第百二十二話 コミュニケーションは大事です──書籍二巻が発売しましたね
サブタイトルぅぅぅ!!
知りたいことはおおよそ把握できた。
「──と、いうことでちゃんと親子で話し合いません?」
ガノアルク夫人といろいろ話した後、俺は再びガノアルク当主の元へと向かった。
ノックをしてから間を置かずに扉を開いた俺を、当主は視線で射殺さんばかりに鋭く睨みつけてくる。背筋がゾクゾクするほどの殺気に近い威圧だが、ここでヘタレているわけにはいかない。
「……妻と話していたようだが、何を吹き込まれた」
「え? 自己完結しちゃう頑固親父と、同じく自己完結しちゃう意固地な娘の間には、致命的に話し合いが不足してるってことくらいですかね」
俺の煽りに近い物言いに、当主の視線がさらに切れ味を増す。
結局のところは、親子間のコミュニケーション不足。己の気持ちを相手に伝えずに、各々が自分の中で完結してしまっているのが最大の問題なのだ。
だったらすべきことは、伝えきれていない互いの気持ちをぶつけ合うこと。解決策、あるいは妥協案というものはそうして初めて生まれてくるのだ。
「これは当家の問題だ。部外者が口を挟むことではない」
「断固拒否。ものすごく口を挟ませてもらいます」
こちらの言葉に耳を傾ける様子もない当主に対して、俺はきっぱりと宣言した。当主の眉間のシワがさらに深く掘り下げられる。
「力づくで黙らせてもいいのだぞ?」
「どうぞ、ご自由に」
俺が答えた次の瞬間に、部屋の調度品が粉砕された。
至近距離で当主が放った水属性魔法を、俺が瞬時に展開した防壁で逸らした結果だ。
「生憎と、『守備』に関しちゃ自信がありますんで。あの程度の威力じゃ揺るぎませんよ」
己の魔法が防がれたこと。そして俺の目の前に展開されている防壁を目にして、さしもの当主も驚きを露わにする。
「これでも、一学年の主席ですので」
俺の自慢げな台詞に、当主から発せられていた殺気が僅かばかりだが緩んだような気がした。ほんの小さな差ではあるが。
「今年のジーニアスには、『四属性持ち』という天才や、あの武名で名高きアルファイア家のご令嬢も入学しているはずなのだがな」
「どっちも同じノーブルクラスのクラスメイトですよ。ついでに言えば、四属性持ちの方は俺の親友です」
「……ディアス殿が紹介状を書くだけのことはある、ということか。なるほど『単なる平民』というわけではなさそうだ」
当主の中では『ただならぬ平民』くらいには格上げされたか。当初よりは話を聞く気になってくれた……と思いたい。
「あなたは一度、ちゃんと娘さんと話し合うべきだ」
「ラトスとは交友関係があるようだが、私と貴様は今日が初対面。そんな輩に何がわかるというのだ」
「初対面でもわかるくらいに初歩的な問題だと思いますけどね、これは」
聞く耳持たず跳ね除ける雰囲気ではなくなったものの、当主の態度は相変わらず厳しい。あと一つか二つほど、起爆剤が欲しいところだが、今の所は思いつかない。
「なぜそこまで食い下がる」
「さっきも言ったでしょうよ。友達だからですよ」
「いくら友人だからといって、貴様がそこまでラトスのために手を尽くす道理はないはずだ」
「友情だけでは物足りないっていうのならもう一つ付け足しておきましょう。──ラトスの魔法使いとしての才能をここで潰すのは面白くないんですよ」
俺は魔法が好きだ。こいつは人生で最高の玩具だ。そして、俺と同じく魔法を本気になっている奴らと闘うのが楽しみで仕方がない。
ラトスは性別こそ偽って生きてきたかもしれない。けれども、ジーニアスでの日々は本物だ。彼女が、あの学校にどれだけの熱意を持って入学したかは知っている。目の前にいる厳格な実父と喧嘩してまで入ったのだからな。
「まだ未熟な学生でありながら、大層な台詞だな」
「確かに、道の半ばではありますが、俺は一年の主席です」
「……そうだったな。未熟ではあるが大層な台詞を吐く程度には腕が立つか」
国内最高水準の魔法学校であるジーニアスの生徒であり、一学年トップの座。過去にジーニアスに在籍していた当主なら、俺の言葉が単なる誇張でないのを理解できるはずだ。
しばし考えこむようにしていた当主は、やがて意を決したように立ち上がり俺を見据えた。
「貴様という男に多少なりとも興味が出てきた」
「……え、どういうこと?」
「ジーニアスの生徒である貴様に分かりやすく言えば『決闘』であろう。。大層な台詞を吐くのに見合った実力があるのか、私自ら確かめさせてもらおう」