第百五十話 コミカライズ第一巻が十月一日に発売します!!!
放課後には日課の鍛錬時間。
貴族の多い魔法学校の多くは、魔法の修練よりも人脈作りに勤しむ生徒が多いと聞いたことがある。だが、ここジーニアス魔法学校では別だ。
国内最高峰の魔法使い教育機関に籍を置くのは、殆どの者が本気で己の魔法を高めようとする者ばかりだ。
学年を丸ごと巻き込んだ校内戦が近いというだけあって、鍛錬場は普段以上に大盛況だ。結果を残すことが出来れば、この学校で最高ランクの環境であるノーブルクラスへの編入も視野に入るのだからやる気も出よう。
「超化!」
かくいう俺もその一人だ。鍛錬場の一角に陣取ると、魔法を発動する。圧縮魔力を胸元に叩き込むと、常時と比べて桁外れの魔力を内包する。
少なからずの視線を他の生徒達から集めるが、既に超化はミュリエルとの一戦で使用しているのでもう隠す必要は無くなっていた。
そんなわけで、挑戦者にとってはまず俺に超化を使わせるまでが第一関門だ。
コレまで見た限り、同学年で俺に超化を使わせるほどの相手はそう多くない。ミュリエルとアルフィは言うに及ばず、おそらくは最近の伸びしろが凄まじいラピスと、それと互角の戦いを繰り広げたテリア。そして、現時点で学年次席のカディナ。
つまりは、今回の校内戦でぶつかり合う可能性のある奴らばかりだ。俺もいっそう鍛錬に身が入るというものだ。
――俺は依然として〝壁〟にぶつかっていた。
黄泉の森で大賢者の婆さんにコテンパンにされてから、俺は色々と試行錯誤を重ねていた。が、そのどれも実を結ぶことがなかった。
とりあえず、超化を保ったまま、準備運動がてらに拳や蹴りを振るったり、跳躍を使って空中機動を行う。肉体的にも、魔力操作のおさらいという面の方が大きい。超化中は一度に扱える魔力の量が一気に増えるので、普段の調子で制御を行うとし損じたりするのだ。
「あー、でもこうやって悩みまくるってのは久しぶりかもしれねぇなぁ」
飛天加速で空に飛び上がりながら、俺はふと昔のことを思い出した。
無属性の俺は、空気中の《魔素》を無差別に取り込み、他の属性に比べて圧倒的に早く内素魔力を回復できる。
だが、どれほど素早く魔力を回復できても俺の魔力の最大値は他の魔法使いに比べて圧倒的に少ない。これは致命的な弱点だ。魔力を取り込んでいる最中はどうしてもそちらに意識を集中してしまい、どうしても無防備になる。戦闘の最中に何度も無防備を晒すのは論外だ。
この致命的な弱みをどうにかしようと、昔の俺は悩みに悩み抜いた。まさに、この瞬間の俺と同じように。
幾日も幾日も考えた末に閃いたのが、大量の魔力を予め躯の外部に用意し、体内に取り込む方法だ。
それを理論的に研鑽し、必要な肉体を作り上げた結果に生み出されたのが、超化なのである。
そして俺は今、かつての問題を解決するために導き出した答えに、新たな悩みを抱いているのだ。
跳んだり跳ねたりの準備運動が終わって、俺はいよいよ課題に取り組み始める。とはいえ、ここからどうするかはまだなにも考えていなかった。
目下の課題は――装填を行う頻度を減らすことだろう。呼吸での魔力回復と同じで、装填の最中はどうしても隙を晒しやすい。先日に行った大賢者との組み手でも、そこを狙われてから一気に突き崩された。
魔法を使用する際の魔力節約は、既に着手している。だがジーニアスに入学した時点で殆ど手を加え終わっており、今更劇的な改善は望めない。
ならば、今度は魔力の総量を増やせないか試みる。
やることは簡単。
「ふんっ!」
魔力が潤沢な状態で、銀輝翼の内部に溜め込んだ魔力を装填で取り込むだけだ。
気合いを込めたのは体内を駆け巡る膨大な魔力に耐えるためだ。雑な例えをすると、食い過ぎで満腹状態の腹に更に食い物を詰め込むような状態だ。
「やっぱ……これは…………きっついな…………っ!」
少しでも油断すると、膨大な魔力の制御を誤り、超化が途切れてしまいそうになる。辛うじて銀輝翼と剛腕手甲の形を維持しているだけで精一杯だ。
指先一つでも動かすのが辛い。とてもではないが、このままの状態での戦闘は不可能だ。
こうして無理矢理魔力をため込む量を増やそうと、ここ最近は同じような事を繰り返しているが、やはり結果は微妙なところだ。僅かばかりの成果は出ているかもだが、気持ち程度だろう。
やってみてあれだが、この方法もいまいちピンとこないのだ。決して間違いではないだろうが、かといって最適解でないのも明らかだ。
結局のところは、思いつく限りを手当たり次第に試していくしかないのだろう。
婆さんが言うには、コレこそが『魔の探求者』である魔法使いの正しい姿。現状に焦燥を抱いている俺は、そこまで悟りを拓くことは出来ていないのだろう。




