第十四話 収納上手──そういえば少しうるさいです
この話の時点で、『アブソリュート・ストライク』が総合日刊三位に浮上しております。
嬉しい限りです。
──ガガンッ!
昼食を全て胃袋に収めると、アルフィがまた口を開いた。
「ワイルドベアを狩人組合に持ち込んだら、噂になってる筈だろ。けど、そんな話は聞いてないぞ。どうやって換金したんだ?」
「村の組合じゃ売却費用を支払えないだろうって話だったから、都の組合に持ち込んだ」
「ワイルドベアって、成熟した個体は四メートルを超えるって聞いたことがある。まさか、都まで担いでったのか?」
「持ち込んだ獲物は一頭だけじゃなかったから、さすがに担いでは無理だよ」
「……言外に、一頭なら担いで来れるって言いたいのか」
俺は制服の下に仕舞い込んでいた首飾りを表に出した。本来ならあまり見せびらかしていい代物じゃないが、アルフィだったら問題ないだろう。無闇に喧伝する奴じゃないからな。
──ガンッ、ガンッ!
「アルフィ、こいつが何か分かるか?」
「……何かの魔法具(魔法が込められた道具)か?」
「知り合いから貰った珍しい魔法具でさ」
青色の金属部と緑色の宝石で構成されたシンプルなデザイン。俺はその宝石部分を軽く叩いた。すると、テーブルの上に小さな光が弾け、光がなくなると代わりにそこには『木箱』が出現していた。
木箱の蓋を開けば、中に納まっているのはクッキーだ。
アルフィは納得したように頷いた。
「なるほど、『収納箱』か」
「……意外と驚かないねお前。これってそれなりに希少品なんだけど」
「それなりに珍しくもあり、かと言って滅多にない物でもないってだけだ。あ、一つ貰うぞ」
木箱の菓子を一つ摘むと、アルフィは口に放り込んだ。彼の反応に拍子抜けしつつ俺も一つ食べる。美味。
──ガンガンガンッ!
このネックレスは大賢者の婆さんから餞別として貰った魔法具だ。昔、凄腕の職人に作ってもらった物のようで、手の平に握り込めるほどの小ささなのに、実際には大型倉庫を更に上回る量を保存できる。収納した物はいつでも取り出すことができ、収納されたている間は時間が止まっている為に食べ物の鮮度をずっと保つことができるのだ。
無論、何でもかんでも収納できるわけではない。扱う上でいくつかの制約が存在している。
一つ目──生命活動を維持している存在は収納できない。
二つ目──他人が身につけている物を収納することができない。
三つ目──地面に固定されている物体を収納することはできない。
四つ目──収納箱は所有者以外には使用することができない。
──ガンッ、ガンッ、ガガガガンッ!
「商人や狩人にとっては垂涎の一品だな、まさに」
「これのお陰で楽に都の狩人組合に獲物を持ち込めたわけだ。ほい『収納』」
菓子箱に蓋をし、そのまま上蓋に手を乗せたまま『言霊』を呟く。箱は光に包まれると、胸元のネックレスに吸い込まれるようにしてその場から消えた。
──ガガガガンッ! ガガガガンッ!
「……なぁリース」
「まぁ、そろそろウザったくなってきたな、この音にも」
俺たちは揃ってとある方向へと振り向いた。そこには俺の展開した半透明な防壁を跨いで、顔を真っ赤ににさせ、肩で息をした青髪の生徒が立っていた。
「たぶん、お前が『齧る』宣言した相手じゃないのか?」
「……おお、確かに妙に割り込みをしようとしてたイケメンだ」
ポンッと手を叩く。
「────ッッ!!」
俺の仕草が気に食わなかったのか青髪男子は叫ぶが、防壁に防音加工を施しているので全く聞こえない。それから、食堂の中だというのに空中に魔法を投影しだした。
放たれたのは『水弾』だ。どの属性であっても、属性を弾丸上に圧縮して放つのが攻撃魔法の初級だ。
通常、一つの魔法陣から放たれる弾丸は一つ。しかし、青髪男子の魔法陣からは水の弾丸が大量に連射された。
──ゴガガガガガガガガガガガガッ!
さっきから聞こえていたのは、防壁に彼が放つ水弾が衝突する音だった。アルフィが先ほどスープを噴き出した頃に、どこからか水弾が飛んできたので、そのまま防壁を拡大し、放置していたのだ。
「いい加減に諦めてくれんかね」
「貴族のプライド的な何かがあって引っ込みがつかないんだろう。周りを見てみろリース」
言われて周りを見渡す。近くの席に座っているのは俺とアルフィだけで、他の生徒は青髪男子の魔法に巻き込まれないように離れた場所に避難し、行く末を見守っていた。
「こりゃまた随分と悪目立ちしてるな。おいアルフィ、別に付き合わなくて良かったんだぞ?」
「お前と同郷って時点で諦めてるよ」
なんだかんだいって、やっぱりこいつは良い奴だよなぁ。
「それよりもいい加減、気にしてやれよ。あれ、もうちょっとで泣きそうだぞ」
青髪生徒は顔を真っ赤にしながら魔法を放ってくるが、アルフィの言葉通りそろそろ泣き出しそうな雰囲気である。
しょうがないので、水弾が途切れたタイミングを見計らって防壁を解除した。
「で、何の用?」
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
問いかけたら叫び声と共に魔法の投影で返事をされる。完全に頭に血が上って耳に届いていないなこりゃ。
「アルフィ」
「やれやれだなほんと──『風弾』」
溜息混じりでありつつも俺の意図を読みとったアルフィが即座に魔法を投影した。青髪よりもかなり遅れて投影を開始したのに、投影が完了したのはアルフィの方が早い。さすがは天才だ。
「『アクアガト──』(ゴンッ!)はぐぁっ!?」
威力を調整した風の弾丸が、今まさに魔法を放とうとする青髪の額に命中。妙な悲鳴を上げて投影を強制的に中断させられた。青髪は額に手を当て、痛みにうめきながらしゃがみ込んでしまった。
「……打たれ弱くね?」
「俺は『この惨状』に頭を抱えたいよ」
防壁によって弾かれた水弾は圧縮された水が解放されて周囲に飛び散っていたのだ。俺とアルフィの座る席防壁で無事だったが、その周りは完全に水浸しになっていた。
「……よし、逃げるか」
「やめとけ、もう遅い」
親友の指さしたのは、複数の教師がこちらに向けて駆け寄ってくる場面だった。
何とも懐かしい光景だ。村の学校ではよく教師によく追いかけられたものである。
明日はカンナの執筆に専念して、アブソリュートの更新は明後日以降になると思います。