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大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜  作者: ナカノムラアヤスケ
第五の部 学園生活順風満帆なお話
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第二百五十四話 尻尾狐の尾の数は──

尻尾狐の一本尾は、【竜のクエスト】に出てくるお馴染みの青いアレと同等です


 ──この時、俺は確かに油断していた。


 周辺が落ち着きを取り戻していると思っていたが、それは違った。


 直前まで魔獣たちが暴れていたにしては、あまりにも静かすぎたのだ。


「こいつも、馬鹿のやらかしに巻き込まれたんだよな。……狩人ハンター目線だと余さず使うのが礼儀なんだけど、俺個人としては埋葬してやりたい気も……ん?」


 事切れた魔獣をどうしようかと悩んでいると──俺はようやく『それ』に気がついた。


 木々の間のさらに奥側に佇む、一匹の獣。


 遠間でまだよく分別は付かない。


 目を細めて注意を向けると、耳の形状からおそらくは狐の類であろう。


 この森には狐の魔獣も確かに生息していたが、どうにも毛並みが気になる。

 ただの黄色では無く、もっと色鮮やかなものに見えるのだ。


『それ』は誘導香で無理矢理に興奮させられた魔獣をも正気に戻し、恐れ慄き遠ざかったのであると、後々になって気がついた。


 狐の背後で何本もの(・・・・)尻尾(・・)が揺らめいた。


「────────────ッッッッ!?」


 全身の肌が泡立った。


 まるで心臓を鷲掴みにされたような恐怖が襲いくる。


 思考よりも先に反射が体を突き動かす。残っている内素のありったけを翼に込め、全力で飛び退いた。


 次の瞬間には、俺が直前まで立っていた場所から紅蓮の火柱が立ち昇った。僅かでも動き出すのが遅ければ、間違いなく巻き込まれていた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 火柱を見据えながら、荒い呼吸が口から溢れ出す。炎が収まれば、文字通り渦中に横たわっていた魔獣の死骸は黒く炭化していた。風がヒュルリと吹けば、音もなく脆く崩れ去る。


 周囲の熱気に反し、背筋が凍え、冷や汗が止まらなくなる。


 俺は生唾を飲み込み、もう一度、狐に目を向ける。


 いつの間にか、姿を確認できる距離まで近づいてきていた。


 虎型の魔獣ほどではないにしろ、狐にしては相当な大きさ。


 これだけでも魔獣と判断するに足るが、問題なのはその背後から伸びている尻尾だ。


「七……八…………九……嘘だろ?」


 数えながら、俺は己の正気を疑いたくなった。


 ──尻尾狐(テイルフォックス)という魔獣がいる。


 姿形は狐そのままではあるが、成長し力が増すほどに尻尾が増えるのだ。


 一本や二本なら、狩人ハンターが普遍的に狩る獲物。三本あたりから注意が必要になり、舐めてかかって返り討ちにある狩人も出てくるだろう。


 六本になると体格が飛躍的に大きくなり、狩人ハンター組合が要警戒対象に選ぶほどになる。


 もっとも、そこまで尻尾を増やす個体は滅多にいない。尻尾狐の中でも限られた個体しか六本尾にはなれないからだ。七本までいくと、その目撃例は狩人ハンター組合ではほとんど記録がないとされている。


 そして、俺の前に現れた魔獣の尾は──九本。


 俺も大賢者から教わった限りであり、実際に目にしたのは初めてだ。存在を知っている者もおそらくほとんどいない幻の魔獣。


 九尾狐(ナインテイルス)と個体名が付けられるほどの、最上位危険魔獣である


 ──ケェンッ。


 まるでアクビするかのような、小さな鳴き声。しかし、九本の尻尾が揺らめくと、その先端に火が灯り、俺に向けて放たれる。


 衝撃から立ち直るも、そのせいで初動が遅れる。回避している余裕もなく、俺は吸魔装腕(アブソート・アーム)の回転翼を全力で稼働、魔力を供給しながら防壁シールドを多重に投影する。


「ふざけんな! 初級並みの投影速度でこれかよ!?」


 火炎が防壁シールドに命中する度に、表面に罅が入り容易く砕かれる。砕かれる度に防壁シールドを投影するが、尻尾から放たれる炎の連射は止まらない。しかも、防いでいるはずなのに火傷しそうな熱気が伝わってくるのだ。


 九尾の狐は炎を撃ちながら、俺がいまだ健在であることに首を傾げる。


 ──クァッ!


 それは苛立ちかあるいは戯れか。人には判別しにくい鳴き声を漏らすと、九尾狐は尻尾のそれぞれから放っていた炎を止めると、その先端を一点に向ける。


 九つの尾が示す先に浮かび上がるのは、俺がこれまで嫌というほど目にしてきた、けれどもそのどれよりも緻密な構造を有し、濃密な魔力を帯びた陣。


 俺は強化(エンハード)を解除して即座に超化エクステンドを発動。迷わずに三枚の魔力翼を掴むと胸に叩き込んだ。


進化エヴォルト!!」


 右腕に剛腕手甲アイゼン・ファウスト。左腕に吸魔装腕(アブソート・アーム)を具現装着。瞬く間に膨れ上がる狐の炎に向けて要塞防壁ギガ・フォートレスを構えた。


 大火球となった紅蓮が解き放たれ、防壁に接触。


 ──その刹那、音が消えた。


 完全に聴力が麻痺し視界も明滅する中で、構えた右腕がへし折れそうな凄まじい衝撃に耐える。ほんの僅かでも力が緩んだが最後、虎の魔獣と同じ末路を辿る。


 要塞防壁ギガ・フォートレスへの圧がなくなり、麻痺していた感覚も戻ってくる。自身の周囲を確認すると、前方と左右の斜め後ろ──つまりは俺の背後以外が軒並みに吹き飛ばされていた。地肌が剥き出しになっており、先程まで木々が生い茂っていたとは思えないほどの惨状である。


「くそっ、こんなの何発も貰ったら、先に腕が駄目(おしゃか)になる」


 要塞防壁ギガ・フォートレスを解除して九尾狐を見るが、あれほどの魔法を使ったというのにケロッとしていた。やはり消耗は無いに等しいらしい。対して俺は、右腕の痺れが取れず、心臓の鼓動が緊張で(はや)っていた。


「明らかに魔法を使ってる──黄泉の森の外で『幻獣』に出くわすなんぞ、誰が思うかってんだ、クソッ」


 九尾狐が宙に描いたあれは、紛れなく『魔法』の投影に他ならない。その事実に、俺は悪態をつかずにはいられなかった。


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大賢者pop
― 新着の感想 ―
つまり、やばいということか。育ったスラ仏はヤバいんやで。
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 これどうするじゃぁ 絶望感やばいって
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