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大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜  作者: ナカノムラアヤスケ
第五の部 学園生活順風満帆なお話
252/253

第二百五十六話 本当にお願いだからお手柔らかに頼みたいやつ


 尻尾狐が七本以降がほとんど確認されていないのも、六本からさらに尾を増やす個体に魔法の適性が求められるから。そしてやはり、七本尾に至った尻尾狐を目撃し、無事に生存を果たす者が滅多にいないのである。


「そりゃ資料にねぇわけだよ。見つけて、情報を持ち帰る奴がいねぇんだから」


 確認した人間が生きて帰らなければ、その生物の存在は大多数の人間にとって『無い』に等しい。事象とは複数の人間に観測されて初めて『現実』を帯びるのである


 情報が存在しない危険に備えるのは非常に難しい。どれほどの万が一を想定したところで、億が一(・・・)の想定外には無力だ。


 こうしている間に、攻める隙はあったと言うのに、九尾狐は魔法も撃たずに静観をしている。ただ、気怠げな雰囲気を漂わせていながらも、静かな殺気を俺に向けてきている。背中を見せれば、即座にそれを上回る速度の火炎がどこまでも追いかけてくる。


 つまりは完全に標的にされていた。


 攻め手にも欠け、逃げ手も塞がれた八方塞がりときた。


 ほんの少しだけ、絶望に浸っても許される状況だった。


 他の個体ではあるが、幻獣が扱う魔法を目にしたこともある。人の身が挑むにしては桁がちがった。遭遇すれば、天を運に任せる他ない。


「だからといって……無抵抗で受け入れられるほど甘い鍛錬は積んでねぇぞ、俺は」


 運に身を委ねるのは、人事を全うしてからでも遅くは無い。


 なにより、生き残る()が完全に無いわけでもなかった。


 虎の魔獣を焼き尽くした火柱。そして九尾狐が俺に向けて放った大火球。


 どちらも相当な音と衝撃をあたりに撒き散らした。それこそ、余波が森の外にまで轟くほどだった。最初の火柱にしても、高さはあたりの木々を軽々と超えるほど高らかに昇っていた。


 であれば、本営を構えている教師たちが気が付かないはずがない。


 俺が帰還していない現状からして、帰還できない緊急事態に巻き込まれていると察してくれるだろう。なら、教師たちが救援に駆けつけてくれる可能性だって十分にあり得る。


 超一流の魔法使いであるジーニアスの教師であれば、幻獣に対抗できる──と信じたい。


 時間稼ぎが可能であるという考えには根拠があった。


「やっぱり、笑ってんな、アレ」


 距離はあるものの、俺の目には狐の口元がほのかに吊り上がっているように見えた。そしてそれはただの希望的観測ではない。


 相手が幻獣であることが事実の裏付けだ。


 単なる魔獣ではこうはいかない。


 俺の知るモノとは明らかに隔絶はしていたが、九尾狐は間違いなく魔法の投影を行った。言い換えれば、投影という魔力操作を行うだけの知性がある。


 幻獣は総じて、ただの獣では持ち得ない知性を有していると、大賢者から教わった。


 ただ、その程度は個体によってまちまちだ。


 九尾狐の知性(それ)が五歳児程度なのか、あるいは老齢の魔法使い並みかは流石に判別はできない。ただ、本能任せに暴れる魔獣とは思考の形が異なって然るべきだ。


 九尾狐は先ほどから俺の出方を伺っている。見据えているのではなく、ただひたすらに『強者』の余裕だ。俺が次に何をしたところで対処できると言う絶対的な自負。


 つまりは、遊んでいるのだ。


 これは九尾狐にとって暇つぶしの余興なのである。


 俺という玩具がどのように足掻くのかを、特等席で楽しんでいるのだ。


 であれば、恥も外聞も投げ捨てて、余興(それ)に甘えるしか無い。


 要約すれば、九尾狐が飽きないように抗い、教師たちが救援に駆けつけるまで持ち堪えれば、俺の勝ちだ。それができなければ、俺も離れた場所で気絶している馬鹿二人も、あえなく黒焦げになって終わりである。


 虎型と戦闘する際に大きく距離を取ったので、気絶している馬鹿二人には被害が及んでいない──と思う。残念だがあいつらに気を向けている余裕はなかった。あっちはあっちで己の運を信じてもらうしかない。


「婆さんの恐ろしい課題が、まさかこんな形で発揮されるとは」


 大賢者の苛烈な鍛錬(シゴキ)に思う所は多々あれど、今にして振り返れば感謝の念も出てくる。あの身を削る修行の日々があったおかげで、一手間違えれば即座に死にかねないこの状況でもある程度の冷静さを保てる。


 ──それでも、心臓の鼓動が早まるの抑えきれない。


 黄泉の森で鍛えられてた時は、必ず師匠(バアさん)が居てくれた。


 どれほどに危機的な状況であろうとも、九割九分ほど死にかけていたとしても、大賢者が後ろにいてくれると分かっていたから、諦めずに乗り越えられた。


「……ぐだぐだ考えてもやることは変わらねぇか」


 いつまでだって大賢者の庇護に甘えているわけにはいかない。


 それが遅いか早いかの違いであり、今日であっただけだ。


 俺は吸魔装腕(アブソート・アーム)の吸引口を開き、外素を取り込んでいく。内素が充実していく感覚を宿しながら、魔力に覆われた両腕の拳を叩き合わせた。


「伝わるかどうかは分からねぇが──尋常に勝負といこうじゃねぇか、九本狐(ナインテイルス)! お手柔らかに頼むぜ、本当(マジ)に!」


 己を奮い立たせるために、そして少しだけ懇願するように。幻獣に向けて宣言する。


 俺の言葉はともかく、戦いのへの意志は伝わったのだろう。


 ──ケェェェェンッ!


 どことなく愉悦の混じった獣の鳴き声が木霊(コダマ)すると、九本の尻尾に轟々と燃え盛る炎が灯った。俺が最初に受けた炎よりも明らかに含まれている魔力の量が多い。


「やってやるよ、ド畜生がぁ!」


 迫り来る炎の雨に向けて、俺はヤケクソ気味に叫んだ。

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大賢者pop
― 新着の感想 ―
さて、死闘になるだろうけど、最後には相棒になってたりしないかな・・・
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 教員でなんとかなるレベルなのかな? 不安
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