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第十二話 ちょっとだけやりすぎたようです──でも反省はしません

今回は

リース視点→三者視点→リース視点となっております。

 

 ちょっとやりすぎ感が否めなかったが魔法の威力測定が終了してから数日が経過した。

 

 ──あの後、俺が『的』を跡形もなく消滅させてしまった為に、巨乳ちゃんカディナと俺をのぞく全員が魔法の威力測定をすることができなくなってしまった。

 

 どうやら、あの『的』は特注品らしく、殆どの魔法や衝撃をも吸収し周りへの被害を最小限に食い止める為のモノだったらしい。『的』だけでなく、その周りにも程度は違えど似たような措置が施されていたようだが、それらをすべて俺の『フルプレッシャー・カノン』が破壊してしまったのだ。

 

 ……さすがに本気を出しすぎたかもしれない。

 

 ──ちなみに授業が中断した後、ゼストに呼び出されて『フルプレッシャー・カノン』の使用を禁止された。危険すぎるとのことだ。俺だって人間相手に使うような馬鹿ではないし、そもそも使う機会がない。

 

 あの技は俺の出せる魔法の中でも最上級の威力を持つのだが、扱う為には色々と制約が多い。

 

 まず、動き回りながらでは使えない上に、見た目に反して多大な集中力を要する。制御にしばらく掛かり切りになり他の魔法を使用する事ができなくなる。最大出力ともなれば『溜め』に一分は必要だ。実戦ではまず使い物にならず、はっきり言って『一発芸ネタ』に近い。ただただ威力だけを追求した『浪漫火力』なのだ。

 

 はっちゃけた幕開けではあったが、魔法学校での生活が本格的に開始されたのである。




 ──リースが魔法学校での生活を開始した頃、学校長は一人でとある森の深淵を訪れていた。


「……こうして老師とお茶を飲むのは何年ぶりでしょうかね」

「さぁの。少なくとも十年や二十年では足りないじゃろうて」


 大樹の中身をくり抜いて作られた家で、学校長は中に設置されたテーブル越しに見目麗しい少女と対面に座っていた。一見すれば親と子ほどに離れている組み合わせであったが、実は真逆・・であるのを見破ることができる者は滅多にいないだろう。


「で、リースの調子はどうじゃ。奴のことだから、色々と派手にやっとるんじゃろ?」

「ええまぁ……最初から色々と……」


 入学式の大々的な宣誓ちょうはつから始まり、魔力の測定では謎の魔力増減現象。魔法の威力の測定では特注品であった『的』を含む測定場の半壊。


 ──確かに、色々と派手にやっている。


「老師は既にご存じで?」

「いんや。リースは儂の元にいる頃から既に色々と派手にやらかしておったからな。学校などという枠組みに入ったところで、リースあれがおとなしくしてるとは思わんよ」


 少女は「ほっほっほ」と朗らかに笑った。まるで孫の成長を楽しむ老婆そのもの。その仕草には違和感が全くなかった。


「ところで、お主が儂の元に足を運んだのは何故じゃ? まさか、旧交を深めたいというわけでもあるまいに」

「……もちろん、あなたの直弟子であるリース君に関してですよ」

「なんじゃ、女の乳にまた執心しすぎて問題を起こしたのか?」

「い、いえ、全くの別件ですが……」

「そうかえ。奴にもそろそろ、女子おなごの一人や二人でも連れてきてくれると、このは嬉しいんじゃがなぁ……」


 しみじみと呟き、茶を啜る少女。とても聖職者──しかも一組織のトップ──を前でしてよい発言ではなかった。だが、学園長の顔も少しひきつらせるだけで言及することはなかった。


 その代わりに、彼は本題を切り出した。


「今日老師の元を訪れたのは、リース君の扱っている『魔法』に関してです」

「ま、当たり前じゃろうな」

「話が早くて助かります。では、改めて老師に──」

「断る」


 快刀乱麻の一刀ことばとは、正しくこの事だろう。


 …………………………。


「…………………………は?」 


 端的かつ明快な返答に、学校長は一瞬思考が停止した。辛うじて首を傾げるだけが精一杯だった。


「魔法使いならリースの『魔法』に興味を示すのは理解できる。儂とて、仮にリースと知り合わず、かつ奴の思考に触れていなければ同じ気持ちであっただろうからな」

「で、でしたら……」

「お主は、魔法学校の長である前に、『魔法使い』であろう」


 僅かに細められた視線に射抜かれ、学校長は二の句を継げなかった。言葉は短くも端的であった。


 学校長は己の浅はかさを恥じた。少女の言葉通り、己は教師であり魔法使いなのだ。知の探求に近道はなく、己の力で答えを見つけなければそれは真に自らの血肉になり得ない。


 少女の言葉に、学園長は初心に返る思いであった。


「安易に老師を頼ろうとした私が早計でした。申し訳ありません」

「よいよい。気持ちはわからんでもないからの」


 頭を下げる学校長に、少女は笑いながら答えた。


「彼の魔法については私自身で考察を重ねていきます。では、代わりにこれだけは答えていただけないでしょうか」


 少女の顔をまっすぐ見据え、学校長は口を開いた。


「過去に『大賢者』とまで詠われた老師が、どうして『防御魔法』しか扱えないリース君を弟子として迎え入れたのですか?」

「なんじゃ、そんなことか」


 学校長の真剣な眼差しから、どれだけ重大なことを聞かれるのかと思えば、少女にとっては拍子抜けな問いであった。


「笑わないでください! 二属性──あるいは三属性をも有していた希代の天才たちを全く歯牙に掛けなかったあなたが、言い方は悪いですが防御魔法──無属性の少年の弟子入りを認めたのです。これが私にどれほどの衝撃を与えたか分かりますか!?」

「分かるわけないじゃろ。儂は『大賢者』ではあったがお主の母親オカンになったつもりはないぞ」

 

 大賢者と呼ばれた少女は相変わらずマイペースに答えた。あまりに動じない彼女に、学校長は己が興奮していたことを自覚し、深呼吸して表面上の落ち着きを取り戻す。


「儂にとっては二属性だろうが三属性だろうが、果ては四属性・・・だろうがどうでもいいんじゃよ」


 少女は茶を啜ってからつぶやいた。


「強いて言えば、育て甲斐のある者かの」


 過去にこの少女──大賢者の教えを授かった数少ない者たちは、その誰もが魔法使いとしての道を極めんとする者ばかりであった。結局は少女に届かずとも、世間に名を馳せるほどの大魔法使いとなっていた。学校長もその一人である。


「……では、あの手紙に書かれていた最後の文は、冗談ではなかったと?」

「儂がいつ冗談を?」


 学校長はそっと、リースから渡された大賢者の手紙を取り出した。


「……手紙の最初が『全略』になっていましたが」

「──ほっほっほ。ちょっとしたお茶目じゃ」


 誤魔化すように笑う少女を軽く睨んでから、学校長は手紙の最後を指さした。


 現代にはあまり伝わっていない古代の言葉で書かれており、読み解くには相応の知識が必要になってくる。もちろん学校長には解読可能であり、読み解いた結果が大きく目を引く内容であったのだ。



『追伸──リースはいずれ、儂に比肩しうる英傑に成長するだろう。油断するとお主も追い抜かれるぞ。努々ゆめゆめ、研鑽を怠るでないぞ?』



「……老師はいったい、どのような少年を弟子にしたのですか? あのリースの何が、大賢者であるあなたの琴線に触れたのですか?」


 学校長の真剣そのものの問いに、大賢者はやはり笑みを浮かべたまま答えた。


「リースはどこにでもいる、ありふれた男子おのこじゃよ」


 


 ──ぶへっくしょいっっ!


「(ずずずっ)……誰かが噂してんのかね。できれば乳がたゆんたゆんの美少女であって欲しい」

「馬鹿なこと言ってないで早く飯に行くぞ」

「あいあい」


 盛大なクシャミをしてから、俺は先をいくアルフィの後を追った。


 午前中の授業が終わり、昼食の時間。学生にとって、放課後と並ぶ日常的にありながらも重要なイベントだ。


「経営に金掛けているだけあってジーニアスここの学食は美味いよなぁ。これだけでもジーニアスに入学した甲斐があったわ、マジで」

「宮廷料理人に劣らない一流シェフが作っているらしいからな。美味いに決まっているだろう。その分、値段も相応だけどな」

「俺は美味いご飯に金の糸目を付けない主義だ」


 美味い料理には手間も材料も必要になってくる。その代償としてなら俺は喜んで金を払う。


「……疑問に思ってたんだが、お前はどうやって入学資金や学費を用意したんだ? 俺は特待生で食費を含む殆どは免除されているが、お前は違うだろ」


 食堂へ向かう最中に、アルフィと他愛もない会話を続ける。


「お前の親父さんが腕のいい酒職人なのは知ってるが、ここの学費を払えるほどに儲けているなんてはなし、聞いたこと無いぞ」

「馬鹿言え。親父おとんの稼ぎでこんな貴族様御用達の学校に通えるわけないだろ」

「だったらどうやって?」

「全部自分で稼いでんだよ。俺がたまに『狩人ハンター組合』に登録してるの知ってるだろ」

「それはまぁ……」


 納得しかけるアルフィだったが、まだ疑問が尽きないらしい。


「けど、狩人ハンターの仕事は確かに危険に見合う実入りがあるけど、ジーニアス魔法学校の学費を払えるほどに稼げる仕事か?」

「そりゃあれだ、獲物次第だ。大物・・を二、三匹ほど狩ればお釣りがくる」

「なるほどな。…………いやちょっと待て。お前の言う大物って、どれだけの──」

「っと、学食に到着だ。話の続きはまた後でな」

「──分かった。けど、後できっちりと説明してもらうからな」


 学食は既に多くの学生たちでごった返していた。


 俺は席の確保をアルフィに頼み、俺はアルフィから注文を聞いて学食の列に並んだ。


 ──さぁ、今日は何を食べようかな。

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