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大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜  作者: ナカノムラアヤスケ
第五の部 学園生活順風満帆なお話
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第二百四十六話 異常事態が発生したっぽい


 最初に足を止めたのはアルフィだった。


 先頭を歩いていた親友は不意にその場に立ち止まると、険しい表情で周辺を見渡し、やがては俺に目を向けた。


「……なぁリース」

「やっぱりお前も気がついてたか」

「じゃぁ」

「もうちょい進んだくらいで俺も止めようとしてたところだ」


 アルフィも森に入る機会が多い生活を送っていた。俺ほどではないにしろ、辺りに立ち込める『異変』を、他の班員よりも早く察知したのだ。


「も、もしかして何か問題が?」


 班の一人が不安げな声を漏らす。


 アルフィが俺に目配せするので頷きを返し、事情を説明する。


「実は、少し前あたりから森の空気が妙に張り詰めてる。ここまで急に肌がヒリついてくるとなると、あまりよろしくない」


 非常に曖昧で感覚的な話だ。言葉にしたところで全てが伝わるとは思っていない。それでも、俺とアルフィが揃って真面目な顔をしているからか、只事でないことだけはわかってくれたようだ。


「……それで、これからどうするの?」

「課題の分はすでに仕留め終わってる。今すぐに本営に戻るぞ」


 こういう時、話が早いのは実にジーニアスの生徒らしい。俺の意見に異を挟むものはおらず、アルフィを含めた班の全員が頷いた。


 班長には本営の方向を示す魔法具が渡されているので確認。先ほどまでとはまた違った緊張が班の生徒達に伸し掛かるなか、気持ち急ぎ足で撤収のルートを辿る。


「教師達が気がついてると思うか?」

「少なくとも狩人の連中は気が付いてんだろ。とはいえ、情報の共有はしておきたい」


 修行の一環として黄泉の森で長く過ごしただけあり、俺も経験の長さだけは他の狩人とも引けを取らない。ただ、ジーニアスに入ってからはその辺りは随分と疎かになっており、勘が鈍っていない断言できない。その辺りは現役で活動中の狩人と意見をすり合わせる必要がある。


 と、周辺を警戒しつつも今後の事を考えていたその時だった。


 俺とアルフィはハッとなり背後──つまり森の奥へと振り返った。


 直後、森が脈動(・・)し、聞く者の心を鷲掴みにするような野生の咆哮が響き渡った。耐えきれず、女子達は耳に手を当てながら悲鳴を上げて蹲ってしまう。


 咆哮の余韻が消えてなくなると、徐々に森全体の騒がしさが増していく。ここまでくると他の班員達にも感じ取れるようだ。顔を青くして落ち着きなく視線を彷徨わせていた。


 俺は即座に決断を下す。


「アルフィ。班のこと任せられるか」

「お前はどうするつもりだ」


 懐から、班長が持つ緊急用の魔法具を取り出しアルフィに差し出す。驚いた顔の親友がすぐには受け取らずに逆に問いかけてくる。


「他の生徒の避難を助けてくる。俺なら空から行けるしな」


 おそらく、今のアレ(・・)狩人ハンターたちは生徒の避難誘導を開始するはずだ。けど、こいつは明らかに異常事態。狩人ハンターだけじゃ手が足りないかもしれない。


「だったら俺も」

「戦力としちゃ心強いが、だったらあいつらはどうすんだ」


 俺が指差すのは、不安げにこちらを見ている同じ班の女子達だ。多少魔法が使えようとも、俺たちと違って森に不慣れの素人なのだ。彼女達を残してはいけない。


 一瞬だけ苦い顔をしたアルフィだが、渋々ながらも納得し俺から魔法具を受け取る。


「班を本営の教師達に引き渡したら、俺のことも含めて仔細全部伝えろ。その後は、他のハンターと合流して森に入れ。お前の実力を微塵も疑っちゃいないが状況が状況だ。森のプロが同伴した方がいい」


 臨機応変が求められる状況であれば、アルフィの四属性は必ず役に立つだろう。


「分かった。……でも、無茶は良いが無理はするなよ」

「おう、任せな」


 アルフィと握り拳をぶつけ合わせると、俺は跳躍ステップで一気に飛び上がり高い樹木を越える。見下ろせば、アルフィが最後にこちらを一瞥してから、女子達を率いて本営へ向かって進み始めた。


 親友を見送ってから俺は森の上空を駆け始める。


 想像に違わず、森の至る所から殺気だった魔獣の声が聞こえてくる。ここまで顕著に荒れたのは間違いなく先ほどの『咆哮』だろうが、俺とアルフィが感じた『異変』はそれよりも前であったことが気になる。


 課外授業の直前までこの近辺には入念な調査が行われている。魔獣が平時とは異なる行動を起こしていないか。他所から近辺に生息していない魔獣が流れ込んできていないか。危険が伴う授業ではありつつも、生徒の安全のために綿密に前準備を敷いてきたはず。


 少なくとも、昨日の時点では問題があったとも、異常があったとも、狩人ハンター空報告はされていない。それに、俺たちが入った直後の時点では、森は昨日と変わらず穏やかであった。


 嫌な予感を覚えながら下界を注意深く見ていると、不意に視界に過ぎるものがあった。


 他の班を見つけた。だが、運悪く興奮した魔獣と遭遇している。しかも初動が遅れて後手に回っていた。先頭に立つ生徒が果敢に魔法で迎え撃っているが、他のメンツが浮き足だっている。このままだと怪我人が出る。


強化(エンハード)!」


 反射リフレクションで小規模の圧縮魔力を生み出し胸部に叩き込む。軽い衝撃が全身を駆け巡ると、左腕と背中に魔力鎧と翼が形成。音を立てながら外素を吸収すると、それを魔力翼から解放して一気に加速する。


 加速の最中に投影した手甲ガントレットが狙うのは、今まさに生徒に鋭い爪をむけている魔獣。そいつの脳天に防壁シールド越しの拳を打ち込み、地面に叩きつけた。


 魔獣が事切れたのを確認して、俺は生徒達に目を向ける。


「全員無事か?」

「え? あ……えぇっ?」


 確認を取るが、突如として空から首席(おれ)が現れた事態をうまく飲み込めずに、全員半ば呆然気味に目を瞬かせていた。


 どうにかこうにか落ち着かせることに成功すると、俺は即座に撤収を命じた。


「魔獣の死骸はこの際だから全部置いてけ。文字通り、餌を背負ってるのと同じだ」


 さすがにこの状況で成績にバツ(ペケ)をつけるほどジーニアスの教師は薄情ではない。むしろ、緊急事態における最適な解を選んだことで評価を出すだろう。


「それと水属性が使えるやつ、いるか」

「は、はい!」

「全員に浄化を徹底的に使え。死骸の匂いを徹底的に除去しろ。気休め程度かも知れないが、無いよりゃ遥かにマシだ」

「分かりました!」

 

 興奮した魔獣が食欲の有無関係なしに襲ってくるかも知れないが、中には空腹の個体もいるだろう。それらを誘導できるだけでも幾分かは楽になる。


「もし戻る最中に他の班に合流したら、俺が今話した内容を徹底させてくれ」


 真摯に言葉を受け取ってくれたのを表情を見て確認すると、俺は再び空へと飛び上がる。


「全員が無事に学校の寮に帰るまでが課外授業だ! 最後まで気を抜くなよっ!」


 最後に大声で告げてから、俺は空を疾駆した。



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大賢者pop
― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 不穏な気配が漂っていた森で、異常事態を発生させたのか 素直に収束しなそう
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