも大概であるが、困ったことにそれ以外に情報はほとんどないに等しい。
果たしてあそこで死んでいた狩人たちは誰であったのか。
最後まで明かされることはなかった。
不良狩人たちは特にリースの記憶に残ることなく、ふわっと退場しました(この辺りは最初から決めてました)




