第二百四十一話 やつも意外と人気がある
ただ、正論を述べた生徒も、気落ちした表情を浮かべる。
「あと……冷静に考えると、恐れ多いというかなんというか。ぶっちゃけ、ここで名乗り出たところでっていうか」
「あぁ…………気持ちはわかる。高嶺の花だもんな三人とも」
──今更でもないが、リースの周りにいる少女たちは非常に人気がある。
それぞれが別方向で非常に優れた美貌と容姿と豊かさを有しているのは言うまでもないが、魔法使いとしての能力や家柄も破格である。
アルファイア家のご令嬢カディナは、その家名に溺れることもなく常に己の研鑽を怠っていなかった。他に厳しくともそれ以上に己に厳しくある姿は、同級生たちからの尊敬を多く集めていた。
また、入学当初からほとんど決闘を経験しておらず実力が曖昧であったが、校内戦においては学年首席との激闘を繰り広げ、まさしく学年次席としての高い実力を学年全体に知らしめた。
ラピスも、入学時点で男子として過ごしていた頃から女子たちから非常に人気は高かったが、本当の性別を明かしてからは男子生徒からの人気も熱くなっている。
また、実家であるガノアルク家は、魔法使いの家系としては非常に優れたモノであり、特に水属性の魔法使いの中で知らぬものはいないとされているほど屈指の名家である。
ミュリエルも他の二人に決して劣っていない。普段は常に眠そうな目をしているがそれが却ってミステリアスな雰囲気を醸し出しており、また小柄が小動物的な仕草も見られることからファンも多い。学業においてはやる気が表に出ていながらも、実際にはリースに次ぐ知識量と情熱があることはノーブルクラスの生徒にとっては周知の事実である
彼女の実家は貴族ではないものの、知る人ぞ知るやり手の商家であり、そこらの中小貴族よりも遥かに勝る財力を有している。平民であるからと侮っていると、痛い目を見ること確実だ。
これらの様に男子生徒から非常に人気である三人であるが、忘れてはならないことがある。
前述にある通り、この三人はノーブルクラスの──女子という括りになればトップ3であること。
そして、そんな彼女らと一番交流があるのが、我らが学年首席なのである。
「親しみやすいし普段が騒がしいから忘れがちだけど、成績は紛れもなく一位だからな」
アルフィは言わずもがなであるが、リース当人の隠れた人気も相当なものである。
首席であることをまるで鼻にかけることもなく、気さくで面倒見が良く誰とも隔たりなく接している。授業で分からない所で質問があればあれば素直に教えてくれるし、魔法の鍛錬についても誘えば非常に付き合いが良い。防御魔法についても、コツについて惜しげもなく解説してくれる。普通に頼られる存在なのだ。
「あのノリで文武両道が完璧とか、絶対におかしいだろ」
「しかもめちゃくちゃ努力の人だって分かるから、もう太刀打ち出来ねぇし」
「実際に負けてるからな、俺たち」
二人とも、既にリースに決闘を挑んでいるが、どちらも惨敗を喫している。ノーブルクラス所属だけあって彼らも学年内では上澄みではあるものの、リースはその上澄みの一番上に君臨しているのだ。あの首席は、対抗馬としてはあまりにも高すぎる壁なのである。それでいて悪感情はまるで抱かず、親しみやすさと尊敬を集めるのはリースの人柄故だろう。
「それに三人とも四属性持ちのアルフィに目もくれずに、だからな。俺たちが入り込む余地があるわけないんだよ」
「ぶっちゃけ、他の女子からの人気もめっちゃあるからなぁ……あんなのだけど」
小声で呟く男子二人の背中には切ない哀愁が漂っていた。
ジーニアス魔法学校での『首席』という立場ないし肩書は、当人が思っている以上の価値がある。国内最高峰の教育機関における最高成績者であればまさしく、進路先は引くて数多であり将来有望に違いなかった。
ではどうしてアルフィの様に女子に囲まれたりしないかというと、結局は対抗馬があまりにも強すぎて憚れるというのが実態である。また、果たして三人のうちの誰がリースを射止めるのか、という話題が陰で盛り上がっているが、やはり知らぬは当人たちである。
つまるところ、あの三人娘が揃って首席に想いを寄せているというのは周知の事実であった。彼女らそれぞれは想いを秘めているつもりであるが、バレバレなのである。
言い換えると、もし彼女らに言い寄ろうと考えるのであれば、それはあの学年首席以上の能力を発揮できないと、とてもではないが話が始まらないのである。
「この際、望みがないのはいいとして、あの首席とは誰がお似合いだと思う?」
「馬鹿野郎。この場で出していい話題じゃないだろ。万が一に前の三人に聞かれたらどうする。下手したらここが戦場になるぞ」
あの三人娘は非常に仲が良いことで知られているが、それと同時に一人の男を巡った宿敵同士でもあるのだ。教室内でもそれで火花を散らしている場面がよく見受けられている。
「二人とも。会話の内容は聞かないけど、気を抜きすぎだよ」
「「ごめんなさい……」」
先行するラピスのお叱りに、男子らは揃って謝を述べた。




