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大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜  作者: ナカノムラアヤスケ
第五の部 学園生活順風満帆なお話
122/228

第百二十六話 予想します──どういうことだおうこら


 休みが明けた翌日。


 ノーブルクラスではとある話題が密かに囁かれていた。


 もちろん、テリアとラトスとの決闘である。


 ラトスはこれまで幾度かの『決闘』を経ており、そのどれもに勝利している。単純な実力に限ってしまえば、ノーブルクラス入りは確実視されている。


 だが相手は、編入試験で圧倒的な闘いを演じたテリアだ。


 その上、先日の合同授業。小さな騒ぎが起こったせいか、直接に目撃しなくともラトスとテリアが条件付きとはいえ既に一戦を交えていることを知るものは多い。そして、人の口に戸は立てられないように、模擬戦を観戦していた者の口から、両者の間には一筋縄ではいかない『事情』があるのも知れ渡っていた。


 真相を知るものはほとんどいないが『話題性』という点に限れば注目を集めるには十分すぎた。


「どう見ますか、この決闘」

「……現状のままだと、本気ガチでやりあったら七対三でガノアルクが不利」


 かくいう俺たちも、その話題について語り合っていた。


 カディナの問いかけに対して、ミュリエルが率直な分析を述べた。友人に対して情け容赦無い判定だが、俺もミュリエルの意見に同意する。


 ラトスの遠隔投影は相手の死角からねらい撃つことが真骨頂。けれど、テリアの水城塞アクアフォートは全方位に展開するタイプの魔法。


「防御魔法の専門家に聞くが、テリアの使った水流牢アクアプリズンはどの程度のものなんだ? お前の広域結界スフィアも似たようなもんだろ」

「確かに見た目は似てるけど、防御に対する考え方アプローチが違う」


 アルフィの質問に、俺が肩をすくめながら答える。


 俺の広域結界スフィアは、防壁シールドの全方位バージョン。例に漏れず、本質は相手からの攻撃を防御面全体へと拡散させ、一点の崩壊を防ぐことにある。


 一方でテリアの水城塞アクアフォートは、加わった衝撃の方向ベクトルを変換し、他方向へと逸らすことに特化している。


「あー、でも攻略の仕方は一緒かもなぁ」


 俺はミュリエルヘと目を向ける。視線の意味を察したカディナが、顎に手を当てて考察する。


「ウッドロウさんがしたように、局所への一点突破が最適解であると。なるほど、『拡散』や『流し』が通用しないほどの衝撃を与えればいいのですね」

「……とすると、やはりラトスが不利か。これまで決闘で使ってきたあいつの魔法は、威力よりも技量を重視したタイプが多い」


 カディナとアルフィの話を聞いて、俺は溜息をついた。


 良くも悪くもこの二人の見解は正しかった。


 つまり、ラトスとテリアの魔法使いとして戦い方では相性は最悪なのだ。


 加えてもう一点、ラトスにとって不利な点がある。


「ミュリエルだったらどう攻略するんだ?」

徹甲弾パンツァーで打ち抜くか、極大爆裂エクスプロージョンで防御ごとまとめて吹き飛ばす。ライトハートは?」

「俺だったら、地属性魔法での大質量攻撃を真上から落とす」

「ああ、なるほど。その手があった」


 テリアの防御は強力ではあるが無敵では無い。この通り、パッとではあったがアルフィとミュリエルは水城塞アクアフォートの突破口を思いついていた。力押し感が否めないものの、それも立派な手段であった。


 だがこれは、攻撃力の優れた爆炎属性。そして質量攻撃を得意とする地属性魔法であるからこそとれる手段。


 今回対戦する二人は、共に水属性魔法だ。そして水とは、小さな流れはより大きな流れに巻き込まれる性質を持つ。


 攻撃力ではなく技量に重きを置いたラトスの魔法は、更に高い技量を持ったテリアの魔法に巻き込まれ、威力を失ってしまう。


 仮に技量──つまり魔力の制御力をラトスが上回っていれば、テリアの水城塞アクアフォートを突破できたかもしれない。


 だが、合同授業での模擬戦を見た限りテリアの方が制御力は一枚上手だ。ラトスの水弾アクアバレットを、咄嗟でありながらも水流走アクアドライブで受け流してしまうのだから。


 戦い方の相性と属性的不利。二つの不利を抱えて、ラトスがどう戦うのか。勝算があってのことなのか。


 それ以前に、どうしてテリアに決闘を挑むのか。


 ──本人に聞くしか無いだろう。 




「つーわけでどういうつもりだおうこら」

「いきなりグイグイくるね。いや、そうくるのは半ば予想してたけれども」


 昼休みには見つけることはできず、放課後になり次第に俺は急いでラトスの所属するクラスへと向かった。俺が到着するとちょうどラトスが教室を出るところであり、俺の顔を見るなり『やべぇ』という表情になった。


 そのまま俺は半ば強引にラトスを連れ、敷地内の人気の少ない林に向かった。


 改めてラトスに向き合い、最初の口上に入ったのだが、俺は『あれ?』と首を傾げた。


 今日のラトスは、ここ最近の暗い雰囲気と比べて妙にすっきりしたような印象を受けた。


「ウォルアクトとの決闘について……だよね」

「あ、ああ。そうだ」


 疑問に思いつつも、俺は気を取り直してラトスに聞く。


「まず最初に断っておくよ。僕は君が何を言おうとも、彼との決闘を取り下げるつもりは無い」


 確固たる意思を感じさせる言葉に俺は気圧されるように唸る。やはり、今日のラトスはどうにも様子がおかしい。


 いや『おかしい』という表現は正しく無いな。むしろ『好調』と表現したほうが良い気さえしてくる。


「それよりも、ライトハートから聞いたよ。この休日に僕の実家に行ってたんだって?」

「伝言は頼んだけど、お前に断りを入れずに悪かったな」

「まったく、お節介にもほどがあるよ」


 口では責めるような物言いだが、表情は苦笑を交えていた。


「うん、でも僕のためにやってくれたんだ。嬉しくもあるんだ。ありがとう」

「お、おぉう……どういたしまして」


 まさかお礼の言葉が返ってくるとは思わずに俺はどもってしまう。てっきり、怒り出すとばかり思っていたからだ。


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