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大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜  作者: ナカノムラアヤスケ
第五の部 学園生活順風満帆なお話
222/231

第二百二十七話 大きく振りかぶって


 曲がりなりにも魔法使いが魔法使いに挑んだとして、その片方が魔法を放棄するというのは対戦相手にとっては屈辱であり侮蔑以外の何ものでもない。


 平常時であれば、俺はどんな魔法使いが相手であろうとも、侮ったことはない。己に縛りを課すことはあっても、その中で全力を出してきた。


 そもそもの発端からして、ラピスへの逆恨みと言い掛かりだ。勝手に擦り寄っていたくせに、勝手にそっぽを向かれたら憤るなんて筋違いにも程がある。加えて、こいつらはあまりにも俺を侮りすぎだ。普段は温厚な俺でも、ちょっと頭に来るくらいにはこの二人は『俺たち』を舐め腐っている。


「ば、馬鹿なんですか? 生身で魔法使いとやり合おうなんて……」

「油断するな! もしかしたらこいつは奴のペテンか何かか──」


 勝手に動揺し、そして勝手に深読みしている二人に、俺は言ってやる。


「お前ら……何か勘違いしてないか?」


 エディとジルコ。この二人からは、上を目指そうという気概が伝わってこない。魔法を通しても、高みを目指そうとする意思が含まれていない。


 俺に関わり合いがないのであれば、別にそれはそれでいい。他所(よそ)の人生に進んで口出しする義理もない。そんな過ごし方があったって構いはしない。


 だが、俺の前に出たからには、その生き方(そいつ)は言い訳にもならない。


「確かに俺は今回の決闘で切り札は使わない。言い換えりゃ最大の武器を封じ込められて弱体化してるには違いない」


 そして、過去(ラトス)と向き合い前を見据えて歩き始めたラピスを悪様に言ったことが許せない。俺は本気で前を向いて歩いている奴の足を、悪意で引っ張ろうとする輩が心底我慢できない。


「でもな、俺が劇的に弱くなったからといって、お前らが劇的に強くなったわけじゃねぇんだよ。最初から差がありすぎな事にいい加減、気がつきやがれ」


 あるいはその両方が顕著な形で、極端な結果を生み出せば勝敗の推移はわからなくなっていたかもしれない。しかしながら、そんな都合の良い話は無い。


「学年首席、あんまり舐めんなよ」


 今ここにあるのは、今ここまでに積み重ねた研鑽の結果。この二人が重ねたものはあまりにも低すぎたのである。


「──くそッ、平民如きのハッタリを!」


 俺の威圧に気圧されたのか、しどろもどろになりながらも投影を行うジルコ。


「いくら頑丈であろうと、魔法を生身で受け続ければ限界が──!」

「どっせいっ!」


 口上を最後まで聞く前に、俺は腰を落としながら目の前の地面を強く踏み抜く。決闘場アリーナの床が割れて大小の破片が飛び散る。その内の手頃な一つを掴むと、


『リース選手! 高らかに足を振り上げてぇぇ──投げたぁぁぁぁっっ!!』


 足を下ろす勢いと腕のしなり(・・・)を利用し、破片を投げ放つ。超化エクステンド等が使えない事に、この距離で攻撃が届かないと高を括り投影に意識が傾いていたジルコ。迫る破片を認識したのは、拳一つ分ほどの眼前に迫った時であった。


「ひぎゅっ!?」

「──しゃぁ! ど真ん中(ストライク)ッッ!」


 ジルコの鼻面に破片がめり込み、血が吹き出す様に俺は拳を掲げる。


「なっ、テメェ! 卑怯だぞ!」


縛り(ルール)で手を封じたからって、完封したわけじゃねぇんだよ、阿呆(あほう)が!」


 超化エクステンドが使えなくとも、遠く離れた相手に攻撃を届かせる方法はある。その可能性を失念している時点でお話にならない。これがカディナやラピスたちであれば、失念していようが反応はしていただろう。


「ぼ、ぼぐのばなが、あがぁ──」


 鼻からだらだらと血を流して呻くジルコは、慣れない痛みに体が支配されている。


「このクソ野郎が!!」


 激情し貴族様には似つかわしくない陳腐な台詞を吐きながら、エディは魔力を高めて上級魔法である暴風刃(ストームブレイド)を再び投影する。本来ならジルコと同じく礫を投げれば投影の妨害は可能だが、あえて完了するまで待った。


 怒りに任せてそれに気がつかないエディが、投影した魔法陣から鋭い暴風の刃を解き放つ。


「岩盤すら断ち切る暴風刃(こいつ)は、いくら体が丈夫だろうが防げないだろうがよぉ!」


 この距離とタイミングであれば跳躍ステップを使わずとも『回避』という選択肢が俺にあるのだが、それすら思考の外に追いやられる辺りエディが興奮しているのが分かった。


 とはいえ、エディの言い分は確かに正しい。


 初級魔法や中級魔法の下振れあたりであれば、殴るなり蹴るなりして打ち消すのは可能。けれども、それ以上──ましてや上級魔法ともなれば、外面だけの薄い魔法であろうとも直撃すれば手荒れ(・・・)程度では済まされない。当たりどころが悪ければ、一撃で戦闘不能に追いやられる。


 もっとも、投影された上級魔法が十全の性能を発揮していればの話だがな。


「フンヌァァッッッ!!」


 腹から絞り出した気迫を載せた手刀を振り下ろし、魔法の風が超圧縮された刃の側面に叩きつける。肌が裂かれて手が血塗れになるも、風の刃は甲高い音を立てながら砕け散った。


「──────ハァァァァァッッ!?」


 流石に痛む手をプラプラと振っていると、少しの間をおいてエディが素っ頓狂な声で叫んだ。


「ふざけんな! 暴風刃(ストームブレイド)は上級魔法だぞ! なんで魔法も使わずに防げんだよ! そんなの反則だろ! 何しやがったんだクソ平民!」


 現実を拒絶したいが為に、頭を抱えながら俺を罵ろうとするエディ。


「何かしたのは俺じゃなくてお前だよ」

「んなっ!?」


 指差ししてズバリ言ってやると、エディがびくりと硬直した。どうやら聞く耳はまだ残っていたようだ。

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大賢者pop
― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 見た目重視で中身なしなら、そうなるわな
「何か“した”」というのは「“しないこと”をした」と言う意味なのか、「“構築が甘くてそこ叩けば崩れるような核?がある魔法を投影”した」なのは、「“俺に喧嘩売るくせに舐めプできるという勘違い”をした」な…
「何かした」と言うか、「何もしなかった」と言うか
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