カクテル言葉
バーテンダーという仕事柄、いろいろな場面に遭遇することが多い。
出会いと別れ。
笑いと涙。
怒りと悲しみ。
そう言った人間模様が繰り広げられる光景を、よくカウンター越しに見守っている。
もちろん俺自身がそういった場面に関わることはなく、あくまでただその様子を黙って見守るだけだ。
お客様の方から話しかけられたときだけ、必要最低限の会話を交わす。
それがバーテンダーとしてのルールだからだ。
一組の男女が店を訪れた。
男の方は歳の頃は40がらみ、中年と言っていい風体。
そして女の方は…
俺が付き合っている彼女だった。
彼女は俺がここに勤めていることは知っているので、顔を伏せて視線を逸らせてはいたが、それを承知でこの店に来たのだろうか…
それとも連れの男性に連れてこられたのだろうか。
その辺はさすがに判らなかった。
二人はカウンターの端に隠れるように座り、定番のカクテルを注文した。
俺は注文を受けて、カクテルを作る。
もちろん中に何か仕込んだりするような、バカなことはしない。
二人はあくまでも客である、私情を挟むことなど許されない。
二人分のカクテルを出すと、男が聞いてもいないのにベラベラと事情を喋りはじめた。
曰く、
「彼女とはもう何年も付き合っている」
「この間転勤になったが別れるのが辛いので、遠距離恋愛をしている」
「たまにこっちに戻って来たときにデートをしている」
「この店には初めて来たが、店の構えが良かったから入った」
「カクテルはおいしい」
とのことだ。
俺はとりあえず前半分には相槌だけ打ち、後半分は素直に礼を言った。
男が喋っている間彼女は何も言わず、小さく頷いているだけだった。
「なぁバーテンさん、何か今の俺たちに似合うカクテルを作ってよ」
男が俺に言った。
正直この手のリクエストは面倒なので断っているのだが、今回は向こうが勝手に話してくれた状況を知っているので、リクエストを受けることにした。
俺は酒を用意してシェーカーを振り、二人用のカクテルを作る。
そして男には「XYZ」、彼女には「ギムレット」を出した。
「…どうしてこれにしたの?」
彼女が初めて口を開いた。
男の方も気になるようで、俺の答えを待っている。
俺は微笑みながら、
「『花言葉』と同じく、カクテルにも『カクテル言葉』というものがあります。お二人の話を聞かせていただいて、それに合う『カクテル言葉』を持つものをお出ししてみました。意味は後で調べてみてください」
そう答えた。




