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大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜  作者: ナカノムラアヤスケ
第五の部 学園生活順風満帆なお話
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第百九十五話 落ちたようです


「勝者、リース・ローヴィス!!」


 決闘場アリーナを覆っていた結界が解除され、細かい傷や服の損傷が消滅した。けれども、肉体にのし掛かる強烈な疲労感は依然として残ったままだ。夢幻の結界は損傷に纏わるものであれば『無かったこと』になるが、消費した魔力や疲労感は健在だ。そして何よりも精神的な消耗が相当にあった。


「はぁ……はぁ……思いつきでやったにしちゃぁ上出来か」


 極一点突破ブラストストライク双翼(ツインブースト)


 加速ブースト用の右翼だけでは発揮できる推力に限界があった。そこで、限界ギリギリまで魔力を取り込んで右腕を強化。加えて魔力の排出口であった左翼も使うことで出力を倍にし、超速での一撃に全てを込めて叩き込む技。


 構造はシンプルだが、こいつはかなり危険(リスク)の伴う。そもそも通常の極一点突破ブラストストライクでさえ制御が可能な限界速度で突進している。しかも、左翼はそもそも溢れる魔力をただ輩出するための機構で、姿勢制御関係は付与していない。否、今の俺ではそこまで維持できない。


 想定されている倍の速度を右翼一枚で制御したのだ。僅かに照準がズレればあらぬ方向に飛んでそのまま場外(リングアウト)必至であった。


 カディナが最後に上級魔法(おおわざ)の投影の為に動きを止めてくれたのが幸いであった。あの距離であれば、俺が遠距離魔法を打ち込んだところでそれよりも大きな威力の魔法で諸共吹き飛ばせると踏んだのだろう。


 事実、重魔力機関砲プレッシャーガトリング重魔力砲プレッシャー・カノンではカディナの放った暴嵐大槍(ストーム・ジャベリン)には対抗できなかった。


 極一点突破ブラストストライク双翼(ツインブースト)そのものは思いつきだが、そこから先は多少なりとも算段をつけてはいた。体力と損傷を加味し、切り札を切れるギリギリのタイミングであえて吹き飛んで見せた。そうすることで、カディナがトドメにでかい一撃を放ってくると考えての事だ。


 俺は派手に吹き飛ばされた時点から外素の吸引に集中。限界以上に溜め込んだ魔力の内圧をどうにか耐え切って、最後の攻撃を仕掛けたわけだ。


「ん……んん……」

「お、目が覚めたか。案外早かったな」


 眉を顰めながら意識を取り戻したカディナが、ぼんやりとした目で辺りを見渡す。と、俺の姿を見つけてハッとなり、力無く息を吐いた。


「……私は負けたのですね」

「ああ、俺の勝ちだ」


 カディナは「クッ」と歯を噛み締めてから、小さく床を叩いた。俺と戦い、勝つためにずっと準備してきたのだ。悔しさも相応に大きいだろう。


「あれだけ啖呵を切ったというのに、蓋を開けてみれば私の負けです。無様極まりない」

「そいつを笑う奴なんぞ、この場にはいねぇさ。周りを見てみろよ」


 俺が辺りを見渡せば、ようやくカディナも気がついたようだ。俺たちの戦いを称賛する拍手や声が。勝敗の決着がついてから今でもずっと興奮が途切れていない。見ている側にとってそれほど白熱した一戦であった証拠だ。


 どこか呆けたように、カディナは観客席を見渡す。本当の意味でこの場に立って戦ったのは、まさに俺との一戦が初めてだったのかもしれない。


やがて、取り敢えずの区切りはつけられたのか、息を吐いてから立ちあがろうとするが、途中で膝が折れて倒れ込みそうになる。


「──っと。無理すんな。俺だってめちゃくちゃ疲れてんだからな」

「あ……ありがとうございます」


 完全に倒れる前に、どうにか腕を掴んで支えてやる。


 最後の一撃以外はほとんど無傷であったが、それ以外は俺と同じく限界近くまで体力も消費したのだ。彼女の場合は加えて魔力も使い切っている。力が入らないのは当たり前だ。ちょっとカッコつけているが、支えている俺だって結構ギリギリである。


「私の完敗ですね。あれだけ策を弄してハッタリまで使ったというのに、全てを超えられました。言い訳もできません」


 改めて悔しさを滲ませるカディナ。落ち着いてはいるものの、どことなく自虐的だ。周りからの称賛はあれど、素直に飲み込むには気位が高い。それが彼女の美点には違いないのだが。


「そこで卑下されると、俺が困るんだが」

「……どういうことですか?」


 本気でわからないとばかりに首を傾げるカディナに、俺は言ってやる。


「ここまで追い詰められたのは、俺の師匠とアルフィを除けば初めてだった」


 ミュリエルの時とはまた違う。最初から最後まで、俺は手札を全て使って戦っていた。どこか一つでも仕損じていれば、勝敗の行方は全くわからなかった。


「終盤の読みがちょっとでも外れてたら、本当に危なかったよ。さすが、学年次席は伊達じゃねぇな」


 俺は手を差し出した。一瞬驚いたカディナだったが、次に浮かべたのは不敵な笑み。今の敗北を受け入れながらも、次の勝利を望む魔法使いの顔だ。


「次は負けませんよ、ローヴィス」

「そろそろ『リース』って呼んでくれねぇか。本気で競い合う相手が他人行儀ってのもつまらねぇしさ」

「……良いわ、敗者として甘んじて受け入れましょう」


 俺を名前で呼ぶのは罰ゲームか何かなのか。


 誇り(プライド)の高いカディナらしいとえばらしいな。   


「首を洗って覚悟しておきなさい、リース。必ずや、あなたから学年主席の座を奪って見せます」

「ああ、いつでも相手になる。楽しみに待ってるぜカディナ」


 力強く手を握ってきたカディナに、俺は笑みを浮かべた。


 


 ──トゥクン……


 自身に向けられたリースの満面の笑みに、カディナの胸が高鳴った。


 どこまでも純粋に、彼女との再戦を心待ちにする笑み。


 子供のように無邪気で幼稚な笑顔が、カディナの心を強く震わせた。


 ジワリと、胸の奥が温かく、けれどもどこか切ないものが込み上げてくる。


「……? …………??」


 生まれて初めての感覚に、カディナは戸惑う。己の中に芽生えた何かがまるで理解できない。リースに苛立ちを覚えていた時以上の混乱が生じていた。


「──い。おいっ」


 そのリースの声にカディナはハッとなる。


「大丈夫か? 急にぼーっとして。もしかしてどっか痛むのか」

「えっ? ……あ、いや──その」


 声がうまく出てこないカディナに、リースが眉をひそめる。


 そして、彼の顔を改めて視界に入れた瞬間。


「────ッッッッッッ!?」


 カディナは声にならない悲鳴を上げながら慌てて握手を放すと、己の手を胸元に抱きながら急ぎリースに背を向けた。その頬は朱に染まり、目は潤みを帯びている。どうしてそんな顔を浮かべているのか、カディナ自身全く理解ができなかった。


(なんなんですかこれは!? リースの顔をまともにみれないのですが!?)


 心の中で改めて名前を唱えるだけで、先ほどに生じた意味不明の感情が溢れ出しそうになる。これ以上この場に止まれば、自分がどうにかなってしまいそうだ。


「わ、私は先に戻らせていただきます! では!」

「お、おう。またな」


 手を上げながら言葉を返すリースを背後に、カディナは高鳴る胸の鼓動を手で抑えながら足早に決闘場アリーナから立ち去った。


 その一部始終を見ていたラピスとミュリエルは、別の場所にいながらも「ムゥ……」と同じく眉間に皺を寄せており、そしてやはり同じことを考えていた。


((あれは──落ちたな))


 色々な意味で、新たなライバルの登場を確信した次第である。


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大賢者pop
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[一言] アルフィの歯軋りが聞こえるw
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