第二十一話 防壁(シールド)の秘密です──甘くはありません
魔法陣の完成と共に、リースの周囲に異変が起きた。
『な、なんとぉぉぉぉ! リース選手の周りにあった水溜まりから、無数の水球がぁぁぁぁぁ! こ、これはもしやぁぁぁぁぁ!?』
興奮気味の実況を耳にしながら、ラトスは勝利を確信した笑みを浮かべる。
この魔法は前段階として相手の周囲に大量の水溜まりを作る必要があるが、リースが防壁しか使わなかった事が幸いだった。弾かれた水弾は内包する水が解放されることによって、自然な形で水溜まりを作ることが出来たのだから。
彼の持つ魔法の中で切り札の一つ。大量の水弾によって、相手を全方位から穿つ魔法だ。
ラトスは叫ぶ。
「一方向の攻撃は防げても、全方位からの攻撃は防げないだろう! 行け、『水弾牢』!!」
浮かび上がっていた数多の水球が弾丸となり、余さず中心地にいるリースへと殺到する。全方位からの攻撃は、リースの逃げ道を潰し、その無数の弾丸を受けるほか無い。
──だが、リースの動向に注意を払っていたラトスは、全方位から襲いかかる水の弾丸に晒されながらも彼の口角がつり上がっているのを見てしまった。
「防壁派生──『広域結界』」
次の瞬間、全方位から襲いかかった筈の無数の弾丸が、リースの周囲に半球の形に展開された『防壁』によって弾き飛ばされた。
「……………………は?」
目の前の光景に対して、ラトスは理解が追いつかずに意味不明の言葉を漏らした。そしてそれは観客席にいる生徒たちも同様だった。
『ど、どどどどどういう事でしょうか!? ラトス選手の操る数え切れないほどの水弾が、突如として出現した半透明な壁によって防がれてしまいましたぁぁぁぁ!? こ、これはいったい何なのですかアルフィさん!?』
『防壁を全方位に展開する派生魔法──『広域結界』です』
『で、ででは、あれも防御魔法!? え、嘘でしょう? あんな大きな防壁を展開したら、魔力なんて一瞬で尽きるはずですよ!?』
会場内に響きわたった声に、ラトスも我に返った。しかし、改めてリースの方を向くが、彼は未だに二本の足でしっかりと地を踏みしめている。しかも、魔力の枯渇による疲弊の様子が全くない。
『……一つの種明かしをしておきましょうか。おそらく、奴も〝それ〟を望んでいるでしょう』
「さすが親友、良く分かってる」
浮かんでいる笑みに強がりが含まれていないのは、正面にいるラトスが誰より理解できていた。あれだけの防御魔法を使用したのに、本当に消耗していないのだ。
『よく見て下さい。リースの周囲に張り巡らされている防壁──広域結界は、正確には綺麗な半球型ではない筈です』
会場の注目にリースの広域結界に集中した。確かに、半透明の防壁は綺麗な弧を描いてはおらず、実は複数の『面』が複数に組み合わさった形でリースを覆っていた。
『……なにやら六角形の板が合体したように見えますね』
『実際には、あの六角形はさらに細かな六角形が集合して出来上がったものです。あれは『ハニカム構造』と呼ばれる仕組みです』
『ハニカム構造? なにやら甘そうな名前ですね』
ハニカム構造とはまさしく蜂の巣を参考に考え出された『技術』だ。
薄い二枚の板の間に複数の六角形を隙間無く組み合わせて作り出した板を挟むことによって、単純に一枚の壁を作り出すよりも遙かに軽量ながら高い強度を発揮するのである。
『細かい理論はよく分かりませんが、何となくすごいのは分かりました。で、実際にはどんな感じでしょうか?』
『結論から言えば、同じ強度の防壁を作るのに比べて、ハニカム構造をした防壁に消費する魔力は四分の一以下に収まる』
『はぁ……四分の一……──ッ!? よ、四分の一ぃぃぃぃぃッッ!?』
驚愕の事実がもたらされ、実況が悲鳴を上げた。長年問題視されていた防御魔法の重大な欠点の一つが覆されてしまったのだから無理もない。
『あいつの使う防壁は全てがハニカム構造。大量に防壁を使ってもリースが簡単にガス欠を起こさない理由の一つです』
もちろん、このハニカム構造には大きな欠点が一つだけ存在していた。それは、単純に一枚板の防壁を展開するよりも複雑な魔法陣を投影しなければならない。
しかし、それさえどうにかしてしまえば、劣悪だった魔力消費の効率は他の属性と大差なくなってしまうのだ。
(しかし、だとしても未だに疑問は残る)
ハニカム構造という名称にこそ辿り着かなかったが、学校長はリースの防壁が六角形の集合体であるのは事前に突き止めていた。森の奥に住まう大賢者に会った後、学校に戻り次第にありとあらゆる可能性を模索した結果だ。その辺りはさすが国家を支える魔法使いの一人であろう。ハニカム構造に非常に似通った仕組みを乗せた文献を見つけだしていた。
だが、全ての疑問に解を出せたわけでは無かった。
(どれだけ複雑な投影でも、その速度は訓練次第でどうにでもなる。しかし、リース君の根本的な内包魔力は他の生徒よりも大きく劣っているはず。いくら魔力の効率問題が解消されたとしても、あれだけ防壁を乱発したらあっという間に魔力が尽きる)
学校長が見守る中、決闘はなおも続く。
「──ッ、だからどうした!! いくら防御魔法が使えても攻撃ができなければ意味がない!」
「おう、そうさな」
広域結界を解除したリースが、構えを取った。
「今度は俺の番だ」
腰を落とし、利き足を後ろ側にしてバネを作る。
「一撃で終わってくれるなよ?」
ハニカム構造の細かい理論に突っ込まないでほしい。多分『こんな感じじゃね?』って風味です。一応は調べましたが細かい矛盾は『ラノベだし』な精神で許してほしい。
十二月十四日にあげた活動報告を見てない人は一度見ておいてください。割と大切なことが書いてあるので。
http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/604944/blogkey/1589062/
それと、ちょっと聞いた話だと、作者サイドが『ブクマやポイントよろしく!』というコメントを書くのに対して、作者が思っているよりも読者さんの理解が浅かったりする話を聞きました。
もしかしたら不快感を与えていたかと思うと申し訳なくなるのですが、あえてここで説明をさせていただきます。
ポイントが上がると。
1:日刊ランキングや週刊ランキングに載る
2:ランキングに載ると読者さんの目につきやすくなる(=読者が増える可能性が大きくなる)。
3:総合ポイントそのものが読者さんにとっての大きな目安になる。
といった具合です。
『既に知っとるわ!』という人もいらっしゃると思いますが、より多くの人に作品を読んでいただきたい作者にとっては切実だったりします。
そんなわけで、以降もブクマ登録や評価点は大歓迎ですのでよろしくお願いします。
あと感想文やレビューもどうぞ。誹謗中傷でなければ大歓迎です。
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