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千物語  作者: 松田 かおる


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22/22

あるプログラマの昔話

「現代の人間が過去にタイム・スリップして、知識を活かして大活躍!」

なんて話をよく見かけると思うが、ありゃ嘘だ。

なんせ今の俺がその正反対の状態だからな。




理由は知らないが、俺は「1990年代初頭」にタイム・スリップしてしまった。

それでさっきの話のとおりなら俺大活躍!となるんだろうが、現実はそんなに甘くない。

30年以上も昔の世界で、どうやって生きろっていうんだよ。

そもそも俺生まれてねえし。

まず、俺が持ってる「未来の物」が全く使えない。

スマホどころか携帯電話すら出回っていない。

キャッシュレス決済なんて当然ない。

そして極めつけは「今の金がほとんど使えない」ことだ。

紙幣は当然、500円玉だって使えないのがほとんどだ。

この時点で完全に詰んじまった。




だが「地獄に仏」とでも言うのだろうか、途方に暮れている俺を拾ってくれた人がいた。

その人はある小さなソフトウェアハウスの女社長で、俺がプログラマだと聞くと「取り敢えず働いてみる?」と、彼女の会社に招き入れてくれた。


稼ぎ口は確保できたが、そこでまた別の問題が出てきた。

俺が使っていた開発言語が「新しすぎて」、誰も知らない。

そうだよな、俺が使っている開発言語はこの時代はまだ開発されてないもんな。

ただ、この時代の開発言語が「今」の開発言語の基礎になっていたので、それは助かった。

おかげでちんぷんかんぷんということもなく、なんとか無事に仕事をこなしていった。


ただ、やっぱり俺が「普段」使い慣れてる言語で開発ができた方が楽なので、仕事の合間に「使い慣れている方の言語」を使える環境を整えていった。

やがてそんな俺の様子を見ていた社長が、

「面白そうじゃない、本気で開発してみよっか」

と言ってくれ、そこから「新しい言語」の開発がスタートした。




「…では、最後にひとつ。開発から30年以上経っても今なお広く利用されている開発言語『メノウ』ですが、この開発秘話などをお聞かせいただければ」

インタビュアーが私にマイクを向けた。

「大した話ではありませんが、当時の社長…今の妻が『面白そうじゃない』と言ってくれたことでしょうか」

私はインタビュアーの質問に答えた。

「つまり、奥様の後押しが原動力だった、と」

「はい、そのとおりだったと思います」

「なるほど」

「あと、『メノウ』の石言葉『未来』のように、これから起きるであろう『未来を見据える』ことも秘訣…でしょうか」

最後に私はそう付け加えた。

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