第二百二話 決闘が禁止されたようですが
大変長らくお待たせしました
幾多の激闘が繰り広げられた校内戦が終了し、そろそろ一ヶ月が経過しようとしていた。
大規模な催しが終わってひと段落。ジーニアス魔法学校に広まっていた熱気も収まり、平穏な授業生活が戻ってきていた。
強敵との激戦を経て、見事優勝を果たした俺ではあるが、実はあれからというもの学校長と大賢者から『決闘禁止』を言い渡されていた。
理由は他ならぬ『進化』の使いすぎだ。
超化によって強引に内素魔力を拡大した上で、外素魔力を絶えず流入させ、装填等の魔力回復の隙を解消し、体力の限界まで全快で戦い続けられる、俺の新たなる魔法。
……改めて振り返らなくても、無茶に無茶を重ねた相当にやばい代物である。
準決勝でのカディナ戦で一回。でもって、決勝戦のアルフィ戦で一回。時間をおかず日に二度の使用は、俺の身体にとてつもない負担を強いていた。現に、決勝戦で勝利宣言を聞いた瞬間に俺はぶっ倒れ、そのまま二日も意識が無かった。
目が覚めて表彰式が終わってからというのも、動くたびに体がギシギシと悲鳴をあげ、魔力の操作もままならなかった。呼吸をするたびに肺が痺れる感覚が絶えず襲ってきており、おそらくジーニアスに入学してから最も苦行な期間であっただろう。
|学校長の診断では、筋肉疲労ではなく魔力の循環系に多大な負荷が掛かっていたことからの痛みだ。物理的な例えをすれば、心臓の圧力と血液量を倍に高めた影響で、血管を酷使したようなものだ。
特に、二度目の進化が決定打だったようだ。おかげさまで、婆さんから直々に「進化の使用は一日に一度までじゃ」とお達しが出た。
そこからさらに、校内戦が終わってから学校長が許可を出すまでは決闘は禁止とまでされてしまった。
「ま、お前さんのことじゃ。回数を重ねていけば徐々に体も慣れていくじゃろうよ。別に、初めての経験というわけでもないじゃろうし」
俺を診ていた大賢者は特に深刻さもなくカラカラと笑っていた。
実はこの絶不調状態、以前にも覚えがある。
他ならぬ超化の雛形を無謀にも試した時だ。何も考えずに圧縮した魔力を取り込んだせいで死にかけた事がある。その後もしばらくは体が痛すぎて歩くたびに悲鳴をあげたものだ。
それと余談ではあるが、俺の決勝戦の相手であったアルフィも、形は違えど校内戦を終えてから絶不調に陥っていた。あちらも俺と同じで試合が終わってから二日間意識を失っていた。
アルフィが使用した新魔法──│励起召喚。
四属性をわざと中途半端な形で維持することで、魔法の投影速度を飛躍的に高めるというもの。生まれながらに持った膨大な魔力と、四属性を自在に操る明晰な頭脳があって可能なとんでもない魔法だ。
だがやはり扱う際には脳にとんでもない負荷が掛かるらしい。あちらも俺と同じく、校内戦が終わってからも調子が悪いままだ。授業や教室移動を除いた時間のほとんどは自席で眠っているし、起きている間も常に眠そうであった。
脳が休息状態から抜け切らないのが原因だと、ゼスト先生が言っていた。
当然、あちらも当面の間は決闘を禁止された。
ご丁寧にこのことは学年に向けて告知された。
自慢ではないが──やはり少し自慢になるが、試験や行事で忙しい時を除けば、なんだかんだで向上意識が盛んな学校だ。少しでも上の段階に至ろうと、ノーブルクラスの生徒を相手に挑戦するものは多いのだ。当然、俺やアルフィの元には絶えず決闘の申し出が舞い込んでくる。それらのあれやこれやのトラブルを避けるための措置である。
代わりというのも妙な話だが、校内戦を皮切りにしたのか、カディナの元に決闘の誘いが舞い込むようになった。これまでは孤高のお嬢様然で触れ難い印象が強かったようだが、校内戦での闘いぶりをみて認識が変わったようだ。カディナの方も、俺への再戦に向けて経験を重ねる良い機会だと生き生きしていた。
カディナが決闘で見せる戦いぶりは、超速の投影速度でから放たれる風属性魔法で一気に叩き潰すというもの。ある意味で俺とアルフィよりも容赦がない。カディナと戦う上では、初手で放たれる速攻魔法を対処するかが鍵となるだろう。
流石に準決勝で見せた時のような、決闘場を縦横無尽に駆け巡る激しいものではなかった。あれは対俺専用であったようだ。
ただ、この圧倒的とも言える決闘の光景に憧れ、一定のファンは既に獲得したらしい。
元々、キツめではあるが非常に整った顔たちに驚くほど恵まれた巨大弩の──体の持ち主だ。きっかけがあれば人気が爆発するのも当然とも言える。
ちなみに、そこをいくとラピスも女であることを暴露し隠さなくなってからというもの、むしろ『そこがいい』と妙な扉を開いたファン層が発生したとかしないとか。
──甚だ疑問であるが。
アルフィやカディナ、ラピスたちはともかく、どうして俺にはその手のファンが増えないのか不思議で仕方がない。少なくとも俺が決闘をしてきた中で、黄色い声援を受けたことなど一度たりとも無いのだ。喉から手が出るほど、とまでは全然いかないが、本当に釈然としない。
(真相:カディナ、ラピス、ミュリエルという学年屈指の美少女が身近に居るために、周囲が──特に女子が気後れしてしまっているというのが本人は全く気が付いておりません)
自身が決闘をできない期間は、アルフィも誘って他の生徒の決闘を見て暇を潰していた。ただ、それでもやはり不満はたまる一方だ。
こうした休息期間を経て、どうにか体は調子を取り戻していった。響くような痛みも日に日に癒えていき、同時に魔力の操作も以前のように満遍なく行えるようになっていく。アルフィも同様で、起きている時間も増えていき常に眠たそうだった目もはっきりしていった。
そこから改めて婆さんの──アルフィは学校長の診察を経て、ようやく完治を言い渡される。大事をとって数日ほど猶予期間を与えられ、その後にやっと決闘禁止が撤回されたのである。 これがここ一ヶ月あたりの出来事であった。
新章の構想やら他の作品のことやらでこんなに空白期間ができてしまって申し訳ありません。
また定期的に更新ができるように努力しますのでよろしくお願いします