第二十二話 攻撃開始──種も仕掛けも捻りもないです
ついに総合ポイント30000ptに達しました。
「くっ──水連射!!」
ラトスは咄嗟に水の弾丸を連射した。
──ズダンッッ!!
突如として、リースの姿が消失し、目標を失った水連射は空を突き抜けた。
──バシャンッ。
背後から水が弾ける音に、ラトスは勘が命ずるままに魔法を発動した。
「『水流走!!』」
停止状態から一気に加速したラトス。本来は水の上を走る魔法だが、水浸しの地面であればその上を高速で移動することも可能だ。そして、この魔法を選択したのは実に正しかった。
「うぉおらぁぁぁっっ!!」
何せラトスが半秒前まで立っていた場所に、リースの蹴りが通り過ぎていたからだ。僅かでも退避が遅れていれば直撃を受けていたに違いない。
「逃がすか──よぉっ!!」
──ズダンッッ!!
重苦しい音が壇上の上に木霊すると同時にリースの姿が消失。気が付けばまたしてもリースはラトスの間近に出現している。
ラトスは水流走で距離を取りながら水属性魔法を放つがそのどれもが空を切り、回避された次の瞬間にはリースの姿が付近に現れる。
『リース選手が消えたり現れたりしています!! こ、これはどういうことですかアルフィさん?!』
『アレは種も仕掛けもなく、単なる力技です』
『……せつめいぷりーずです』
解説の意味が全く分からず、実況はかろうじて声を絞り出した。
アルフィはつまらなそうに。
『説明もなにも、全力で地面を蹴って移動してるだけです』
消えたり現れたりして見えるのは、単純に見ている人間の認識を大きく越えた速度で移動しているだけの話。
言葉にすれば簡単だが、とんでもない事実であった。
『…………彼は本当に人間ですか』
『幼馴染みの俺も、たまに不安になります』
「おいこらアルフィィィィ!! お前は時たま俺に辛辣すぎるぞ!!」
『やかましいぞこの歩く常識破り!! いいから黙って闘いに集中してろ馬鹿野郎!!』
急停止したリースが実況席に向けて叫ぶが、対して実況席のアルフィも拡声の魔術具を掴むと大声で言い返した。
傍らでそのやりとりを聞いていた実況は「この二人仲良いな」と率直な感想を口にしていた。
それはさておき、リースが足を止めた事に代わりない。回避に徹していたラトスにとっては千載一遇のチャンスであった。
「唸れ水流!!」
「ん? ──ぅぅぉぉぉおおおおおっっ!?」
リースの足下──大きな水溜まりから、ラトスの魔法によって水柱が発生。飲み込まれたリースはそのまま水柱の流れに巻き込まれ、空中へと高らかに放り出されてしまった。
『ラトス選手! ここでリース選手の一瞬の隙をついて反撃です! なんかアルフィさんが原因だったような気がしなくもないですけど!』
『………………………………』
──アルフィ君は黙り込んでしまった。
「攻撃魔法が通用しないのなら、場外に押し出すまでだ!!」
いくら防御魔法で魔法の威力は殺せても、その勢いの全てを殺しきることはできない。踏ん張りが利く地上ならともかく、空中であるならばなおさらだ。
ラトスはこの短時間で投影できる最大級の魔法を発動した。
「これで今度こそ終わりにしてやる!! 『蒼龍衝破』!!」
彼の周囲にある水溜まりから一斉に水柱が上がり、一点に集中する。やがてそれは水で形作られた『龍』へと変じ、リースへと襲いかかった。
『ラトス選手がここで水属性の上級魔法を発動! これはもしや勝負が決まったかぁぁぁぁ!?』
誰もが実況の言葉に疑いを持たなかった。
水の龍は目前。リースを飲み込まんと大口を開いて迫り来る。
「反射」
リースは些かの迷いもなく魔法を発動。彼の側に反射の効果を秘めた半透明の力場が出現。それは迫る龍のアギトを防ぐにはあまりにも小さすぎるものであった。
それを彼は──。
「ふんぬっ!」
──全力で蹴り抜いた。
水龍が大口を閉じるのとほぼ同時に、壇上の上に「バゴンッ!!」という破壊音が響きわたった。
誰もがその音に意識を傾け、誰もが言葉を失った。
音の発生源には、円形状に陥没した壇上にその中心部には四つん這いになったリースの姿があったからだ。
高らかに打ち上げられたはずのリースが、一瞬にして地上に戻ったのだ。いよいよ瞬間移動の魔法ではないかと疑い始めるほど。
学園長はリースが何をしたのか理解していた。
(反射を防御に使うのではなく自ら蹴り、反射する衝撃を利用してその場から逃れた!?)
理解したが、その発想に驚愕するしかなかった。まさか、防御魔法を防御の目的以外で使用するという考えにこれまで至らなかったからだ。そして考えが至ったからといって真似できるかといえばこれもやはり別問題。反射から返される増幅された衝撃を余さずに受け止めるための肉体がなければ不可能な芸当。
ラトスは水属性の上級魔法を放った影響で急激に魔力を失い、息を乱していた。そのために、リースが場外ではなく未だ壇上の内側に留まっていることに気が付いていなかった。
晒された隙を──今度はリースが見逃さなかった。
──ズダンッ!!
もはや何度目になるか分からない、地を蹴る音。
その音がラトスの耳に届いた時。
リースは彼の懐の奥深くへと進入していた。
右腕が、大きく引き絞られる。
「防壁派生──手甲」
固められた拳の先端に、六角形の防壁が出現した。
「なぁに、死にはしない」
それが何を意味するかを知ったラトスの顔から血の気が引いた。
「ただ──死ぬほど痛いだけだ!」
発射された防壁付きの右ストレートがラトスの胸に直撃。金属が破砕されるような音を響かせながらラトスの躯は後方に大きく吹き飛ばされた。
彼の躯はそのまま地面へと墜落すると、しばらく転がりやがて停止した。
次週に、おっきい秘密が明かされる
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