第百八十九話 第三撃ですが──最近になって気がついた様です
試合の流れが早い分だけ、魔力の消耗も激しくなっていく。
「装填──ケホッ」
カディナとの試合が始まってから、既に三度目だ。圧縮魔力を胸に叩き込み、全身に魔力が駆け巡る衝撃に咽そうになる。
だが悠長に息を整えている暇はない。風魔法で推進力を得たカディナが目と鼻の先に迫ってきている。装填直後には大量に流れる魔力の制御に意識を割く必要があり、彼女がこの隙を逃すはずがない。
「風槍ッ」
「要塞防壁!」
中級の風魔法を投影。このタイミングでは防ぐのが妥当。剛腕手甲を展開した防壁が、その時点で既にカディナは俺の後ろを取っている。続けて彼女が魔法を投影する前に、俺は銀輝翼の一枚を起爆。
「飛天加速ッ」
俺とカディナの中間地点で魔力の翼が炸裂。カディナは巻き込まれる前に風魔法で移動し逃れていたが、俺はあえてその場で両足を踏ん張り、決闘場の床に亀裂を生じさせながら留まる。
即座に靴底を擦りながら方向転換をし、二枚目の魔力翼を砕く。
「飛天加速・第二撃ッ」
加速魔法の第一撃目と二撃目が予想より短く、急速に接近するカディナの表情が強張るのがわかった。だが空中で風鎧で体勢を入れ替え最小限の動きで躱される。
「飛天加速・第三撃ッ」
第二撃まで躱されるのは想定済みだ。ここで滅多に使わない第三撃を発動。完全に予想外だったのかいよいよカディナが息を呑む。
「舐めるなぁっ!!」
「嘘だろぉ!?」
カディナは大きく身を振って身体を回転させながら片手で魔法を投影。そして残ったもう片方の手は、あろうことが己に迫り来る剛腕手甲の側面に添えて受け流したのだ。
「何であのタイミングで避けられるんだよっ!?」
「今のは驚いたわ。紙一重でも反応が遅れてたら直撃してたわよ」
俺が銀輝翼を投影し直しながら音を立てて着地する一方で、カディナも風を纏いながら軽やかに着地。少し息を荒げながらも、受け流しに使った手を開閉し動作を確認する。まさか加速して威力の乗った剛腕手甲をついて受け流されるとは思ってもいなかった。
風属性の使い手の特性でもあるのだろうが、カディナ当人の反応そのものがとてつもなく早い。ここに関してはアルフィをも上回っているに違いない。あの状況からの受け流しはあいつにだってできやしないだろう。ここまで勝負強い奴とは思ってもみなかった。
少し落ち着いてカディナの様子を観察する。
アレだけ激しい動きをしているだけあって少し肩で息をしているが、魔法使いとしてはかなり体力があるようだ。もしかしたら入学した頃から俺との戦いを想定しての体力作りも影ながら続けていたのかもしれない。
魔力にもまだ余裕がありそうだ。移動に用いる魔法は初級魔法を調整し風圧を強化したもので、見た目の派手さに比べて消耗は少ない。
また、攻撃魔法は至近距離での撃ち合いではやはり初級魔法。これらは牽制で、本命は銀輝翼を三枚消費した時を狙った中級魔法。
だったら三枚目を温存しておけば良いと思えるがそうもいかない。カディナのやつ、隙あらば残った一枚を壊しに来るのだ。これが非常に厄介。
柔な作りはしてないが、中級魔法ほどの威力をぶつけられたら外殻が耐えきれずに崩壊する。意図せずに背中で魔力が暴発したら、カディナが相手だとそこから一気に仕留められる可能性があった。下手に残すよりかは攻撃か防御に使った方がまだマシだ。とはいえ、銀輝翼一枚分の魔力というのも回数を重ねると馬鹿にならない。余計に魔力の消費が加速する。
アルフィほどでは無いにしろ、カディナはノーブルクラスの中でも屈指の内素魔力を有している。あちらの魔力切れを狙うのは難しいだろう。
冷静に状況を省みると──かなりまずい状況である。
ミュリエルの時とは違う。
手札の大半を曝け出した上での劣勢だ。
「あと三回……といったところかしら」
不意に、カディナが口を開いた。
その言葉に、俺は息を呑んだ。
まさかこいつ──ッ。
「落ち着いて考えてみれば当然のことだったわ。……とはいえ、これに気がついたのはごく最近のことだったのだけれども」
はぁ……と溜息をついてから、カディナは口をひらく。
「圧縮魔力を取り込んで強引に内素魔力を増やす。『魔力を回復する魔法』だなんて、非常識すぎて最初はわからなかったけれども、よくよく考えてみればおかしいのよ。そんな強引な手段で魔力を回復するのに、何らデメリットが存在しないというのはありえない」
魔法を初期案を考案した際に、考えなしに圧縮魔力を取り込んで死にかけたことがある。そこから婆さんの考えた鍛錬メニューをこなし、魔法そのものも見直した結果に出来上がったのが超化であり装填だ。
「ライトハートが言っていたわ。通常なら、圧縮魔力が内側で解放される衝撃に肉体が耐えきれない。あなたの強靭で馬鹿げた耐久力が無ければ無理な芸当であると。──非常識な魔法すぎてそこで考えが止まっていたわ。でもさらにもう一歩踏み込んで考えれば簡単だった」
だが、これらを編み出してから年単位の時間を経てなお克服できていない大きな弱点が存在していた。