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大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜  作者: ナカノムラアヤスケ
第五の部 学園生活順風満帆なお話
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第二百十九話 折衷案


 同じ考えなのか、ライドも腕を組んで悩ましげに唸る。


(この三人を除籍にしてしまえば収まるのでは?)

(喧嘩沙汰になったならともかく、今回の程度だけじゃぁこれまでの積み重ねがあってもまだたりねぇだろう) 


 カディナが小声でざっくばらんな案を囁いてくるが、俺も同じく小声で返す。除籍問題に発展するギリギリを狙った絡みかただったのだろう。馬鹿ではあっても強かな面もあるらしい。そうした知恵の回り方を、もっと前向きに使って欲しい。


(ちなみにですが、仮にあの三人を相手にして勝てる自信は?)

(魔法抜き素手限定(ステゴロ)でも、一対一(タイマン)なら負ける気はしないな)

(愚問でしたね)


 大賢者と数えるのも億劫になるくらい、徒手空拳での組み手もしてきているのだ。そこらのハンターに負ける道理は一切ない。三人を同時に相手するとなるとまた勝手は違ってくるだろうが、それでも勝てるだろう。


 ヒソヒソ話をしている間に何やら白熱(ヒートアップ)していたらしい。ライドと中肉中背の男が語気を荒げて言い合っていた。


「いい加減にせんか! 彼が本気で手を出せば、タダで済まないのはお前らの方だぞ! それが分からんのか!」

「俺たちは日頃からヤベェ魔獣相手にやり合ってんだ! たかだか学生(ガキ)相手に遅れをとるわけねぇだろ!」


 話が進めば進むほど、男達が口を開けば開くほど滑稽さに拍車が掛かっていくのは、もはや喜劇である。この場に大賢者の婆さんが居合わせていたら大声で笑い転げていたに違いない。


 ライドも、今の発言を聞いて怒りが抜けて逆に呆れていた。ライドは、(黄泉の森の生息とは知らないだろうけど)男が考えている『ヤベェ魔獣』よりも数ランク上の超絶ヤバい魔獣を俺が組合に納品していたのを知っているからな。


 ともあれ、この様子だと男達はまた懲りずに、俺が組合に訪れるたびに絡んできそうだ。だったら寄り付かなければ良いのだが、しばらくの間は課外授業のあれこれで何かと組合に脚を運ぶ予定だ。主席の仕事として任されているので、誰かに代行を頼むのも気が引ける。仮に頼んだところで、今度はその誰かがあいつらに絡まれそうだ。


学生(ガキ)が相手じゃなきゃ、白黒つける方法はあるんでしょうけどねぇ。そのあたりはどうお考えで、ライドさんよぉ」


 どうしてか調子付いてきた男がそこはかとない挑発を混ぜた問いかけをライドに投げる。俺がハンターであればどうとでもなると言わんばかりだ。


 実際のところ、ハンター同士の揉め事であれば、組合が介入してではあるものの素手で殴り合って決着という形も珍しくはない。ハンターというのはそのぐらい荒っぽいくらいが普通なのだ。


「……確かに、ジーニアスの学生とハンターでは暴力的な解決を望むのは難しいか……であれば、折衷案といこうじゃないか」


 腕組みをしていたライドは、ふとした瞬間に顎に手を当てて頷いた。


「つまりは、双方が必要以上に負傷しない形で、かつハンターとしても納得がいく形で白黒がはっきりつく勝負になればいいわけだ」


 と、目を向けた先には、一つの円形机(テーブル)であった。


 ライドは俺と男達をそれぞれ見据えてから口をひらく。


「ここは腕相撲(アームレスリング)で白黒はっきりさせるというのはどうだろうか」


 ──時間が少し経過し、狩人ハンター組合のロビーは大いに盛り上がっていた。


 中心にあるのは円形机を挟んで向き合う俺と中肉中背の男。そして審判役のライドだ。


 喧嘩沙汰とまではいかず、かつ力の上下がはっきり分かる勝負。


 いつの間にか居合わせた狩人達は大いに盛り上がりはじめ、よくよく見ると賭け事までしている始末だ。ここまで大騒ぎになるとは予想外である。


 ただまぁ、ちょうどいいのかも知れない。


 普通の喧嘩だと、素手で挑んだところで「魔法を使った」とありもしないイチャモンをつけられる可能性もあったが、腕相撲(アームレスリング)なら入り込む余地はない。


「へへへ……大人の力ってのを見せてやるよ、お坊ちゃん」


 俺の相手になるのは中肉中背の男。一番ガタイの良い奴でも構わなかったが、俺を舐めてかかっている証拠だ。


 そんな男に、俺が先ほど腕を掴んだ痩身(やせっぽち)が声をかける。


「おい、油断するなよ」

「はぁ? 俺がガキ相手に負けるとでも思ってるのか?」

「だから油断するなって言ってんだよ。最初から本気でいけ」


 仲間が発する神妙な声色の、腕まくりをする男が怪訝な顔になる。具体的な忠告ができないのは、なけなしでちっぽけなプライドが邪魔をしているからか。ただ、忠告をしっかり聞き入れたところで結果が変わるかは別の話だ。


「お嬢様、ご希望は?」

「なんのご希望ですか……」


 カディナはらしくない俺の言い様に呆れた表情だ。そこに不安の類が一切含まれていないのは、使用の証だろう。彼女は俺の肩越しに不届きもの(おとこたち)を一瞥すると、小さく笑みを浮かべ、そしてわざとらしいほどに冷たい声で俺に言う。


「私たちの本分は別にあるんです。さっさと終わらせなさい」

「ご随意のままに」


『主人と(しもべ)ごっこ』を演じ、俺は制服の上着を脱いでカディナに預けて円形机(テーブル)にへと体を向けた。


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大賢者pop
― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 バカはどこまでいってもバカだからなぁ
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