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大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜  作者: ナカノムラアヤスケ
第五の部 学園生活順風満帆なお話
196/227

第二百一話 絶え間ない積み重ねの結果


「相変わらず君たちは仲が良いですね。それでいながら、あれほどまでの激戦を繰り広げられるのだから大変素晴らしい。馴れ合いではなく共に高め合う友の存在は、魔法使いのみならず人生では得難いものだ」


 笑みを浮かべて拍手する学校長。俺たちより長く生きる人の発する言葉であるだけに、胸に響く重さがあった。この場にいる教師は学校長だけではない。一年を担当する教師や、校内生の運営に携わった者たちも決闘場アリーナの壇上に集まっている。


「これからも互いに讃え、研鑽しあい、高みを目指してください。では、前置きはここまでにして、表彰式に移らせていただきましょう」


 首から掛ける用の紐を付けた表彰メダルを乗せた盆を手に、ヒュリア先生が学校長の隣までやってくる。学校長はそのうちの一つ──三位のメダルを手に取ると、ラピスの首に掛けた。


「三位入賞おめでとう、ラピスさん。ノーブルクラスに入ってから素晴らしい成長ぶりだ。一時は心配になることもあったけれど、もう大丈夫だね」

「その節はご心配をおかけしました」

「親御さんたちとの仲も良好になったと聞いているよ。今後も家族仲良くしてください」

「はい」


 次に、学校長はカディナにメダルを掛ける。


「同じく三位おめでとう、カディナさん」

「ありがとうございます。……ですが」

「うん、この結果に満足していないのは、非常に好ましいことだ。今の君を、お父上もお兄さんも誇らしく思っているよ。悔しさを抱きながらも、今は胸を張りなさい」

「これからも、精進を重ねていく所存です」


 カディナの力強い意志のこもった声に学校長は満足げに頷いた。


 それから彼はアルフィの前にやってくる。 


「準決勝、そして決勝で見せたあの魔法(・・・・)。実に見事だったよ。あればかりはさすがの私も真似は難しいかな」


 出来ない──と言い切らないあたりが学校長たるゆえんだ。もっとも、模倣してもそが実戦で通用するかはまた別問題であるとも言外に述べている。


「とはいえ、まだまだ改良が必要なのは君も承知しているね?」

「分かっています」

「既存の魔法が長く広く普及しているのは、それだけ完成度が高いからだ。新たな魔法を生み出したからといって、研ぎ澄ましていかなければそれっきりだ」


 学校長の声が、拡声の魔法を通して観客席にも届いていた。きっとそれはアルフィだけではなく他の生徒たちに言い聞かせる意味もあったのだろう。


 広く知れ渡っている魔法の他にも、特定個人ないし素養を持った者だけが習得できる魔法というのも、何かしらに記録されて後世に伝わっている。大半は書物であるが、記録に残った(記録された?)魔法というのは、大半が学校長のいうように研究を重ねて精錬されてきたものだ。 


「四属性という才能に溺れず、絶えず研鑽を重ねてきた君であればきっと大丈夫だろう。これからも頑張りなさい」

「はい。ありがとうございました」


 アルフィが頭を下げると、その首に準優勝のメダルを掛ける。観客席からアルフィのファンらしき女子たちからの黄色い声が聞こえてくるのがちょっと癪である。 


 そしていよいよ、学校長が俺の前に立った。

「……まったく、君には驚かされてばかりだ」

「開口一番がそれっすか」

「いやいや。長く生きているとね、新鮮な気持ちで『驚く』という機会がなかなかに貴重なものになっていくんだよ」


 そういえば、大賢者(バァさん)も似たような事をぼやいていたな。


「魔法の瞬間回復。一時的な内素魔力の増加。そこに加えて、今度は外素と内素の循環とくる。いや全く、ここまで驚いたのは教師生活を初めていつぶりだろうか。くっくっく」


 今は俺の方を向いているから大衆には見えていないからいいが、学校長があまり人様にはお見せできない顔で忍び笑いをしてらっしゃる。この人が理性ある学校長で良かった。でなかったら、もしかすると悪い意味で歴史に名を残す魔法使いになっていたかもしれない。


 と、そこで己がよろしくない笑みを浮かべているの気がつき、学校長は咳払いをして調子を元に戻す。


「誰もが見向きもしなかった──私でさえもそうであった『無属性の防御魔法』を見事に昇華し、国内で屈指の水準であるこのジーニアス魔法学校で学年主席の座を勝ち取った。そして、その事実を疑うものはもはや、この場には存在していない」


 学校長が両腕を広げ、観客席を示す。


「この場にいる、全ての者がその証人だ」


 座っている者たちの中で、俺に対して蔑みや失望の感情を向けてくるものはほとんどいない。その事を改めて認識すると、俺の胸の中で熱いものが込み上げてきた。


 大舞台でアルフィに勝てた喜びはもちろんあったが、そこに加えて俺の魔法が『認められた』という事実が、はっきりと分かったからだ。


「君たちはまだ魔法使いの道の途中。いや、そもそもこの旅路に果てはない。だが、歩き出したばかりには違いない。惑うことも足を止める事もあるに違いない。けれども、君であれば必ずやその長く果てない旅を続けられると、私は信じている」


 盆に乗せられた最後──優勝メダルを手に取ると、学校長は俺の首に掛けた。


「道の半ばであろうとも、これ(・・)はリース・ローヴィスという『魔法使い』が、絶え間なく積み重ねてきた結果に勝ち取ったものだ。今は存分に誇りなさい」


 学校長は表彰台から一歩下がると、拍手をした。それを皮切りに側にいたヒュリアも、他の教師たちも。やがてをそれは伝播し、観客席からも盛大な拍手が伝わってきた。


 試合の決着がついた時は、半ば無意識で手を挙げていた。アルフィとの戦いで勝利した時はいつもやっていたからだ。


 けれども、今の俺が抱くものはちょっと違った。


 未だかつてないほどに胸が高鳴り。カディナとラピスを見れば笑みを浮かべて頷き、アルフィの方を向けば憮然となりながらも顎で示す。


 全身を駆け巡る衝動を遂に堪えきれず、


「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!」


 俺は万感の込めて両腕を振り上げたのだった。


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大賢者pop
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 最終回かな?って疑問に思うほど、きれいにまとまりましたね
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