番外編:ルーの主張6
『ルバートはローズのどこが素敵だなって思う? あたしは、優しいところ!』
ルバートはいつまでたっても自分の気持ちをはっきりさせないから、いっぱい考えてこの質問。
ああ、もどかしい。
鳥たちは、子供の頃のことが原因だから仕方ないって言うけど、今のままじゃローズがかわいそうだよ。
やっぱり女の子ははっきり言葉にしてほしいよね。
ホント、ルバートは女心がわかってないんだから。
最近は夜にご飯を一緒に食べるようになって、ローズの笑顔も増えたんだけど、まだまだ。
しっぽを揺らして答えを待ってたら、ルバートはペンを置いて、椅子にもたれた。
うう、転がるペンを追いたい。でも今は我慢。それどころじゃないからね。
「ロザーリエはとても……美しいと思う」
『うんうん。特にどんなところが?』
「……彼女の髪も瞳も美しいが、特に彼女の手かな。今までの彼女自身の生き方を表しているようで、とても美しいと思う」
『うんうん。あたしもローズの手は大好き! 撫でられるととっても気持ちいいの。最近はざらざらしないんだけど、少しだけ傷のあとがあって、そこを舐めるとローズは楽しそうに声を出して笑うの』
「ロザーリエが?」
『うん! くすぐったいみたい。ローズが笑うと、あたしとっても嬉しいんだ』
「……そうだな。私も彼女が笑うと嬉しい。彼女の笑顔を見ると、あたたかな気持ちになれるんだ」
そう言うルバートも優しく笑ってて、なんだかどきどきしてきちゃった。
ルバートは今、自分がどんな顔してるかわかってるのかな?
なんだか嬉しくなっちゃうね。
よし、質問は一つだけって言われたけど、もう一つしてみよう。
『ねえねえ、どうしてローズと結婚しようと思ったの? 他にもお嫁さん候補はいっぱいいたんでしょ?』
「――それは当然、この国の王妃として一番条件を満たしていたからだ」
『ちーがーうー! そんなことじゃなくて、ローズこその理由!』
さっきまでの笑顔は途端に消えて、すごく真面目な顔で言うんだからビックリ。
あたしが問い詰めると、ルバートは眉を寄せて真剣に考え始めた。
本当に本気で気付いていないのかな? ちょっと心配になってくるよ。
どうもルバートは〝おうさま″の仕事を第一に考えすぎてるみたい。
『えっと、あたしはね、ローズのそばにいるのが大好き! だって、ローズがそばにいてくれると、とっても落ち着くもの』
他にもたくさんあるけど、あたしが全部言うと、ルバートの答えがなくなっちゃうかもしれないからね。
急かさずゆっくり待ってると、ルバートは窓の方をちらっと見て、それからあたしを見てちょっと笑った。
「私はおしゃべりな女性が苦手だ。そばにいると疲れる。だがロザーリエと話をするのは楽しいと思う。彼女の落ち着いた話し方も、少しかすれた声も耳に心地良いからかな。だから彼女とならば、生涯を共にできると思ったんだ」
『……あのね、それって――』
「何だ?」
『ううん。やっぱり、何でもない』
あぶない、あぶない。また余計なことを言いそうになっちゃったよ。
外で聞き耳立ててる鳥たちに、また笑われたり怒られたりしたくないものね。
それにしても何て言うか、ルバートってあたしが思ってた以上にローズのことが好きみたい。
さっきから自分が熱烈に愛を告白してるって自覚ないのかな。
何て言うかもう……うん。誰かに愚痴りたい気分だよ。
『とにかく、ルバートはちっとも女心がわかってないよ。気持ちはね、ちゃんと言葉にしないと伝わらないんだから。じゃあ、またね!』
戻って来たロビンが開けた扉から入れ違いに部屋を出て、エリオットの部屋に向かう。
扉をカリカリすると、エリオットとよく一緒にいる人間が開けてくれた。
ロビンみたいな仕事をする人間なんだって。
「やあ、ルー。元気そうだね」
『うん! でも今は愚痴っちゃいたい気分なの!』
エリオットはいつでも優しい。
誰に対しても丁寧だし、他の人間の前でもあたしに普通に話しかけてくれる。
だから人気者なのも納得。最近は色々な女の人に追いかけられてるって聞いたよ。
なんでも、セシリアに〝結婚するつもりはあるし、そろそろしようと思っている″って言ったからなんだって。
エリオットはどんな人間と結婚するのかな? その人間と結婚しても、あたしと仲良くしてくれるかな?
でもまあ、エリオットなら心配いらないよね。ルバートみたいに〝つま″を悲しませることもないよ、きっと。
それにしてもルバートだよね。
ああ、せめてローズにあたしの言葉がわかればいいのに。
ルバートはおしゃべりな女性が苦手だって言ってたけど、それは間違いないと思う。
だって、ローズ以外の女の人と話してる時のルバートって怖いもの。顔は笑ってるのに、気持ちが入っていないんだよね。
たぶん仕事してる時のルバートが一番自然なんだと思う。
無口で無愛想で無神経。
だけど、ローズの話をしてる時はとっても優しい顔になるの。
目の前に鏡を置いたら、にぶいルバートでも気付くかな?
それに何より、ローズと一緒にいる時のルバートはとっても幸せそうなんだよね。もちろんローズも。
けっきょく二人はすっごく好き合っているんだから、もう余計な心配するのはやめよう。
うん、そうしよう。
エリオットにあたしの言葉は伝わらないけど、話してるうちに落ち着いてきた。
黙って聞いてくれたエリオットのお陰だね。
『ありがとう、エリオット』
「どういたしまして。また、おいで」
『うん!』
さて、中庭にでも遊びに行こうかな。
エリオットの部屋を出てからのんびりお散歩。
それからまた何回か夜が来て朝が来て、ジュリアスがころんと転がって、みんなが喜んだ次の日。
ローズはとってもとっても幸せそうで、あたしにはわかったんだ。
二人はもう大丈夫だって。
お昼過ぎには鳥たちが嬉しそうに教えてくれた。
ついにルバートが告白したって!
もうちょっと他に言い方があったんじゃないかって思うけど、まあ良しとしよう。
ローズの幸せを思うと、あたしもすっごく幸せ。
なんだか興奮してきてその場でピョンピョン跳ねたら、ジーンに抱っこされたジュリアスが声を出して笑った。だから何度もピョンピョン跳ねる。
ジュリアスは可愛いなあ。
それにもうすぐ弟か妹が出来るかも。兄弟は多い方が楽しいもんね!
ジュリアスがお昼寝しちゃったあとは、あたしもお昼寝。
ルバートがお出掛けだからエリオットは温室にいないだろうし、今日はおとなしく部屋で寝よう。
ええっと、どこにしようかなあ。
部屋の中でうろうろと寝床を見繕う。ソファに飛び乗って前足でふにふにと固さを確かめて決定。うん、ここにしよう。
くるりと回って横になって、大あくび。
ああ、お昼寝って気持ちいい。
そう言えば、もしジュリアスに弟が生まれたらアルフォンスって名前になるのかなあ。
アルフォンスは、ローズのお母さんのお父さんの名前で、前の前の〝おうさま″の右腕だった人間なんだって。
それにジュリアスって名前はエスクームを作った〝おうさま″の名前で、ローズがとっても尊敬している人間なんだって。
だからローズはその名前をルバートが選んでくれたことがすっごく嬉しかったって。
妹だったら、どんな名前になるのかなあ。楽しみだなあ。
寝ていると聞こえてきたのは、急に動きまわるみんなの足音。
それから大好きな足音。
ローズが帰って来たんだ!
頭を起こして、扉が開くのをじっと待って、飛び出す。
『ローズ! おかえり!』
ジュリアスの部屋を覗いてから部屋に入って来たローズに駆け寄ったら、後ろからルバートも入って来た。
二人ともとっても幸せそうで、撫でてくれる手は気持ち良くて、あたしもとっても幸せ。
一通り撫でてもらったから、そろそろ二人きりにしてあげなくちゃ。
今日はローズと過ごすために、ルバートは急いで仕事を終わらせたんだもんね。
ひょいっとソファから降りて扉に向かう。
「ルー」
『なあに?』
「ありがとう」
扉にある特別の抜け穴を通ってローズの部屋から出ようとしていたあたしに、ルバートからの突然の言葉。
あんまりにもビックリして一時停止しちゃったよ。
優しい顔で笑うルバートの隣で、ローズも寄り添うように座って笑ってる。
どうやらルバートは秘密をローズに打ち明けたみたい。
それはルバートの今までの生き方を変えるくらいすごいことで、ローズはそれだけ大切な存在なんだね。
うん。これ以上一緒にいたら、あたしまで幸せで溶けちゃうよ。
『ルバート、ローズ、おめでとう!』
にゃあと鳴いて二人を祝福して、また扉に向かう。
恋ってめんどくさいって思ってたけど、意外といいかも。
さて、これから中庭で遊ぼうかな。
「――そう言えば、最近よく中庭に忍び込んでいる黒猫だが、ルーに会いに来ているんだろう? 庭師たちに迷惑をかけないなら普通に入ってくればいいと伝えておいてくれ」
ご機嫌な気分で出て行きかけたあたしに、ルバートからの余計なひと言。
ローズがビックリしちゃってるじゃない!
『べ、別に、そんなんじゃないもの! たまたま会って、ちょっと遊んだだけ!』
つんとしっぽを立てて、堂々と部屋から出て行く。
ふんだ! もう今日は中庭には行かない!
ルバートってやっぱり、女心が全然わかってないんだから!
番外編までお付き合い下さりありがとうございました。
ルーにならルバートの本音を聞き出せるのではないかと頑張ってみましたが、難しかったですね。
でもきっとこの先は、ルバートはローズにだけ本音を打ち明けるのだと思います。
最後に、皆様本当にありがとうございました。




