第二十三話 爆ぜました──あ、決着です
おかげさまで総合評価が30000ptを突破しました。
今日はそれを祝して二話目を更新。
まだ二十二話を読んでない方は戻るべし!
ついに隠されていた『おおきな』秘密が明らかに!
俺は振り抜いた右腕に伝わってきた反動に首を傾げる。
「……なんか胸に仕込んでやがんな」
硬質な何かを強打したような感触だった。
おそらく、制服の裏側に簡易鎧でも着込んでいたのだろう。素手で殴れば痛みが返ってきたかもしれないが、防壁で腕を保護して反動を和らげる手甲を使用していたので問題はなかった。
ただ、鎧一枚分は拳の威力が殺されたはず。本気の一撃では無かったしまだ気絶もしていないだろう。
俺の予想を証明するように、ラトスはのろのろと立ち上がり始めた。胸を手で押さえて激しくせき込んでいる。よく見ると、リースの拳を受けた付近の制服が損傷し、その内側が露出していた。
──ガランっと、彼の胸元から光沢のある胸当てがこぼれ落ちた。握り拳一つ分の窪みが穿たれている。
案の定、制服の内側に鎧を仕込んでいたようだ。
こちらを睨みつけるラトスの瞳には、まだ強い意志が宿っていた。俺は腰を下ろし、いつでも飛び出せるように構える。簡単に終わってもらっては、こちらとしても面白くないしな。
「────?」
ふと、俺の目がラトスの胸元──鎧に隠れていたさらに内側に吸い込まれた。なにやら白い紐状の布が胴体に幾重にも重なって巻き付いていた。いわゆるサラシというやつだろうか。
ラトスが水連射を投影し、水の弾丸を連射する。追いつめられているのを自覚しているだろうに、投影の精度に揺るぎがない。
疑問はさておき、今は決闘の最中。集中しないと。
俺は地を蹴って跳躍し、躯が宙を舞う。
水連射の弾道は俺の姿を追うように空へと向けられるが、俺は即座に反射を展開して蹴り抜いた。
増幅された反動を上手に利用しその場から弾かれるように離脱し、水連射の照準から逃れた。
この反射の移動法のおかげで、俺は地上での二次元的な動きだけではなく、空中での三次元的な動きも戦術に取り入れることができるのだ。
この移動法には反射の会得の他にも、反射を蹴り抜いた際の反動を許容できる肉体が必要となってくる。下手に真似すると反射を蹴った足の骨が反動に耐えきれずにへし折れるか、反動を制御しきれずにあらぬ方向へと躯が吹き飛んでしまう。みんな、気をつけろよ。
もちろん、俺はこの移動法を体現できるほどの肉体作りはしてきた。それまでは前述のような悲惨な目にあった。
水連射を回避した俺はさらに反射を蹴り抜き、空中から一直線にラトスへ急接近。体勢を立て直して跳び蹴りを放った。
「く──っそぉぉぉぉ!!」
声を荒げながら、ラトスは辛うじて身をよじった。その為か、俺の蹴りは彼の胸元を掠るだけに留まり、直撃にまでは至らなかった。
────ビリッ!
避けられたとは、ラトスの躯は俺の拳の射程圏内。再び腕に手甲を纏い、その躯に叩き込もうと…………ん、今なんか変な音しなかったか?
音は──ラトスの胸元から聞こえてきた。蹴りが掠めた際に、巻かれていたサラシが破れたのだろうか。どうせなのでもう一発そこに拳を叩き込んでやろうと目を向けると。
……妙に盛り上がってないデスカ?
そして俺の疑問に答えるかのように。
ラトスの胸元が〝爆ぜた〟。
より正確に言い表すのならば、サラシによって強引に押さえ込まれていた『モノ』が、その崩壊とともに勢いよく──爆発的な勢いで解放されたのだ。
男にとっては永遠の憧れ。
愛と夢と希望が詰まった二つの山。
限られた者にしか頂点を拝むことができない尊き山脈。
──どうやら、ラトス君はラトスちゃんだったようです。
……って、冷静になれるわけねぇだろ!!
「おぃぃいいい! どうなっちゃってんのこれぇぇぇぇ!?」
目の前にこぼれ落ちた『肌色をした二つの山』によって、俺の混乱が一気に加速した。
何が起こったんだ!
いや、分かるんだけど!?
「くっ、水弾!!」
「うぉぉっ!?」
普段の訓練が功を成し、至近距離から放たれた水弾を反射的に回避する。
「ちょ、ちょっとタンマ!?」
「決闘の最中に何を血迷ったことを!」
もしかして自分が今どんな状態なのか気づいていないのか!?
うぉぉっ!? 動く度にメッチャ揺れてんですけど!
え、巨乳ちゃんと同じくらいあるんでねぇのあれ!?
って、たわわな揺れ具合に見惚れてる場合じゃねぇな!
少しだけ観客の声に耳を傾けるが、聞こえてくるのは相変わらずの歓声。ラトス──ちゃんの『異変』に気づいた様子はない。興奮やら何やらでそちらにまで意識が向いていないのか。観客席と壇上のとの距離が少し離れているのも幸いしているのだろう。
けれども、このまま決闘が続けばいずれ気づく奴が出てくる。あるいはもういるかもしれない。どちらにせよこれ以上時間をかけるのは不味い。
早々にこの決闘を終わらせる必要がある。
仕方がない。ちょっぴり学校長の言いつけを破るが、たぶん許してくれるだろう。
「反射、起動」
俺は足場としてではなく、手の平に反射を展開した。中心部に魔力を注ぎ込み、全力で握り潰す。
固められた拳、その指の隙間から、銀色の光が漏れ出す。
「──ッ、リース君いけません! それは!?」
学校長の慌てた声が聞こえてくるが、無視をする。
それに安心してほしい。学校長が危惧するような事態はまず起こらない。
なおも放たれる水属性を掻い潜り、俺は大きく踏み込む。ラトスは慌てて離れようとするが、それよりも俺の方が遙かに動きが早い。
豊かな双丘の少し下、腹部の辺りに右手を構え、握り込んでいた『魔力』を解き放つ。
「『魔力砲』!」
──ドガンッ!!
爆裂音と共にラトスの躯が大きく吹き飛んだ。
よほど鍛えていない限りこの衝撃に耐えられる奴はない。確実にラトスの意識は飛んだはずだ。これで後は学校長に勝敗の判定してもらえば──。
「──ってやっべ」
確実に気絶させるために威力を高めすぎた。吹き飛ぶ勢いが強すぎて壇上の外に弾き出される。このままではラトスちゃんの豊かすぎる山が衆目観衆の面前に晒される!?
ところが、俺の心配は杞憂に終わった。
ラトスの躯が壇上を覆っていた『結界』の外に飛び出た瞬間、その姿は決闘に赴く直前の──破損が全くない制服を纏ったそれへと戻っていたからだ。
ハッとなり、俺は壇上に残っていたラトスの簡易鎧に目を向けると、鎧は影も形も存在していなかった。
今更ながらに実況の説明を思い出す。
壇上に展開された結界の内部で起こった出来事に限り、結界から出たり結界が解除された時点で全てが無かったことになる。
壇上の外に落ちたラトスはぱっと見では男子生徒そのものだ。これで彼──じゃなかった、彼女が女性であることは露見しないだろう。
「──まったく、人の注意を聞かない子ですね」
俺がホッと胸をなで下ろしていると、不機嫌そうな学校長がこちらに歩み寄ってくる。
「反則負けにしてもいいんですがね、私は」
「いやぁ……あははははは」
もはや笑って誤魔化すしかない。今更ながら、学校長の言いつけを破った事への不安が押し寄せてきた。
「……まぁ、今回は不問としておきましょう。威力も、どうやら測定場で使ったのと比べてかなり低いようですし」
「あの威力は両手を使わないと出ないんですよ。片手だとあそこまで派手な事にはなりません」
「そういうことも含めて、予め私に知らせて欲しかったのですがね」
はぁ、と一度溜息をついてから、学校長は俺の右手を掴み、天へ向けて高らかに掲げた。
「勝者! リース・ローヴィス!!」
──こうして、大歓声に包まれながら、一つの決闘が幕を閉じたのであった。
ただ、勝利したにも関わらず、俺の心には大きな懸念が生じていた。
あのおっぱいはなんだったんだ!?
はい、ラトス君はラトスちゃんでした!!
既にお察しの方はいたと思います。あの子もおっきいです!!
あらかじめ言っておくが、すぐにラブなコメディにはならんぞ? コメディにはなるだろうがな。
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