第二百三話 久々の決闘です──バチバチに殴り合います。
そしていよいよ決闘が解禁され、その対戦相手は──。
「はっはっは! 前にやり合った時よりも随分とごっつくなったなぁバルサ!」
「喧しい! その忌々しい口を閉じて真面目に戦え!」
「馬鹿言え! いつでも俺は大真面目だ!」
──ガガガガガガガッ!
至近距離で激しく殴り合うのは、以前に一度ぶつかり合ったバルサ・アモス。決闘禁止が撤回された途端、一番最初に名乗りを上げたのがこいつだったのだ。
俺と同じノーブルクラスに所属する土属性の使い手。アルフィとミュリエルを除けば、クラスの中でも土属性の練度は屈指のもの。俺と同じ近接戦闘を得意とする珍しい魔法使いだ。
ある意味では、ジーニアス魔法学校のレベルの高さを決闘という形で再認識させてくれた相手である。一歩間違えれば黒星になりかねない展開もあった。
ジーニアスにおける決闘は、一度敗北した相手にはしばらく自分からは挑戦できないという仕組みがある。ただし、決闘そのものは数日すれば再び行えるようになる。
全てを見たわけではないが、俺に敗北してからもバルサはいくつも決闘を行い、着実に勝利を重ねてきていた。無論、校内戦にも出場している。
成績は準々決勝敗退──対戦相手はアルフィだった。
土属性の魔法で相手のペースをかき乱し、得意の接近戦で勝負を決めるバルサに対して、遠距離戦での圧倒的手数を有するアルフィとではいささか相性が悪い。それでも、それまでアルフィが予選で戦ってきた相手の中ではかなり健闘した方だった。どうにか近接戦に持ち込んだところで魔力と体力が限界に達し、そこで一気に押し込まれて終わりだった。
逆を言うと、バリバリに接近戦が得意な俺とはある意味では相性が良かった。おかげで存分に殴り合えるのだから。
──バギンッ!
「っとぉぉっ!?」
防御に使用していた手甲が破壊され、衝撃に押されて俺はたたらを踏む。即座に手甲を投影し直し、バルサが腕部に投影する『魔法』と激突。接触部から耳に突き刺さるような甲高い音が響き渡り、火花の代わりに魔力が飛び散った。腕自身にもとんでもない衝撃が伝わってくる。
バルサの両腕に投影されている大地籠手──ではない。基本は大地籠手に違いないが、前に戦った時よりも一回り大きく、そして凶悪になっていた。拳の打撃部に三つの突起が追加され、衝突の瞬間に高速回転を発生させている。
「削岩槌腕、防御破壊に特化した魔法だ!」
「俺対策か! そいつぁありがたいね!」
「余裕を保ってられるのも今のうちだぞ!!」
俺の防壁は六角形構造という、受けた衝撃を全体に拡散させつつ肉抜きができる性質を有している。これにより魔力の効率化と強度の向上を図っている。だが、その性質上、衝撃を一点に集中して受け止めると、耐えきれずに崩壊する弱点もある。バルサと前に戦った時も、この弱点を突かれて危うく敗北しそうになった。
その経験の上でバルサが編み出した新たな魔法が削岩槌腕だ。
大地籠手以上の強度と質量に加えて、先端が回転する事にって貫通力の向上。また、回転部の縮小によって魔力の消費も抑えている。射程は拳の間合いに限られるが、それにより威力は大地戦槍・螺旋と同等となり、消費魔力は格段に抑えられているのだ。
左右それぞれ三点の回転先端から繰り出される一撃は、受け止める手甲──防壁を構成する魔力を削り取り弱体化させてくる。おかげで、普段よりも早いペースで手甲を幾度も投影している。単純な拳の打ち合いで負けている証拠だ。
問題は、巨大化による重量増加だが。
「それ、めちゃめちゃ重たくねぇか!?」
「貴様に敗れたあの日から、鍛錬は一日も欠かしておらんわ!」
叫びながら削岩槌腕を打ち込んでくるバルサ。防壁が一気に削られていく感触以上に、腕に伝わってくる反動は確実に前に戦った時を上回っている。言葉通り、あれから魔法の修練と並行して肉体も鍛えてきたようだ。
「校内戦には残念ながら間に合わなかったが、今この時に貴様を叩き潰せれば良い! 大地隆起!!」
「んなっ!?」
何度目かになる防壁の破壊。投影し直すために後退で距離を取る俺に対し、バルサは己の足元を魔法で隆起。その勢いを利用して一気に間合いをつめてくる。
咄嗟に防壁を展開するが、耐えきれない。勢いが減ったのを見計らい防壁を解除し同時にさらに大きく飛び退く。狙いを失ったバルサの拳が地面を穿ち、破砕する。いくら俺でも、あんなのを生身で食らったらやばい。
「ははは、マジかよおい」
思わず俺は口端が吊り上がってしまう。バルサの決闘を何度か見てきて分かっていたつもりだが、初めて戦った時とはまるで別人のように強くなっている。その事実が俺を高揚させて仕方がない。
今の動きにしたってそうだ。ミュリエルが地震波を移動の補助として使っていたことがあるが、大地隆起はあれに比べれば機敏な動きは難しいものの、代わりに加速度は大幅に優っている。踏み込みの補助として使うには大いに正解だ。
「相手にとって不足なしってか」
己に気合を込め直す意味も兼ねて、両腕に投影した手甲を叩き合わせた。