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大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜  作者: ナカノムラアヤスケ
第五の部 学園生活順風満帆なお話
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第百六十九話 楽しみだそうです──似ていました


 大賢者とミュリエルは川沿いの開けた地で野営(キャンプ)の設置を進めていた。


大地隆起(アースウェル)


 ミュリエルは魔法陣を投影すると、しゃがみ込んで地に手を触れる。すると、地面から幾らかの細長い棒が迫り出していく。


「ほいっと」


 大賢者は胸元から下げていたペンダント──収納箱アイテムボックスを軽く叩き指を振ると、伸びた棒の上に大きな布が被さった。そこへミュリエルがさらに魔法を加えると、布の裾を地面固定する形で縫い止める。


 最後に調整を済ませると、ミュリエルは再び魔法陣を投影。次に簡易な釜戸、食材を調理するための台も作り上げていく。


「ほっほっほ。地属性の使い手がおると、この手の作業は捗るのぅ」


 ミュリエルが魔法で次々に野営の設備を形成していく様子を目に、大賢者は満足げに頷いた。


 こうした野外生活(サバイバル)では、地属性魔法は拠点の設営に大いに役立つ。


 簡易で済ませるのなら、ミュリエルが行ったように土で支柱を作り、上から幌を被せれば寝床(テント)に。数人がかりでもっと大規模に行えば一軒家に近い構造物も作り出せる。地属性魔法使いがいれば野営時に必要な荷物を減らせる上、退散する時は物資を回収した後に土で作った成形物を崩してしまえば片付けも楽に済ませられる。


「私の今の技量だと、流石に調理器具とかは作れない」

「そこまでは求めとらんよ。こちらで用意するでな」


 大賢者はミュリエルが作った台の上に、まな板や包丁といった調理器具を広げた。当然、これらも収納箱アイテムボックスから取り出したもの。野菜を中心とした食材も並べられた。


「夕暮れごろにはリースが肉を持って戻ってくるだろうから、それまで」

「わざわざ現地で食材を調達せず、収納箱(それ)に全部料理を入れてくれば事足りたのでは?」

本気(ガチ)野外生活(サバイバル)する時ならともかく、今回は軽めじゃからな。人間、楽ばかりするといざという時に困る。余裕がある時はあえて手間をかけるもんじゃよ」

「……なるほど」


 ミュリエルは頷いたが、本当に理解しているか表情からイマイチ読み取りづらかった。リース(あやつ)の周りにいる女子は愉快な者ばかりじゃな、と大賢者は内心につぶやく。


 なお、鍛錬の一環として行う『本気野外生活』の際は大鉈と短剣(ナイフ)以外は全て現地調達で済ませる。おかげでリースは、普通の森であれば一ヶ月ほどは余裕で生活できる程度の能力は身につけていたりする。


「ところで大賢者様、質問しても良い?」


 ミュリエルが挙手をするが、呼ばれ方に対して大賢者は顔を顰める。


「『様』付けはやめい。背中が痒くなる。完全に赤の他人というわけでもないしな」

「なら、師匠と同じ『老師』で」

「その辺りが妥当じゃな。んで、何が聞きたい。先に言っておくが、リースに出した課題に関しちゃノーコメントじゃ。お前さん(づた)いにあやつに伝わっちゃ意味がないからの」

「私もそれは望むところじゃない。自分で考える派だから」


 ミュリエルはフルフルと首を横に振ってから、改めて口を開いた


「気になるのはカディナのこと。どうして巻き込んだのか。リースも不思議に思ってるはず」

「おお、そっちのことか」


 カディナは王都の城下町で、リースと大賢者の会話を盗み聞きしていたようだが、おそらく大賢者がその気であれば会話の内容を外部に漏れないようにもできたはずだ。事実、カディナが魔法を用いて聞き取れたのは話の終盤。意図的に彼女が内容を漏らしたと考えるのが自然だ。


 大賢者は腕を組みしばし考え込む。果たしてどのような深い意図があったのか。今か今かと待ち望むミュリエルに、大賢者は「うむ」と頷いた。


「特に深い意味はない」

「…………???」


 予想外な答えに、ミュリエルは無表情のままコテンと首を傾げた。その様子に、大賢者は愉快げに笑った。


「何やら勘繰っておるところで悪いが、本当に深い意味はないんじゃよ。言っちまえば気紛れみたいなもんじゃ」


  ただ、と大賢者は付け加える。


「道に迷っとる若者がいれば、その先を少し照らしてやるぐらいのお節介を焼きたくなることもあるということじゃ」


 大賢者はずっと、リースの成長を目の当たりにしてきた。時には予想の斜め上をいく成果を発揮し、それが時に不安を呼びながらも楽しみであった。そうした日々が、権力争いを嫌い黄泉の森に引きこもっていた己を変えていったのだろう。


 案外悪くないと、近頃の己を顧みて思ったりする。


「ま、具体的にあの娘が何かを掴むかまでは皆目見当もつかん。事細かく知っとる訳じゃないしの。とりあえずうちの小僧が四苦八苦してるところを見れば何か思いつくかもな」

「そのあたりは適当なんだ」

「儂の弟子はリースであって小娘ではないからの。ウチの馬鹿弟子が四苦八苦してるところを見てりゃぁ、何か思いつくかもな。リースにしても、いつもと違う環境に身を置けば刺激になるじゃろうて」


 刺激という点では、ジーニアス魔法学校に入学した時点でも大きく影響を受けていた。もとより向上心の塊のような少年であったが、同世代の──しかもその中でも珠玉の才能を有する者たちに囲まれたことで強い競争意識が芽生えている。己の相手(ライバル)幼馴染(アルフィ)だけではないという認識が強まったのだ。


 確かに、リースの『強さ』は入学時点より多少は成長したくらいである。だが、魔力の制御や判断力。身体操作のキレ。『魔法使い』を構成する基礎の部分は大きく成長を遂げていた。


 今のリースは拡大した基礎を使いきれていない。故に、魔法使いとしての成長は微々たるものであると、あえて厳しい評価を与えたのだ。


「既に材料は揃っておる。あとはリースがそれに気がつき、どんな解答(こたえ)を導き出すか。今から実に楽しみじゃ」


 クックックと愉悦を漏らす大賢者を目に、ミュリエルはふと思った。


(この笑い方、ウチの師匠もたまにするな)


 案外、弟子を持つ師匠というのは似るものなのかもしれない。


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