第一話 見知らぬ草原と出会い
はじめまして、忠犬です。
初投稿になります。勝手が分からず誤字、脱字があるかもしれません。
教えていただけると助かります。
よろしくお願いします。
「……物騒な世の中になったわねぇ」
テレビの中、キャスターが氷のような表情で原稿を読み上げている。
『本日未明、小学生の男児が――』
リビングの空気は重いはずなのに、夕食後の我が家はいつも通り。私は食器を片付けながら、どこか他人事のようにその声を聞き流していた。
「ねえ、お母さん」
ソファで転がっていた次男、渉が不意に顔を上げた。
「もしさ、僕たちが殺されたらどうする?」
手が止まった。
「……は? ちょっとあんた、縁起でもないこと言わないでよ」
「だってテレビでやってるし」
「そうだよ、もし犯人が捕まらなかったら?」
宿題を広げていた長男、周までもが面白がってこちらを見る。
ああもう、教育に悪いわ。
私は少し考えてから、わざと肩をすくめて不敵に笑ってみせた。
「そうねぇ……。もし犯人がのうのうと生きてるなら――私が地獄の果てまで追いかけて、直接ブチのめしに行くかな」
「え、こわっ」
「冗談よ、冗談。さあ、宿題やったの!? お風呂もさっさと入る!」
賑やかな、いつもの夜。
そのはずだった。
「……ほう」
それは、誰にも聞こえない声。
「神に子を奪われても、母は神を屠るか? 居るかどうかも分からぬ場所まで、探し続けられるものか」
テレビの光が不自然に揺らぐ。
「面白い。ならば、試してみよう」
世界のどこでもない場所で、誰かが傲慢に笑った。
翌日。
「靴履いた!?」「水筒持った!?」
朝の戦場を乗り越え、子供たちを送り出し、一息つく間もなくパート先へ走る。
パート中でも考えるのは“夕飯は何にするか”だ。
品出しで身体を動かしながらも、渉の好きなハンバーグにするか、周が食べたがっていた鯵の唐揚げにするか考えていた。
仕事を終えても、子どもたちの習い事のお迎えがあるため、サッカークラブへの道を急ぐ。
他のお母さん方も迎えに来ているので、挨拶しながら子供を探す。
周も渉も友達と喋っていたが、私に気づくと友達に手を振ってこちらへ駆け出してきた。
「おかえり」
「「ただいまー!」」
「さぁ、帰ろうか。今日のご飯は何が良い?」
「焼肉!」「カレー!」
「お前、焼肉とか普通の日にするわけねぇじゃん!」
「えー。お肉食べたい!」
ぎゃあぎゃあと子どもたちで盛り上がって、あーでもないこーでもないと言い合っていた、いつもの帰り道。
「お母さん、今日さ――」
隣を歩く渉が何かを言いかけた、その瞬間だった。
――キィィィィィィッ!!
鼓膜を突き刺すブレーキ音。視界を覆い尽くす、あり得ない速度の光。
「――え」
衝撃。
次に目を開けたとき、そこは知らない場所だった。
「……は?」
見渡す限りの草原。建物も、道路も、排気ガスの匂いすらない。
ただ風が、ざわざわと草を揺らしているだけ。
「待って……子供たちは!? どこ!? 返事して!!」
喉がちぎれるほど叫ぶ。だが、返ってくるのは風の音だけだ。
夢? 誘拐? それとも……。
「いやいや、ないないない!」
必死に首を振る。けれど、このあまりにも鮮やかな緑、突き抜けるような青空。
そして、さっきの“あれ”。
「……もしかして。異世界転移とか、そういうやつ?」
一瞬だけ、脳内のオタク知識が火を吹いた。
聖女? チート? 魔法で無双?
「……いや、その前に子供だわ!!」
全力でセルフツッコミを入れる。胸の奥が、ぎゅっと冷たくなる。
探さなきゃ。あの子たちを独りになんてさせない。
その一歩を踏み出そうとした、瞬間。
ガサリ、と。
背後の草むらが大きく波打った。
「……嘘、でしょ」
そこにいたのは、明らかに地球の生態系から逸脱した“何か”だった。
犬を巨大化させ、泥水に浸したような醜悪な姿。
ぎらつく赤い目。
よだれを垂らす牙は、私の腕くらいなら簡単に噛みちぎれそうだ。
「え、ちょ、これって魔獣!? 初手からハードモードすぎない!?」
後ずさる私の鼻腔に、獣の生臭い臭気が届く。
――次の瞬間、地面が爆ぜた。
「うそぉぉぉぉぉ!!」
なりふり構わず走り出す。
速い。無理。
これ、おばさんの走力で逃げ切れるレベルじゃない!
「ちょっと待って! 普通は最初スライムでしょ!? なんでいきなりボス戦なのよ!!」
背後に迫る死の気配。もうダメだ、噛まれる。
そう直感したとき――。
漆黒の影が、横一閃に視界を横切った。
鈍い肉打音。魔獣の巨体が、まるで紙屑のように吹き飛ぶ。
「……え?」
目の前に、そいつは立っていた。
ただただ、黒い。
豹のような、しなやかで強靭な体。
闇を溶かしたような毛並み。
ゆっくりと振り返ったその瞳には、野獣とは思えない知性と、どこか冷めたような色があって。
「……なに、それ。かっこいい……」
恐怖も混乱も忘れて、思わず呟いていた。
黒いそれは、ふっと鼻を鳴らす。
まるで、「世話の焼ける女だ」とでも言いたげに。
それが、私と“あいつ”の、最悪で最高の出会いだった。
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2026/4/9
いつもお読みいただきありがとうございます。
第1話の描写をより分かりやすく、テンポ良くするために一部改稿いたしました。
物語の大きな流れに変更はありません。
2026/5/2
お迎えのくだりを少し加筆しました。




