第十九話 盛り上がっています──ちょっぴり不安です
『いよいよ今年度初の決闘が行われようとしています! みなさん、盛り上がっていますかぁぁぁぁぁっ!?』
──ウォォォォォォォォッッ!!
『はい、ありがとうございます! 盛り上がっていらっしゃるようでなによりでぇぇぇす!!』
………………………………。
決闘が行われる旨は既に全校に知れ渡っている。そのために、多くの人間に闘いを見られるとは思っていた。しかし、決闘というのだからもっと厳粛な雰囲気の中で行われると思っていたが……。
「え、なんなのよこの空気」
俺は今、会場の両端にある決闘者の入場口にいる。中央にある壇上を跨いだ正反対側には、おそらく既に青髪が準備しているのだろう。
ただ、入り口に足を踏み入れた途端、俺は会場内に渦巻く『熱気』に圧倒される。外はまるでお祭り騒ぎのように盛り上がっていた。
「決闘の実情を知らん奴がその場所に初めて立てば、だいたい同じような反応をするな。さすがのお前さんも同じで一安心だ」
何故か入り口の付近で待機していたゼストからの言葉である。いやいや、なにが安心なのよ。それってどういう事よ、色々な意味で。
「この『決闘』ってのは、学生にとっちゃぁ思う存分に魔法を使用できる良い機会。それと同時に、手加減無しのドンパチってのは他の生徒にとって最高の見せ物なのさ。二年生より上の生徒ってのは既にそれが分かってるからああも大騒ぎしてるってわけ」
俺たちにとっては決闘なのに、見ている方には興業という訳か。理解できなくはないか。
「見せ物であるのは確かだが、逆を言えば多くの生徒に決闘の勝敗を目撃される。それこそ勝者には栄光を、敗者には屈辱を衆目に晒すわけだ。そこら辺ははき違えんなよ。特にお前さんの場合は入学式で派手な大口叩いてるからな」
「俺としちゃぁ、あれだけ派手に喧嘩売ったのに誰も挑んでこなかった事自体が不満ですがね」
よく言うよ、とゼストは困ったようにため息をついた。
「そのつもりがある奴でも、一ヶ月程度は様子見だったんだろうよ。決闘が盛んになってくるのも、新年度が始まって一ヶ月を過ぎたあたりが目安だからな」
決闘を仕掛ける相手の情報を仕入れるための期間というわけか。
「学校長の申し出が無けりゃぁ、是が非でも立会人を引き受けたかったからな。だから面倒臭い決闘の手続きも行ったってのにな」
まだ知り合ってから短い時間しか経過していないが、ゼストは私生活はともかく魔法に関してはとても真摯な態度をとることが分かっていた。普段はだらしないかもしれないが、授業であれば非常に丁寧な教え方をするし、生徒の質問にも真面目な質問であれば言葉遣いはあれだがしっかりと答えてくれる。学校長から信頼されているというのも頷ける。
「ってか、今更だけど何でゼスト先生がここにいるの?」
「お前さんの担任だからに決まってんだろうが。あっちにもおそらく、ガノアルクの坊ちゃんと一緒にヒュリアがいるはずだぜ」
ゼストは対面側の選手入り口を指さした。
「さ、無駄話はこのぐらいにして、さっさと入場しな。俺ぁここからじっくりとお前さんの魔法を観察させてもらう」
「一応、アルフィの奴が解説に呼ばれてますけど?」
「馬鹿を言いなさんな。己の目で見た事象を己の力で解き明かすのが魔法使いってやつだろう。他人の言葉だけで納得できるわけねぇだろ」
魔法に真摯というよりかは『魔法馬鹿』だな、この先生。ある意味、大賢者の婆さんに近い考え方を持っている。
「担任として、入学式での宣言が単なる大口でないことを祈ってるよ」
「……先生の希望に添えるかは知りませんが、俺は全力で己の力を証明するだけですよ」
俺は手の平に拳を打ち付け、会場に一歩を踏み出した。
会場の空気にふれた瞬間、いい知れない〝重さ〟が肩にのし掛かった。名も知らぬ無数の視線が圧力となって俺に集中しているのだ。
「いいねぇ、ちょっと盛り上がってきた」
僅かな緊張はあるが、それ以上の高揚が胸の奥からこみ上げてくる。
『ここで東の入場口から主役の片割れ! 一年ノーブルクラス所属、リース・ローヴィス選手の登場だぁぁぁぁぁ!!』
──ウォォォォォォォォッ!
『彼はなんと、今年の新入生の中で主席で合格したという逸材! しかも、入学試験の点数は過去数年に渡って成し得なかった実技筆記双方とも満点を記録!! ついでに言えば入学式の壇上で新入生全員に派手に喧嘩を売ったことでも話題をかっさらった事でも有名です! 悪い意味で!」
おい、最後のいらんだろう。事実だけど。
……つか、よく考えるとこの声ってさっきから何なの?
『あ、申し遅れました。私、今日の実況を務めさせて頂くサラドナ・マクシです。実は今回の決闘が初の実況担当となります。以降、様々な決闘でみなさまにお会いする機会があると思いますがよろしくお願いしまぁぁぁぁぁっす!!』
──ウォォォォォォォォッ!
『はい、ご声援ありがとうございます! あ、新入生の人に説明しておくと、実況ってのは試合の状況をおもしろおかしく脚色してあることないことぶっちゃけて場を盛り上げるお仕事ね』
いやいや、おかしく脚色はともかく無いことぶっちゃけたらあかんだろ。大丈夫か?
『なお、解説にはリース選手の幼馴染みであり、こちらも入学試験を総合三位と優秀な成績を収めた期待の新入生、アルフィ・ライトハートさんをお迎えしております!』
『……えっと、この魔術具にしゃべりかければいいのか?』
アルフィの声も聞こえてきた。おそらく使っているのは入学式の時に使っていた拡声の魔術具だろう。
『はいそうです! いやぁ、それにしても入学試験三位とは素晴らしい成績ですねぇ』
『俺としては一位になれなかったのが悔しい限りです』
『ここで挑戦的な台詞がでました! もしかして、いずれはリース選手に決闘を挑むおつもりで?』
『当然です』
ようやく実況席の場所が分かった。生徒たちが座っている座席よりも少し上の場所だ。アルフィとその隣にテンションが高そうな女子生徒が座っている。
実況席を眺めていると、またも一際大きな歓声が響きわたる。
どうやらお相手が姿を現したようだ。
『おぉぉっと、西の入場口からもう一方の主役、ラトス・ガノアルク選手のご来じょぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』
視線を正面に戻すと、思い詰めたような表情をした青髪が歩み寄ってくるのが見えた。
『ラトス選手の実家であるガノアルク家は、国内でも水属性魔法の使い手として有名であります! 惜しくもノーブルクラス入りは逃したようですが、だとしても新入生の中ではトップクラスの成績を収めております! 今後の成績次第ではノーブルクラスへの移籍も夢では無いとの事です!』
ノーブルクラスはその学年で上位の成績を収めた者が在籍するクラス。当然、トップの座から落ちれば自動的に他のクラスに移籍することになる。そして空いた席に他の成績優秀者が収まる仕組みとなっている。
『ところで、情報によりますとアルフィさんはラトス選手がリース選手に決闘を挑むこととなった経緯をご存じだそうですが……そのあたりはどうでしょうか?』
『黙秘させてもらう。それに経緯などどうでもよいと思います』
『と、いいますと?』
『青髪が勝負を挑み、リースが答えた。この場に必要なのはその事実だけです』
ちょっと気取った台詞だが、アルフィが言うと様になるから不思議だ。実況席から黄色い声が響く。
『か、かっこぃぃぃぃぃぃ!!? え、ちょっとこの人本当にかっこよすぎる! 年下だけどイケメンだし! あ、ちょっとこの決闘が終わったらご飯でも一緒にしませんか? 最初はお友達から──』
『実況の仕事しろ』
『はい『仕事しろ』の言葉頂きました! うぅん、そのクールな返答がまた痺れますねぇ。あ、実況の仕事は真面目にしますのでご安心を』
安心できねぇ……。
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