第十一話 全力出してみました──最大出力です
半年ぶりくらいの投稿です。
次に連れてこられたのは、弓術の射的場のような場所だった。ただ、射的場にしては矢を射る場所から的までの距離がかなり近い。実際の所、ここは射的場ではなかった。
「次は魔法の威力測定だ。現時点でお前らが使える攻撃系魔法の最大値を計る。あくまで現時点だから、それほど気合いを入れなくてもいいぞ」
実際に魔法を使えることとなり、生徒たちが沸き立った。ノーブルクラスに在籍している以上、己の魔法には多少なりとも自信があるのだろう。
「ただし、どれだけしょっぱい威力であろうとも全力でやってもらう。教師の目を欺けると思うなよ。手加減したら容赦なく減点するからな」
注意の後に、ゼストは改めて測定の実施内容を語る。
「まぁ、小難しい話じゃないさ。とにかく、指定の位置から奥にある的に向けて全力で魔法を叩き込め。そうさな……おい、アルファイア」
「は、はい!」
突然名を呼ばれた巨乳ちゃんが慌てた様子で手を挙げた。勢いのある返事に眠たそうな目のまま頷くと、ゼストは的を指さした。
「一番槍はおまえさんだ。とりあえず、お手本代わりに一発頼むわ」
「分かりました!」
景気のよい声を発してから巨乳ちゃんは生徒たちの中から前に踏み出した。……と、どうしてか。歩く途中で彼女はこちら側を向くと鋭い視線を送ってきた。それから鼻を鳴らして視線を知らし、指定の位置に進む。
ふむ……。
「おい、睨まれてたぞアル──」
俺は隣にいる親友の肩を叩こうとするも、奴は一歩体を横にずらした。俺の手が目標を失い空を切る。
「お前だからな、彼女に睨まれたのは」
マジか。
俺たちの会話をよそに、巨乳ちゃんが魔法の投影を開始した。両手を正面にかざし、幾何学模様の魔法陣が展開する。
やがって、一分近くの投影時間を終えて、巨乳ちゃんが叫んだ。
「『風穿衝』!!」
放ったれたのは風属性の上級魔法。火属性だとヒュリアが使用していた『剛炎砲』と同等の難易度を誇り、風魔法の中では屈指の威力を誇っている。『風穿衝』は螺旋状の突風を巻き起こしながら突き進み、的に直撃した。
盛大な破裂音の直後に、離れた位置にいる俺たちにまで暴風が届く。それだけに、あの魔法に込められた風量が推し量れた。
「おおぉぉ、威力だけを見れば教師並みだな。強いて言うなら投影時間をもっと短縮できれば実戦でも使えそうだが……今後の課題か。現時点じゃぁ破格すぎる技量だわな」
ゼストは誉め言葉を述べていたが、巨乳ちゃんは不満げな表情を浮かべていた。その視線の先には風穿衝の直撃を受けながらも未だに健在な『的』が残っていたからだ。あれだけの風量を内包した魔法が衝突したのに、的はほとんど無傷であった。
「あの的はちょいと特別製だ。この学校の教師でも破壊できる奴はほんの一握りだ。そう気を落とすなよアルファイア。…………むしろ、そう簡単に破壊されたら困るけどな」
なにやら最後の部分が聞き取れなかった。
「さて、まぁそんなわけで各自全力で取り組んで欲しいわけだが……さて、次は誰に──」
「いいでしょうか、ゼスト先生」
ゼストが次の番を選ぼうと視線を巡らせる中、的当てを終えた直後の巨乳ちゃんが挙手をした。
「ん? どうしたアルファイア」
「折角ですので、ここは主席合格者である『彼』の腕前を披露してもらってはいかがでしょうか。みなさんも興味があるでしょうしね」
巨乳ちゃんの言葉に、ゼストを含むこの場にいる全員の視線が俺に集中した。
…………………………………………………………。
「え、俺?」
「主席合格者などお前以外にいないだろうが……」
そういやそうだったね。すっかり忘れていたよ。
「そうさな……そいつぁ俺も興味がある」
提案を受けたゼストは少し考える素振りを見せてから、首を縦に振った。
「よしローディス。やって見ろ。さっきも言ったが、手加減はするなよ。全力でやれ」
教師様からのご指名とあらば従うしかないな。
俺は開始の位置の方を向くが、足を踏み出す前にアルフィが俺だけに聞こえる小声で語りかけてきた。
「リース、どうせなら本気でやってしまえ」
「珍しいな、お前が率先してそんなこと言うのは」
「俺のライバルが舐められているのはどうにも気にくわない。ここにいる全員の度肝を抜いてやれ」
「了解だ」
主席合格者だが俺は平民だ。貴族としても魔法使いとしても高いプライドを持つほかのクラスメイトたちに快く思われていないのは承知していた。別に気にしてはいなかったが、アルフィに言われては仕方がない。
手を抜くつもりはなかったが、少しばかり本気を出すとしよう。
俺が前にでると、巨乳ちゃんとすれ違う。
「ねぇあなた……ローディスとか言ったわね」
すれ違い様にかけられた声に俺は足を止めた。巨乳ちゃんは腕を組み、こちらを睨みつけてきた。
……どうでもいいかもしれないが、その体勢だとただでさえ大きな乳がさらに強調されてちょっと思春期男子には目の毒ですよ? 眼福です。
「どんな卑怯な手段で実技試験を通過したかは知らないわ。けれども、このノーブルクラスでトップを飾るのはこの私、カディナ・アルファイアよ。平民風情が調子に乗らないで」
一方的にこちらを敵視する巨乳ちゃんは、言うだけ言うと集団の中に戻っていった。
巨乳ちゃんと入れ替わり、俺は所定の位置に立つ。
背中にクラス全員の視線が集まるのが分かった。まるで見定めるような鋭い眼差しをひしひしと感じる。ちらりとゼストを横目で見ると、彼も薄く開けた目に鋭い光を宿していた。
主席合格者の実力のほどに皆が興味津々、といったところか。
──では、ご期待に応えて派手にいきますか!
俺は両手に魔力を宿し、あえて言葉を発した。
「『反射』、起動!」
──ゼストは、リースが投影した魔法に眉をひそめた。
反射──その名が現すとおり、受け止めた現象をそのまま反射する力場を生成する防御魔法の一種。更に、受け止めた衝撃を元の倍から数倍にして跳ね返す特性を持っている。防壁のそのまま上位互換した魔法でもある。
これだけを聞くとすさまじ強力な魔法にも聞こえるが、やはり大きな欠点を有している。
防御魔法に共通して言えることだが、この反射もとにかく魔力の消費が凄まじい。同じ強度の防壁を展開するよりも更に激しい魔力消費量を誇るのだ。
魔法の威力を測定するのに反射を発動したことに疑問を覚えるが、ゼストの関心は他にもあった。
(……何で両手にそれぞれ反射を? そもそも、どうやって反射の魔力を補ってるんだ?)
ゼストの疑問を余所に、リースは膝を曲げて腰の位置を落とすと、己の右側に両手を構えた。まるで両手で『何か』を包み込むような形を作り、そのままの格好で動きを止めた。
するとどうだろう。リースの包み込む形の両手、その丁度中心部に銀色の輝きが集まりだした。
ゼストは驚愕した。
(──ッ!? あれは……『魔光』ッ!? ……しまった、俺としたことが。さっきの魔力測定の意味不明な魔力の増減に気を取られて、肝心なことを失念していた!?)
その『銀色』の本質を悟ったゼスト。だが、そんな彼も──この場にいる誰もリースが行っている『魔法』がなんなのかを理解できていなかった。
──否、一人だけすべてを知る人間がいた。
生まれてからほぼ同じ時間を過ごしてきた、リースの親友にして最大のライバル──アルフィだけは、知っていた。
銀色の輝きを目に、彼は無意識に笑みを浮かべる。
カディナが要した一分と同じ時間が経過する頃。既に銀色の光はリースの両手に収まらず、誰の目にも分かるほどの強烈な輝きを放っていた。
そして──。
「超久々に最大出力だ! 行くぜぇぇぇぇぇぇぇ!!」
溢れんばかりの銀の輝きを発する『それ』を。
リースは解放した。
「『フルプレッシャァァァァァッ、カノォォォォォンッッ』!!!!」
彼の突き出された両手から、銀色の閃光が放たれる。
それは、まさしく『竜の息吹』とも呼べる奔流。銀色の輝きは『的』を飲み込み、さらにその先にある壁を破壊しそれでなお勢いが衰えることはなかった。
輝きが消滅すると、後に残されたのは無残な破壊の跡だった。直前上に抉れた地面は何処までも続いており、先が見えなかった。無論、閃光の直撃を受けた的は跡形もなく消滅していた。
その威力に誰もが言葉を失う中、リースだけが呟いた。
「あー、さすがにこれはやりすぎだったか?」
その問いに答えられる者は誰一人としていなかった。
最後のアレは、波◯拳ではなく極太カメ◯メ波をイメージしてください。




