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大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜  作者: ナカノムラアヤスケ
第五の部 学園生活順風満帆なお話
140/245

第百四十五話 再会なのですが──青春真っ盛りです

コミカライズ記念ということで超絶久々に更新しました。

いやね、申し訳ない気持ちはいっぱいなんですがね。

こんな作者を見捨てずに読んでくださっている方には感謝が尽きません。

とりあえず、ラピスの話は決着ですね


 ジーニアス魔法学校に入学してから闘う場面は色々あったが、先日のガノアルク家当主リベアとの手合わせエキシビションマッチで俺は本気で死を覚悟した。ガノアルクの屋敷での一戦は本当に『お遊び・・・』だったことを、改めて思い知らされた。


 絶え間なく降り注ぐ魔法の弾幕に、時間が経つほど手数が増えていく悪夢。最初から超化エクステンドで使うが、攻め手を最初の一歩で潰される。辛うじてそれらを掻い潜り一打を加えようにも、タイムラグ無しで投影された強力な魔法で迎え撃たれる。


 結局、有効な一撃を与える事もできず、学校長が止めた所でエキシビションマッチ――という名目の『制裁』は終了した。


 俺を存分に痛めつけられたからか、終了した時のリベアの顔は険しくあったがどことなく満足げ。対して俺は。、大きな怪我こそ無かったが小さな被弾は数えきれず。心身ともに疲弊しきっており床に伏したまま一歩も動くことが出来なかった。


『夢幻の結界』が使われなかったこともあり、リベアとの闘いの後も、しばらくは身体中に痣を作って生活することになった。婆さんとの修行ではよく青あざを拵えており、痛みには多少なりとも慣れていたが、かといって痛いものは痛い。


 ただ、一方的な展開で終始したあの闘いだったが、俺への評価はあまり下がらなかったらしい。実際に闘っていた俺は必死だったから分からなかったが、アルフィ曰く外から見た光景は『天災に立ち向かう人間』みたいに衝撃的なものであったとか。むしろ、アレを五体満足で凌ぎきった俺を称賛する声があったとか。


 一部の生徒達は「あのままくたばってしまえば良かったのに」と物騒なことを呟いていたようだ。もちろん、ラトスラピスのファン達である。時折背中に感じる殺気混じりの視線は奴らのだろう。刺されないように気をつけねばなるまい。


 ――そんなこんなで、ラピスとテリアの決闘が終わってから一週間ほどが経過した。


「俺がしたことって意味があったのかねぇ」


 心地よい日差しの中、俺は学校の敷地内にある適当な芝生に仰向けで寝転がっていた。


 決闘場アリーナでの……あれやそれで分かれた後から、あの二人とはまだ一度も会えていない。ラピスが使っていた男子寮の部屋を訪ねたがもぬけの殻。テリアの部屋も鍵が掛かっていて中に入れなかった。


 売れば都の一等地を建っている屋敷ごと購入できるという噂の、大賢者の婆さんから貰った収納箱アイテムボックス。惜しくはあったが、これをテリアとの婚約破棄における賠償金に充てるようにリベアに渡したのだ。


 受け取ったリベアは「考える」とは言ったが、婚約破棄の確約までは口にしなかった。


 学校長を経由して問いただそうとも考えたが、あちらはあちらで忙しいようでどうにも会えない。というか、一介の生徒が気軽に会えている時点で少し妙なのかもしれない。そんなわけで、何一つハッキリしないまま、ただ時間だけが過ぎていった。


「ああくそっ、すっげぇもやもやする!」


 自分でも珍しい事だとは思う。故郷にいたときはだいたいの時は思い立ったら即行動といった感じで過ごしていた。そしてだいたいは、良くも悪くも何らかの形で決着がついていた。だから、できることがない、という現状に歯痒いものを感じているのだ。


 俺は頭を掻きむしった。そして胸の中にある苛立ちにも似た感情を誤魔化すように、不貞寝を決め込むため目を瞑った。


 ――ザッ。


 視界を閉ざしてから少しして、俺に近付いてくる足跡が聞こえてくる。けれども俺はあえてそれを意識の外に追いやり、知らぬ存ぜぬを通す。


 やがて足跡が側まで来ると――。


「どうしたの? 珍しく悩んだ顔しちゃって」


 声を聞いた瞬間、俺はハッと目を開き勢いよく身を起こした。そこに居たのはやはり、俺が思い描いた通りの人だった。


「ラピスっ!?」

「や、一週間ぶりだね」


 驚く俺に笑って答えたのは、最後に見たときと同じ女子制服を着たラピスであった。


「お前、いままでどこに行ってたんだよ!」

「もしかして心配してくれてた?」

「そりゃぁっ…………まぁ、それなりに」


 本人の目の前で認めるのが急に恥ずかしくなり、語尾が小さくなってしまう。


「心配かけてゴメン。でももう大丈夫。今日から僕もノーブルクラスの一員さ」」


 ラピスがこれまで姿を見せなかったのは、諸々の手続きに時間が掛かっていたからのようだ。特に、男子生徒として入学していたから、余計に話がややこしくなっていたのだ。


「けど、学校長が事前に手を回してくれたからこそ、この程度で済んだんだろうけど」

「なにさ。あの人、こうなる展開を予想してたのか?」 

「というか、どちらかといえば、『こんな事もあろうかと』って感じだったよ」


 学校長はラピスが入学した時点で、万が一の可能性を見越して男子生徒ラトス女子生徒ラピスになったときのための書類を用意していたのだ。


「僕と同じで、性別を偽って学校に入学した人っているにはいたらしいよ。だから前例がないってわけじゃないってさ」

「そうなのか……凄ぇなジーニアス」


 もしかして、女子が性別を偽って入学した例があるなら、男子が性別を偽って入学したこともあるってか?


 ――これ以上考えるとドツボにハマりそうだ。


 頭を振って湧き始めた思考を打ち消し、俺は一番気になっていたことを聞いた。


「じゃぁ、テリアとの婚約は」

「うん、無しになったよ。その代わり、妹のラズリがテリアと婚約することになった」

「はぁっ!?」


 テリアはラピスに決闘で敗北したことにより、ノーブルクラスから一般クラスへと転落。その上で、ラピスの妹であるラズリとの婚約を交わし、将来的にはガノアルク家に婿入りすることとなったのだ。


「ノーブルクラスからは降格にはなったけど、テリア・ウォルアクトの実力は父さんのお眼鏡にかなったみたいだね。それに、僕と違ってラズリも彼との婚約には凄く前向きだったよ」


「そういえばおたくの妹さん。俺が屋敷に行ったとき、テリアのことをもの凄く聞きたがってたからな。お姉さんのことよりも先に」


 どうやらあれは、姉の婚約者に対しての強い憧れからくるものだったらしい。ラピス曰く、初めて会った時からテリアに対して一目惚れに近しい感情を抱いていたとか。


「長女になった僕はもう次期当主でもなんでもない。そこにラズリの夫としてテリア・ウォルアクトがガノアルク家に婿入りすれば、次代の当主はテリア・ガノアルクになるってわけさ」


 ウォルアクト家としては、婚約者がラピスであろうがラズリであろうが、とにかく次期当主としてテリアが婿入りできれば文句はなかったらしい。貴族の世界って怖いなぁと思いつつも、当人達テリアとラズリがそれで納得

できているならとやかくは言うまい。※不要な改行あり


「けど……お前はそれでいいのか?」

「うん。……これはちゃんと、父さんと話し合ったことだよ。もう僕はラトスである必要は無いんだ」


 そう言ってから、ラピスは制服のポケットからペンダントを取り出した。俺がリベアに渡した収納箱アイテムボックスだ。


「父さんから聞いたよ。ウォルアクト家への賠償金代わりに受け取ったって。でも相手は違えど婚約は成されたからその必要もなし。これは返すってさ」

「そりゃ良かった。あ、いやまぁ、別に手放したことに後悔は無いんだがよ」


 収納箱アイテムボックスは便利な魔法具であるが、それ以上に大賢者の婆さんから貰った思い入れの強い品だった。それが手元に戻ってきてくれ事は純粋に嬉しかったのだ。


「これも含めてだけど……本当にありがとう『リース』」


 もしかしたら初めてだったのかも知れない。俺がラトスラピスから名前で呼ばれたことは。


「君のおかげで僕は父さんと――家族とちゃんと話をすることが出来た。互いの想いを伝え合えた」


 実の兄が死んだ過去は消し去ることは出来ない。思い出せばやはり悲しみは蘇る。


「でも、ようやく僕らは前を向いて歩いて行ける。兄さんの死はやはり辛い思い出だけど、今度こそ家族みんなで背負うんだ」


 ラピスが十年近くも背負い続けてきた重しを、家族みんなで分かち合う。それこそが本来のあるべき形なのだ。


「いんや、そいつは違う。俺はちょいとばっかしお節介を焼いただけだ」


 俺がしたことと言えば、ラピスの親父さんの所に押しかけて、金目の物を渡した程度だ。後は全部、ラピスが掴み取ったものだ。


「そんな事無いよ。君が背中を押してくれなかったら、こうはならなかった。君がいてくれたからこそ、僕は頑張れたんだ。だからありがとう」

「ははは……礼を言われるってのはかなり照れるね」


 どちらかというと常に迷惑を掛ける側(自覚は多少ある)なので、改まって感謝を伝えられるとどうにも恥ずかしさがこみ上げてしまう。


「……あ、そうだ。このペンダント、良かったら僕が付けてあげようか」

「ん? ああ、別に良いけど」


 とくに考えも無く頷くと、ラピスは鎖の留め金を外し、俺の首に手を回した。


 座ってる俺にラピスがペンダントを付ける格好なのだが、そうなると俺の眼前にラピスの破城槌が迫り来るわけで……色々と凄かった。ラピスは気付いていないだろうし、鼻息が荒くなりそうになるのを必死で堪える。


「はい、これでよしっと」


 留め金を付け、ラピスが俺の首にペンダントを付け終わる。と、彼女は身を離す前に俺の顔を掴むとくいっと上向きにした。


 俺が疑問を挟むよりも先に、ラピスの唇が俺の頬に触れた。


「お、お前っ!?」

「ははは……。やっぱり恥ずかしいね」


 焦る俺に、ラピスは顔を真っ赤にしつつも笑みを浮かべていた。


「ほ、本当は唇の方が良かったんだけど、さすがにそれは勇気が足りなかったよ。うん、あの時・・・は本当に勢いだったんだなって改めて実感したよ」


 それから、ラピスは一呼吸を挟んでから言った。


「ねぇ、テリア・ウォルアクトとの決闘の後。僕が最後に君に伝えた事を覚えているかい?」


 あの後どれだけ酷い目に遭ったか。とは頭の片隅に思い浮かべるが、それ以上にラピスの行動は俺の中に刻み込まれていた。


「そりゃぁ――」

「リース。僕は君が好きだ」


 俺が言葉を発するよりも先に、ラピスが言った。


「僕を本気にさせたこと、後悔するなよ。なんてったって、僕はリベア・ガノアルクの娘で、父親譲りの頑固者だ。一度決めたことは頑なになってまでやり通すからね。覚悟しておいてくれよ」


 いつかのように彼女はビシッと俺を指さし、不敵でありながらも素敵な笑顔を浮かべ、宣戦布告するかのように言い放った。


「じゃぁ僕は職員室に用があるから、またね。今度はノーブルクラスで会おう」


 ラピスは言うべき事は言ったとばかりに、こちらが口を開く前に走り去ってしまった。


「……男装してたときよりも、イケメン度が上がってねぇか?」


 ラピスの唇が触れた頬に手を触れれば、火傷しそうなほどに熱を帯びているように感じられた。多分、今の俺の顔も去り際のラピスと同じく真っ赤っかなのであろう。


 ただその熱は決して悪いものでは無いのだけは、間違いなかった。


  


 ――リースとラピスによる青春真っ盛りなやり取りの一部始終を、建物の影から見守る姿があった。


 もちろん、アルフィ、ミュリエル、カディナの三人であった。実はラピスはリースの所に向かう前に三人と顔を合わせていたのだ。


 その後、リースを探しに行くと足早に去った彼女を追っていたら、この場面に出くわした次第だ。隠れて見ていたのは――何となくその場の雰囲気である。


(俺よりも遙かにラノベの主人公じゃねぇか。俺はそろそろ泣いても良いと思うんだ)


 ラピスの復帰は学友として嬉しく思う一方で、親友と友人の甘酸っぱい場面を見せ付けられてしまった。


 不特定多数から黄色い声を集めるアルフィだったが、それはそれとして物語ラノベに出てくるような学園ラブコメに憧れも抱いていた。それを第三者の視点で見せ付けられた内心は複雑一杯であった。


『四属性という希有な才能を有したことで、逆にそれらのラブコメ成分が欠乏しているのでは?』とよく分からない考えに至り始めるアルフィである。


「ふむ……強力なライバル登場」


 ミュリエルは本気か冗談かいまいち判別が付かない抑揚で呟く。それから同じく状況を見守っていたカディナの方を向き。


「私たちもうかうかしていられない」

「いえ、どうして私にそんなことを言うのですか?」

「え? 分からないの?」


 ミュリエルの発言がよく分からずに聞き返すが、当のミュリエルはただ不思議そうに小首を傾げるだけであった。眉を潜めたカディナだったが、ミュリエルへの疑問はすぐさま打ち切り改めてリースへと目を向けた。


 まだ頬を押さえたままその場で呆然としていた。


「たかが頬に口付け程度であんなにデレデレして……」


 憤慨を口にしつつも、カディナはどうして自分がこれほどまでに強く苛立っているのかあまりよく分かっていなかった。


 よく分かっていなかったが、とりあえず自分のライバル・・・・が女性相手に鼻の下を伸ばしている光景が情けなくて仕方が無いからだ、と無理矢理に結論を出した。


 

 ──ジーニアス魔法学校の中で繰り広げられた、青春の一幕であった。


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大賢者pop
― 新着の感想 ―
[一言] リース!よくやった!それでこそ漢だ!
[気になる点] >それで納得 >できているならとやかくは言うまい。※不要な改行あり 誤字報告のをそのまま適用しちゃったぽい?
[良い点] こ、更新されてる!? [一言] 更新ありがとうございます
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