表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜  作者: ナカノムラアヤスケ
第五の部 学園生活順風満帆なお話
132/241

第百三十六話 勘違いしていました──本質は別にありました


 テリアは場の雰囲気が激変したのを肌で感じた。水城塞アクアフォートの水流を隔ててもなお、その変化は顕著だった。


 ラトスは先ほどまで何かを躊躇していたような様子だった。だが、深呼吸をすると決意に満ちた表情を浮かべている。


(様子見に徹したのは判断ミスだったかもしれない)


 心の中に己への叱責を抱きながら、テリアは水鞭アクア・ウィップをラトスへと放つ。


 それを迎え撃ったのは、ラトスの足元から生えた水鞭アクア・ウィップ。投影したのは間違いなくラトスだ。


 これまでラトスは手元に魔法を投影するか、自分から離れた地点から遠隔投影を行ってきていた。今のは遠隔投影であろうが、わざわざ自分の近くで遠隔投影を行う意図が読めない。


 魔法使いとしての技量はほぼ互角。単純に考えれば水鞭アクア・ウィップの威力も同等。しかし、テリアの水鞭アクア・ウィップは独自に改良が加えられ、通常のそれに比べれば強度も持続力も増している。ただ単にラトスが水鞭アクア・ウィップを投影しただけなら一方的に打ち勝てるはずだった。


「うぉっ!?」


 二本の水鞭アクア・ウィップがぶつかり合った瞬間に、テリアに襲いかかったのは強烈な違和感。


 テリアの扱う水鞭アクア・ウィップ水城塞アクアフォートと繋がっている。広義的に捉えれば水城塞アクアフォートの一部とも言える。


 その一部がラトスの水鞭アクア・ウィップと絡まりあうと、互いの水鞭アクア・ウィップがぶつかり合って消失。


 見た目の上では相殺。だがテリアにとっては水城塞アクアフォートから『何か』が剥ぎ取られる・・・・・・ような感覚が生じた。


(いま、俺は何をされたんだ?)


 見た限り、ラトスの体力は限界。決闘が開始したときに比べれば明らかに動きが鈍っている。魔力も相応に少ないはずだ。自分ほどは残っていない。


 今の一手が破れかぶれの可能性は否定できないが、この『決闘』が始まってから初めての感覚。ラトスが今の水鞭アクア・ウィップに何かしらの仕込みがあったと考えるのが妥当だ。


 詳細は不明だが、後手に回るのはよろしくない。そう判断したテリアは、強い警戒とともに新たに水鞭アクア・ウィップを投影し、合計五本の水の鞭を一斉にラトスへ向けて振るった。


「────ッ!」


 ラトスが手を振るうと、彼女の足元から五本の水鞭アクア・ウィップが一斉に投影された。


 互いの水鞭アクア・ウィップがぶつかり合い、相殺される。そして、テリアはまたも『剥ぎ取られる』ような感覚に襲われた。


 これまでもラトスも何度か水鞭アクア・ウィップを使用しているが、その時は全てテリアの水鞭アクア・ウィップが一方的に打ち勝っている。今のような『相殺』が起きたことはなかった。


 ラトスが何をしたのか。自分の身に何が起こったのか。テリアは未だに理解が追いつかない。それでも、確実に『何か』が変化しているのだけは理解できた。


 強い違和感と警戒心が沸き起こる中、不意にラトスが口を開いた。


「……ずっと勘違いしていたんだ。己の『特性』を」

「何?」

「女に戻ってようやく気がつくことができた。僕がこれまで使っていた『遠隔投影』は、僕の血に宿った『特性』を少しだけ利用したものに過ぎなかったんだ」


 次の一手はラトスから。水榴弾アクアスプレッドをやはり己の足元から投影する。水鞭アクア・ウィップは消滅している。だが、これまでは水流牢アクアプリズンの表面水流によって問題なく受け流してきた。


 だが──。


「まずいっ」


 テリアは無意識レベルで行っていた水流の操作を意識的に操った。そうしなければならないという確信めいた予感があった。


 これまではすべからくラトスの放った魔法を受け流してきたテリアの水城塞アクアフォート


 しかし、水榴弾アクアスプレッドは受け流されることなく水城塞アクアフォートに着弾した途端に爆裂。その威力の大半は消失したものの、余波は水流を突破し水飛沫がテリアの制服を濡らした。


 テリアはこの時、ラトスの水榴弾アクアスプレッド水城塞アクアフォートをわずかでも突破したことよりも、水城塞アクアフォートそのものに生じている違和感に戦慄していた。


 この水城塞アクアフォートはテリアが独自に改良した特別なもの。細部にまで手を加えており、自身の手足のように誰よりも深く理解している。


 だからこそ、分かった。


 水城塞アクアフォートの中を循環している魔力に、己以外の魔力が存在している。その魔力が、水城塞アクアフォートの制御に大きな負荷を与えていることを。


「まさか……この魔力はっ」

「そう、僕の魔力だ。水鞭アクア・ウィップを相殺した時に仕込ませてもらった」


 ラトスは新たに魔法を投影する。足元だけにとどまらず、彼女の周囲を濡らす地面から次々と。


「体内の魔力循環が正確になってから、己の魔力を深く感じ取れるよになったんだ。だから気がついた。僕が放った水魔法の残滓には、しばらくの間僕の魔力が色濃く残っていることを」


 魔法は効果を失えば、それを構成していた魔力は外素へと転じ、やがては空気中へと霧散してしまう。


 しかしラトスの場合は違う。


「遠隔投影なんて、できて当然だったんだ。なにせ、僕の魔力はまだそこにありありと残っているんだから」


 テリアはようやく、ラトスの意図に気がついた。


 彼女がこれまで無駄だと承知していながらもしつこく攻撃魔法を繰り出してきたのは、テリアの水城塞アクアフォートを突破するためではない。


 突破の布石を打つため。


 決闘場アリーナの地面にラトスおのれの水魔法の残滓をばらまくため。


 決闘というシステム。決闘場アリーナという立地は全てテリアにとって有利に働いていた。この決闘はテリアという支配者によって制されていた。


 それを、ラトスが人知れず侵略していたのだ。


 ラトスの本当の特性は、魔法の残滓を利用した『侵略』。


 己にとって有意な領域を自らの手で作り出すことにこそあったのだ。


 テリアの領域はもはや彼の水城塞アクアフォートの内側にしか残されていない。そこから先は全てラトスによって侵略されていた。


「この場はもう君の独壇場フィールドじゃない」


 そしてラトスは、宣言した。



「僕の『支配領域フィールド』だ」



note始めました。

アドレス↓

https://note.mu/kikoubi3703

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜』
アマゾンでも販売中。単行本版と電子書籍版の双方があります
大賢者pop
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ