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大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜  作者: ナカノムラアヤスケ
第五の部 学園生活順風満帆なお話
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第二百六十三話 師の喜び


 二人が森の外にある本営に到着したのは、九尾狐が最初に火柱を巻き起こした少しばかり後の頃であった。


「言うて、お前一人でもどうにかなったじゃろうに」

「おっしゃる通りではあるかもしれませんが──この近辺が更地になっていたでしょうね」


 長命種であり国内最高峰の魔法使いである学校長。人間の言葉を話すほどの高度な知性を有した幻獣との遭遇した経験も一度や二度ではない。話し合いで終始解決した事もあれば、実際に戦いに発展し鎬を削った事も当然ある。


 そうした経験の中であっても、あの九尾狐の危険度は最上位に位置していた。ゆえに、アレほどの存在が眠る地を課外授業に選んでいた事実が重く伸し掛かる。調査は常に入念に済ませていたはずだが、自身が赴かなかったことがひどく悔やまれた。


「とりあえず、修行の相手が増えて、儂としちゃぁ助かるがな」

「まさか、またやらせる気ですか。いい加減に死んじゃいますよ、リース君が」

「すぐにゃやらせんよ。いずれはとは思っておるが、さすがに時期尚早じゃて」


 さぁって、どうしてやろうかな、と。大賢者は顎に手を当てると、弟子に行う新たな指導を想像し実に楽しそうに肩を揺らしている。


 しばし黙って大賢者を眺めていた学校長ではあるが、ついには耐えきれずに口を開いた。


「老師。お聞きしたいことがあります」

「ん? なんじゃ、妙にかしこまってからに」

「……九尾狐との戦いで、リース君が最後に見せたあの動きを覚えていますか」

「そりゃ、ついさっきじゃしな。当然じゃて」

「一度、リース君が倒れてから、九尾狐に肉薄するまでの間。ほんの僅かの間でしたが、彼は九尾狐が投影し放っていた魔法のほぼ全てを見切っていた」


 加えて、リースが最後に投影した二つの魔法。アレらは、進化エヴォルトで増大した内素の全て注ぎ込んだとて到底及ばないほどの、莫大な魔力を秘めていたのだ。


 実のところ、二人がこの場に駆け付けたのはリースが九尾狐と激戦を繰り広げている最中であった。リースを見つけた、学校長は急いで割って入ろうとしたが、それに待ったを掛けたのは大賢者であったのだ。


「……全てを予想していたわけじゃぁない。ぶっちゃけ、墜落してぶっとんたのを見た時点で、儂も割って入ろうと考えたしな」


 最初、学校長に待ったを掛けたのは、やはりリースへ修練を課す為であった。かつては絶対に手出しを厳禁をしていた幻獣を相手にして、成長した自身がどれほどにまで至ったのか、その自覚を促すためだ。別に勝利は求めていなかったし、敗北の必至は分かり切っていた。リースであれば必ず、この負けを糧にして立ち上がると信じていたからだ。


 だが、リースは立ち上がった。


 大賢者との鍛錬の日々を糧に、二本の足で立ち上がったのである。


 本来であればその時点で満足するはずであった。


「じゃが、あの瞬間に考えが変わった。ずっと見てきた儂だから分かったのじゃ。あやつは今『巨大な壁』を越えようとしているのだと」


 そして、大賢者が抱いた予感を、リースはまさしく体現してみせたのだ。


「ほれ、分からんか。霧散を始めてはいるが、この場に多く残っている魔力を」

「言われてみれば確かに……これはリース君の魔力。──ッ、これほどの量を!?」


 雑多に混じり合っているがゆえに最初は分からなかったが、一度気がつけば外素にリースの魔力を感じることができる。確かに、魔法を使った直後に霧散した魔力に、使用者の気配が強く残るのものではあるが、戦闘が終わってからもしばらく残り続けるほどの濃度となると、尋常なないほどの量である。


「そうじゃな。ものすごくざっくりと噛み砕いて示すとすると……ああ、リースと仲が良い水属性の娘と風の娘がおったじゃろ」

「ラピスさんとカディナさん……ですか?」

「あやつらが持っている特性の複合みたいなもんじゃ。厳密には違うじゃろうが」


 ラピスの特性は、一度使った魔法の残滓にしばらく魔力が色濃く残るというもの。


 カディナの特性は、風の流れを感じ取ることで周囲の状況を把握するというもの。


「この空気に漂う莫大なリースの魔力を通じて、九尾狐が操る魔力の動きがあやつに伝播し、そして周囲の魔力を掻き集めることによって超高濃度の魔法陣の投影を可能としたのじゃ」

「で、ですが──そもそもどうやってこれほどの魔力を、魔法を事前に投影していたのですか。ここまでの量ともなると、それこそ老師や私が本気で魔法を投影したくらいのものですよ? 我々が駆けつける前から戦闘が始まっていたとはいえ、些か無理があるのでは──」


 リースの魔力は外素を供給し続ける限りに無限に使用できるが、その『出力』には限度がある。進化エヴォルトを用いて限界まで魔法を連続使用したとて、ここまでの魔力を撒き散らすことなど不可能だ。


「──いえ、ちょっと待ってください。そういえば彼の進化エヴォルトは……」


 けれども、そこは国内最高峰の魔法学校を統べる学校長。


 途中までを口にしてから、脳裏に過ぎるものがあった。


 リースが進化エヴォルトに用いる、吸魔装腕(アブソート・アーム)──その背中に備わっている魔力翼。莫大な量の外素を取り込み内素に転換する際、取り込みきれず余剰となった魔力を体外へと排出する安全弁として機能している。吸魔装腕(アブソート・アーム)は一度投影すると止めることができない為、この安全弁を使って体内の魔力が許容量を超えない様に排出量を調整しているのである。


「おぬしも気がついた様じゃな。そう、リースに取り込まれた外素は、内素へと一度転換された時点で『リース(あやつ)』の魔力となるのじゃよ」


 通常、魔法使いの魔力が体外に放出されるのは、魔法を投影し使用後に霧散した場合がほとんどである。あとは呼吸に伴って僅かに漏れ出すのがせいぜいである。


 けれどもリースの吸魔装腕(アブソート・アーム)は、稼働し続けている限り延々と自身の魔力を体外に放出し続けているのである。


 普通は発想すら湧かないであろう。


 ただただ魔力をそのまま体外に放出する行為は、限りある燃料に火をつけずにただそのまま無駄に垂れ流す行為に他ならない。外素を無尽蔵に取り込むことができる、無属性の彼であるからこそできる芸当だ。


 九尾狐との戦闘の終盤は特に、吸魔装腕(アブソート・アーム)の制御に意識が向いておらず、魔力の吸引も放出も最大で行っていた。


 結果として、リースの魔力が一時的かつ限定的にではあるものの、ラピスやカディナと特性に酷似した性質を得るに至ったのである。


「あくまでも『限定的に』ですか」

「感知できるのはリースの魔力が色濃く充満している範囲に限られるし、操れる魔力もやはりリースの手が届く近辺に限られとる。あの娘らほど器用には扱えんよ。他にも『条件』や『リスク』も多くあるしな」


 ラピスは投影した魔法を即座に再利用できるし、カディナは既存の空気をそのまま読み取ることができる。対してリースは、己が散布する自己の魔力が一定濃度に達しない限りはその域に届かない。加えて、彼女らほど自由に扱えると言うわけでも無い。


「……いえ、これが限定的な能力であったとしても、もし彼がこの能力を使いこなすことができれば」


 果たしてリース・ローヴィスという少年が行き着く魔法使いとしての『極致』とは。


 類を見ない進化を見せる生徒の未来を想像して、学校長は無意識に唾を飲み込んでいた。


「老師は、リース君がこの領域に足を踏み入れると、予期していたのですか?」

「こやつの進化エヴォルトを見た時点で、おおよそは。──が、こうも早く訪れるのは本当に予想外じゃて。なんらかの修練で覚醒を促すつもりではあったがな」


 さしもの大賢者とて、リースがジーニアスに通っている最中に『幻獣』とやり合う事になるとは考えもしなかったのだ。卒業後にいずれかの機会(タイミング)で──とは考えてはいたが。


「やれやれ、こやつは時折に、儂の想像を超えてくる。本当に困ったやつじゃよ」

「そうおっしゃられる割には、随分と楽しそうですね」

「師匠冥利に尽きるとはこの事じゃからな。じゃからこやつを弟子に取ったわけじゃし。お前もそうだろ、ディスト。だから校長なんぞやっているんじゃろうに」

「ええ、確かにその通りですね」


 教師とは教え子が至るであろう成長後の先を予見し、そこに至る道筋を示すのが役目。そして、教え子が教師の想像を超えた結果を生み出すのが何よりも得難い喜びだ。


「まぁ、今回のアレ(・・)は、階段を二段三段どころか数十段くらいまとめてすっ飛ばしてからな。後でしっかりと釘を刺さんといかん」

「ああよかった。老師がその辺り、ちゃんとまともで」

「人をなんじゃと思っておるんじゃ、お主は!」


 学校長が大仰なそぶりで胸を撫で下ろすと、ぷりぷりと憤慨する大賢者。その傍らで、リースは変わらず意識を失ったままであった。


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大賢者pop
― 新着の感想 ―
最大出力で吸引排出を行った残滓ならば、その最大値を増やせばいいだけの話。 わかりやすい指針ができたねノ
場が整うまで時間は掛かるが、自分がばら撒いた魔力の範囲内では火力、防御、スピードが上がるのかな?そのまま出力に転換してるなら。
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 限定的環境かつ長時間の使用で発動⋯⋯ これ普通に使うの無理やな
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