第百八十六話 許可はとっているようですが──準決勝第二試合秒読み
点検も終わり、合図を持って俺は決闘場に上がる。少しばかり時間が経過したにも関わらず、会場内の熱気は冷めやらぬ様子だ。
ラピスとアルフィの繰り広げた激闘の白熱ぶりは、入場口で観戦していた俺にも伝わっていた。あんな戦いを見せられて熱が入らないわけがない。
俺以外に同世代でアルフィと本気でやり合える魔法使いがいるなんて、ジーニアスに入学するまで考えもしなかった。
知識という点に関しては、昔から大賢者の指導を受けてきた俺はほぼ学校に通う必要はない。だが、同世代や友人との切磋琢磨は以前では考えられないほどの刺激だ。この学校に来なければ、もしかしたら俺は超化を会得した時点で満足していたかもしれない。
「感謝してるぜアルフィ。お前がジーニアスに来るって話をしなかったら、俺がこの場に立つこともなかったからな」
俺がジーニアス魔法学校に入学する切っ掛けは、アルフィに勧誘が来たからだ。おかげで、充実した日々を送らせてもらっている。
『なお、次の準決勝第二試合の解説役はヒュリア先生となっております。先生、よろしくお願いします』
『このような席は初めてですが、誠心誠意勤めさせていただきます』
「ん?」と覚えのある声が拡声魔法具から響く。実況席に視線を向ければ相変わらずのサラドナの隣に、眼鏡を掛けた女教師が座っていた。ふとした拍子に目が合うと、ヒュリア先生の鋭い眼差しに背筋が軽く泡立つ。
普段は決闘でも重圧をあまり感じない俺ではあるが、今回ばかりは一味違う。校内戦に向けての特訓で彼女にはかなり世話になっている。
この試合でその成果を発揮することになるかはわからないが、恥ずかしい内容にはできない。もしだらしないところを見せたら、後で嫌というほど小言をぶつけられそうである。
と、アレだけ騒がしかった会場の一部からどよめきのようなものが広がる。観客席の生徒たちは、ある方向を見ながら何やら驚いていた。釣られて視線の先に目を向ければ、俺が決闘場に入ってきたのとは対面側。アルフィが出入りした方の入場口だ。
ちょうど、俺の準決勝の対戦相手であるカディナの入場タイミングであった。
「────んん?」
カディナの姿を確認して、俺は思わず眉間に皺を寄せてしまった。
見間違いかと目を擦り、改めて対戦相手の姿を視界に収めると、やはり最初に目に映った通りの姿であった。どうやら俺の目は故障したわけではないらしい。
今のカディナは、伸縮性のある布地の上に、男子制服を改造したような半袖ジャケットを羽織っている。加えて指貫グローブと、後ろ髪の先端がばらけないように縛ってある。
テリアとの準々決勝を含み、校内戦で見せていたそれらとはまるで違った姿に、俺を含めて会場内のほとんどが唖然となっていた。
『えーっと、ここでみなさまに細く説明がございまして』
ここで実況の声だ。
『ご覧の通りカディナ選手の服装は指定の制服ではありませんが、すでに校内戦の運営に携わる教師の方々には許可をとっているとのことです』
俺たち生徒に支給されているこの制服は着心地が良い上で非常に頑丈な作りになっている。多少の魔法なら破損しないし、そもそも夢幻の結界がある決闘では服の破損は気にしなくて良い。つまり、校内戦や決闘で制服以外の服を着るという概念はなかったのだ。
『さらに付け加えますと、校内戦の試合ルールは普段行われている決闘に基づくものでありまして、それそのものに服装を縛る制限はありません。最低限の風紀を守り、過度の魔法的処理が施されていかければ概ねは大丈夫です。今回のカディナ選手のように、前もって申請を行い許可が降りれば使用は可能であります』
もっとも、流石にその服を学校生活で使用するともなればまた別問題ではあるらしいが。
「と、いうことよ。私の格好についてはなんら問題ないわ」
「問題ないってお前……」
決闘場に現れたカディナが発した第一声に、俺は言葉を惑った。
確かにルール上は問題ないのかも知れないが、俺の情緒にはだいぶん問題がある。
服の下の布地であるのだが、まさかの上下分割式。つまりはヘソだしなのである。
下半身は半ズボンのようなインナーの上からスカートを履いており、明らかに露出が減ったはずなのにいつもより肌が眩しく見える。
そして何より上半身。半袖ジャケットを羽織っているものの、胸が大きいせいか、ボタンがあるのに前が止まっていないのである。つまりは肌にピッタリ張り付く布地によって、ただでさえ破壊力のあるおっぱいの存在感がとんでもないことになっている。黒の無地なのに、これでもかというぐらいに胸元が引き伸ばされているの見てとれた。
ようやく最近になってカディナの巨大弩にも慣れて対応できるようになっていたのに、まさかの盤外攻撃にタジタジである。
アレで本当に風紀を守れているのか疑問しかない。少なくとも俺が許可を出す側の人間であれば、首を縦に振っていいか大いに迷う。
いや、分かっている。
カディナがそういう目的であんな格好をする性格ではない。テリアとの試合を見ればよく分かる。アレも俺に勝つためであると。
分かってはいるのだが……アレはちょっと凄い。
会場内のどよめきの何割かはきっと、カディナの格好が刺激的すぎるからでもあるのだろう。
とはいえ、このままでは絶対によろしくないのは明らかだ。
────バチィィィィンッッッ!!
「────ッ!? ろ……ローヴィス、いきなりどうしたの?」
「いや何、ちょっと自分に喝を」
両手で自身の頬を思いっきり張ると、俺の突然の行動にカディナがびくりと肩を振るわせた。試合が始まる前に微妙にダメージが入ったが、両頬のひりひろとした痛みに浮ついた気持ちが落ち着く。
俺の奇行に若干怯んだカディナだったが、問題ないと分かったようで笑みを浮かべる。
「ようやくね。ようやくあなたと戦えるわ。今日この瞬間を私がどれだけ待ち望んでいたのか分かっていて?」
入学当初はアレだけ目の敵にされていたのだ。いやというほど伝わってきている。
近頃は友達としての交流も増えて仲良くできていたのは確かだ。けれども、彼女の根底にあるものはずっと変わらなかった。
俺だって同じだ。
学年第二位の実力者との本気のぶつかり合いを、ずっと望んでいた。
「悪いが、学年主席を譲るつもりはないぜ。お前にもアルフィにもな。こいつは俺が卒業するまで独占させてもらう」
「であれば、私はその決意を打ち砕かせてもらうわ。アルファイア家の魔法使いとしてね」
カディナの新衣装でございます。
本文中にありましたが、ぴっちり半袖とスパッツに、改造制服な半袖ジャケットとスカート履いてる状態ですね。近い格好のキャラとかいそうなんだけど、うまく見つからないのでちょっと悔しい。
探した中で一番近かったのは遊戯王ARC-Vの天上明日香の前留め外してスカートの下にスパッツ履かせてる感じ(ちなみに遊戯王ARC-Vはミリしらで明日香のビジュアルをちょっと知ってた程度)。




