第4話 規律違反
自称天使はゆっくりと服についた砂を払いながら立ち上がり、額に流れる汗を手の甲で拭った。
「おっと、こりゃまた大物の登場だ!」
「だ、誰なんだよあの女の人は!というよりも大丈夫なのかよ!?」
僕は慌てて男に駆け寄るが男はにやけながら女の子を指差して笑っていた。スーツの男が白いワンピースを着た女の子を指差してにやける、という非日常的な光景もおそらく僕にしか見えていないんだろう。
「言っとくけどオレは何も悪くねーからな。こいつが勝手に飛び出して勝手に助けたんだぜ?なぁ?」
「そ、そうだけど…僕は正しいことをしただけだろ!」
女の子は呆れた顔で僕たちを見た後に深いため息をついていた。
「はぁ…あのね野上さん、あなた死んでるの。分かってる?分かってるのよね?」
「分かってますよ…」
「あの子はあの交差点でトラックにひかれて死ぬはずだったんです。それを死んだ野上さんが助けた。それってどういうことだか分かりますか?」
「あのね…あんまり人に何度も死んだ死んだって言わないで下さい!」
「それはさっきオレが説明したからもういいわ。そんで何しにきたのよ、かすみちゃん」
男がかすみちゃん、と呼ぶとすぐに手をかざし、また男を吹き飛ばす。男はわざとらしく痛がるような顔をしながら立ち上がると、ポケットからガムを取り出し、口に入れた。
「私は神の使いであり、名はない。黒瀬、二度とそういった俗世の名で呼ぶな」
「黒瀬?あんた黒瀬って言うのか?」
「かすみも黒瀬も生前の名前だよ。今も便宜上の肩書きに近い呼び名はあるけどな」
ゆっくりとかすみと呼ばれた女の子が僕に近づいてきたが、それに合わせて黒瀬も僕の隣まで来ていた。
「さて、野上さん。あなたは我々の世界における規律を犯しました。第2項、魂の存在において現世の生殺に関わるべからず。よってあなたは」
「まてまて。なあ、見なかったことにしてくれないか?」
「そんなことできる訳ないでしょう?三法を破ることがどれだけの重罪か分かっててそんなこと言ってるの?」
かすみは驚いたような、怒ったような、そんな表情をしながら黒瀬に迫り寄った。
「ひとまず…逃げようか!!」
黒瀬がガムを膨らませ、僕の肩を掴んだ瞬間に破裂させた。パン!という渇いた破裂音と共に空間と意識が弾け飛んだ。




