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大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜  作者: ナカノムラアヤスケ
第五の部 学園生活順風満帆なお話
223/242

第二百二十八話 出直してこい!!


 何かをした──あるいは『何もしてこなかった』と言い換えても良いか。


 首席として、親切心で教えてやろう。


「お前の暴風刃(ストームブレイド)。でもってそこでまだヘタれてるジルコ(やつ)剛炎刃(フレイムブレイド)。確かにどっちも上級魔法にゃ違いないが、使い方が致命的に間違ってんだよ」

「属性魔法の使えないやつに何がわかる!?」

「属性魔法が使えないから、なおさら学んで対策を練るに決まってんだろ」


 俺が首席という事実を忘れてもらっては困る。それはつまり、学年最強であると同時に、最優秀成績を収めているという意味も含まれている。


 俺は自分の防御魔法に自信と誇りを持っているが、絶対無敵であるとは考えていない。常に属性魔法への対策は欠かしていないし、性質だって把握している。


剛炎刃(フレイムブレイド)暴風刃(ストームブレイド)は、それぞれの属性効果を刃の形状に圧縮して解き放つ魔法。上級魔法に区分されるだけあって強力な威力を誇り、エディのいう通り硬い岩石も断ち切る威力を有している。また上級の中では比較的投影時間も短く、慣れれば中級、卓越した使い手ともなれば初級魔法並の速度で繰り出すことも可能なのだ。


 だが、これらを好んで扱う魔法使いは少ない。俺も決闘においてこの魔法を実際に使ってきた魔法使いはおらず、同じ系統の別属性で使っていたのが一人程度だ。


 その理由はズバリ、適正距離にある。


暴風刃(このまほう)は近接特化型。距離が離れた相手にゃ、牽制くらいにしかならねぇんだよ」


 まさに刃を携えて振るうが如く、だ。


 歩幅にして三〜四歩あたりまでが最大威力。それ以上離れてしまえば急激に威力が減衰してしまう。投影時間の短さは、射程を考慮せず近距離での効果を重視しているので、その分だけ魔法陣の一部が簡略化されているのだ。


 先ほど手甲で受けた時も離れていたこともあって中級魔法の下振れ程度の威力しか感じなかった。だからこそ、生身の手刀(こぶし)でも無傷とはいかずとも打ち消せると踏んだのだ。


 本来の適正距離──つまりは至近距離で食らっていれば、あの時の消耗していた手甲ガントレットと残存魔力で投影した防壁では受け止めきれなかった可能性もあり得る。


「仮にあの場面で使うなら、俺が突っ込んできた時に『迎撃』だろうが。『追撃』にしても判断(タイミング)があまりにも遅すぎる。おおかた、習得するだけで満足して、ろくすっぽ鍛錬もしてこなかったんだろうさ」


 繰り返しになるが暴風刃(ストームブレイド)及びに剛炎刃(フレイムブレイド)は強力な魔法には違いない。適切に使われてしまえば俺だって怖い。ただし、使いこなすには近接戦闘の心得が少なからず必要になってくる。前に使ってきた対戦相手はそこが甘く、手元を誤ってあらぬ方向に撃つだけに終わってしまった。


 俺の決闘をもし観戦していればあるいは暴風刃(ストームブレイド)の扱いの難しさにおいても理解が及んでいただろうに。おそらくこいつらは、習得の手軽さや投影の速さを重視してこれらの魔法を優先的に習得したのだろう。そして習得してからは魔法の特性も理解せずに放置してきた。そのサボり(ツケ)がここに回ってきたのだ。


「このっ──くそっ──くそがっ──っっっ」


 ど正論をまさしく正面から叩きつけられて、エディは顔を真っ赤に憤りを発しつつもまともな反論が出てこない。鼻を押さえたジルコも同様に憎々しげにこちらを睨むだけだ。俺が語った内容の十分の一程度に届いているようで、ジーニアスに在籍するだけの教養はどうにか持ち合わせているらしい。


 だからと言って、ここで許してやるつもりは皆無だ。


 一度決闘が始まったのであれば、きっちりカタを付けるのが道理。そして挑戦を受けた(・・・)学年主席としての義務。でなければ、これまで俺に挑んできた他の生徒たちに面目が立たない。


「そろそろ終わりにするぞ」


 俺は前のめりになり、両手を地面についた瞬間に地面を強く蹴って駆け出す。こちらが動き出したのを見て、慌てたように二人が魔法を投影し始める。せめて、俺が説明を垂れている間に投影するくらいの知恵を見せてほしかったが、時すでに遅しだ。


「ジルコ!」

「わ、わがっでるよ!」


 エディは手数の多い初級魔法を連射し、その間にジルコは上級魔法の投影準備に掛かる。前者が牽制している間に後者が強力な一撃を喰らわせる算段か。即席の策にしては上出来だが、詰が甘い。喫茶店で出てくるクリームたっぷりのケーキよりもまだまだ甘い。


 ──ビュンッ!


「ぎゃぁぁぁっっ! まだがよぉぉぉっっっ!?」


 駆け出す直前、地面を踏み切る時にさりげなく拾っておいた礫を投げ放てば、ようやく血が止まったジルコの鼻面にまたもや命中。鼻血と涙を撒き散らしながら絶叫し、当然投影が中断される。


「バッ、馬鹿野郎! 何やって──」

「お前らなんぞ、尋常に勝負するまでもない」


 相方の叫びを非難しようとするエディだが、わずかに気が逸れた時にはすでに俺は眼前にまで迫っていた。振り上げた拳を巌の如くに硬く握り締める。


「待ッッ────」

「ラピスの根性を見習って、出直してこいっっっ!!」


 降参でも口にしようとしたのか、両手を上げるエディに構わず、俺はその頬に握り拳を叩き込む。歯がまとめて数本折れ散る感触が伝わりながら腕を振り抜けば、エディの頭が地面に叩きつけられて大きく跳ね上がった。


「や()──」


 その体が再び地に沈むよりも早く、俺はジルコを強襲。相棒の無惨な様子を目にし絶望を浮かべ、片手を前に突き出して制止をアピール。もちろん応じる気は毛頭無く、鼻を押さえて涙と鼻血で塗れた手ごと回し蹴りをぶち込んだ。勢い余り、ジルコの体は弾かれたように宙を一回転。


 狙ったわけではないが、示し合わせたかのようにエディとジルコの体が地面に着地。そのまま動かなくなった。わずかに痙攣はしているが、立ち上がる気配はない。


「ふぅ──スッキリした」


 久々に生身で肉と骨を打った感覚に、この決闘が始まってから味わった鬱憤が洗い流される気分だった。わざわざ痛い思いをした甲斐が多少はあったようだ。


 俺が立ち合いの教師に目を向けると、彼は微笑みながら頷くと手を上げた。


「勝者、リース・ローヴィス!」


 宣言と共に夢幻の結界が解除される。それに伴って観客席の一角に目を向ければ、ラピスが満面の笑みを浮かべてこちらに拳を突き出している。俺も会心の笑みと拳を向けて返したのだった。


 

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大賢者pop
― 新着の感想 ―
士道不覚悟って言うか、コイツら卒業後の進路がどういった方向性かわかってないのか? 研究職か(この手の輩が底辺職扱いして見下す)インフラ関係の仕事にでもつかない限り、魔法使いの仕事は概ね殺し合いやぞ?
爪が甘い ネイルが甘いのか?
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 適正距離、盲点でした 知識ある人が見てたら、何やっているんだ?って思っていたんですかな
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