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ガンギマリズム  作者: 九空のべる(旧:ジョブfree)
第三章「やべーやつ、暴走」
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41.精霊術の実践。急転する事態

翌日。

この日も昨日からの大雨が続いており、街中を出歩く者は少ない。

漆紀は父・宗一に車で連れられ、ある場所に到着する。

「着いたぞ、漆紀」

「ここ、夜露死苦隊のアジトじゃねえか! なんでこんなとこ」

「夜露死苦隊は潰れたも同然だ。ほら、バイクが一台も停まってないだろう? ここで特訓をする」

夜露死苦隊のアジトであった廃墟。その廃墟前にはバイクが何台か駐車できるほど開けた場所があり、そこで特訓をしようと宗一は考えていた。

雨が降る中、ずぶ濡れになるにも関わらず宗一は運転席から出て車のトランクを開けてあるものを取り出す。

「父さん、そのケースは……」

「俺の猟銃だ。まあ、仕事に使うヤツとは別だ。昔使ってたものでな」

宗一が猟銃を手に取り、弾が装填していないか確認する。

「よし、弾薬はない。漆紀、父さんがまずコイツで精霊術を行使するから良く見ていろ」

ケースを閉じてトランクも閉じると、宗一は廃墟のコンクリートの柱に向けて真っ直ぐ猟銃を構える。

「漆紀、精霊術っていうのはモノに宿る小さな神……精霊あるいは付喪神などと呼ばれる存在の力を引き出す魔法だ。お前のそれは一応ムラサメと名乗っているだろ。同様に、俺のこの猟銃も古く力あるものだ」

「父さんの銃は、普通じゃないのか?」

「日清戦争で使われた骨董品を修繕・改良・改造・整備も欠かさず施した銃だ。いくら骨董品とはいえ現代でも使えるように出費するのは普通では有り得ないが……俺は精霊術を使う為にこうした……稲黒(いなぐろ)、アレを穿て」

宗一が安全装置を外し引き金を引いた瞬間、弾薬は入っていないにも関わらず音もなく青白い光が銃口から飛び出した。

僅か1cm単位で縦横無尽に小刻みに震えつつもコンクリートの柱にぶち当たり、接触部分を穿って削った。その数秒後、落雷のソレと思える爆発にも似た轟音が、周囲一帯に響き渡った。

廃墟の柱のコンクリート片がその場に細かく崩れ落ち、粉塵が少し舞うも雨水ですぐさま地面に叩き落とされるため、広くは散らばらない。

「これが父さんの?」

「ああ。このように精霊術をひとたびモノに行使すれば、こんな事が出来る。お前のムラサメの出来る事は口頭で聞いたのみだ。実際に使って見せてくれ」

漆紀が頷くと、村雨を構えて思うがままにその力を引き出した。

「やるぞ!」

『ええ』

脳裏にムラサメの声が聞こえたと思うと、村雨の刀身が降って来る雨水や地べたに堪る雨水を渦潮のように巻き上げて吸収していく。

「水を操るか。まあ、村雨の名からすればそれはそうだろうな。次を見せろ、漆紀」

地べたに村雨の切っ先を向け、これまで吸収した水を一気に放出して漆紀は飛び上がる。吸収も同時に続けたまま舞い上がり、太い水流は竜の形を成す。

「ムラサメ、ぶっ放せ!」

漆紀の一声と共に村雨から飛び出て伸びる水竜が、漆紀を乗せてそのまま廃墟の壁にぶち当たり激しい水しぶきを辺り一面に飛び散らせた。崩れた水竜がウォータースライダーのように漆紀を流したため、彼は安全に着地する。

「漆紀、ムラサメの力はそれだけか?」

「いや……ムラサメ、また水を吸うぞ」

再び刀身が周囲の雨水を何リットルと吸収していき、漆紀が「やれ!」と一声かけた瞬間に刀身から雨すら包む濃霧が四方八方へと広がっていく。

「濃霧か。霧を起こせるのはかなり強いな……よし、漆紀。他に出来る術はあるのか?」

「いや、これで全部だと思う。傷治すヤツは血が要るし、今の俺は怪我ないし」

「わかった。霧を止めて一旦こっちに戻れ」

漆紀がムラサメに霧を消すよう指示した途端に霧が一気に晴れて、再び雨音と空を覆う暗い雲が目立つ。

「いいか漆紀。おそらく父さんからお前に新しい術とか教えるって事は出来そうにない。お前のムラサメで出来る術はおそらくそこまでなんだろう」

「そうか……俺に出来るのは、こんだけかよ」

漆紀は便利かつ強力な技が使えるのではないか、覚えられるのではないかと期待したが、そうはならない。精霊術などという魔法の一種で超常的現象を起こせる術としても、何らかの限界はあるのだろう。

「勘違いしないで欲しいが、そもそも精霊術ってのは使い手が修行して新たな術や技を覚えるだなんてシロモノじゃない。元からモノに宿ってる小さな神の力があって、使い手は限りあるその力を引き出してるだけだ。だから、モノによって精霊術で引き出せる力はほとんど決まってるんだ。強いていうなら、モノから100%色んな力を引き出せるよう、精霊術の精度やモノとの関係を深めるのが修行だ。そんなもんだ、魔法使いの一種と言っても精霊術師は大したもんじゃない」

「そういうもんなんだな……父さんは、一体どうやって、いつから精霊術なんて使えるようになったんだ? なんでなんだ」

「昔、竜理教の人間から学んだ」

「竜理教から?」

竜理教。世界各国文化によって竜の姿や役割・解釈は全く異なるものの、それらの竜全てを統括して信仰している宗教である。新興宗教ではなく歴史はあるものの、竜理教は反社会的な出来事を何度も引き起こしているため、世間一般ではカルト宗教扱いされている。

「父さん、あのカルトに居たの?」

「いや、カルトには所属していない。とにかく金が無かった頃、ワケあって奴らを利用しただけだから気にするな。それより、お前のムラサメの力だが……本当にヤクザとやり合うのなら、とにかく霧を使え。霧に紛れて攪乱しつつ、一人一人斬るほかない」

「それ、俺が先に考えてた作戦なんだけど」

「だろうな。確かに霧は有効だ……だが、確かお前のムラサメの力を使うには水が要るんだろう? 霧を起こすなら、その霧になる水分をムラサメに吸わせて貯水する必要がある」

漆紀が頷くと、宗一は「なら今日は雨水をとにかく吸わせろ」と言って車のトランクを再び開けて猟銃をタオルで拭き始める。

「父さんから何か教えられる事がないってのはわかったけどさ、どうも腑に落ちない。その竜理教の話とか、父さんは一体なにやってたのさ」

漆紀は村雨を地面に突き立てて雨水を吸収させつつ、宗一に問いかける。

「今みたいな便利屋というか、なんでも屋をやってた。ただ今と違うのはな、物騒というか、殺伐とした依頼も受けてた」

「殺伐?」

「80年代後半辺りから働き始めてな……お前の行為をどうこう言えないような危ない仕事ばっかりやってた。なんせ親が居なくて金がロクにないからな」

終戦から70年代後半に至るまでは学徒会による学生運動が多発し継続していたが、80年代から90年代前半にかけては暴力団の抗争が熾烈を極めた。

暴力団と警察による全国各地での銃撃戦や放火が続き、家などの財産を失った者が明日を生きる為に略奪者となって商業施設を襲う事もあった。

それが大抗争時代である。

漆紀も義務教育の中で習った事である。

「市民団体幹部の護衛、略奪者からの商業施設防衛、どれもこれも命懸けの仕事ばかりだった。警察の手が回りきらないからこそ、そういう依頼がいくつもあった」

漆紀は信じられないと思った。父は自分の事をどうこう言えないほど命の危険がある高リスクすぎる仕事をしていたとは、普段の宗一の言動からは考えられなかったのだ。

そうこう話していると、宗一は猟銃を手入れし終えたのかケースにしまうと車のトランクを閉める。

「父さんの話は、ひとまずわかった。やっぱり今は、俺に出来る事を……やるしかないな」

父の話を聞き、漆紀は己も命をかける時ではないかと改めて思う。その固い意志を解すように、車の中から急に音楽が流れる。

「電話? あ、俺のヤツの曲だ」

漆紀のスマートフォンが着信音を鳴らしている。すぐさま車のドアを開けて、濡れた手のままスマホの画面を操作する。送信者の名前は下田と表示されている。

「もしもし?」

電話をかけてきた下田七海は、焦った声色で声を張っていた。

『やばいよ辰上、太田が撃たれた!』

「はぁ!?」

漆紀の虚を突く言葉であった。七海の言葉の意味はわかるが、なぜそうなるかが一切掴めず困惑したまま七海の言葉が畳み掛けられる。

『ヤクザの襲撃に遭ったみたいなんだ。すぐに救急車で運ばれたって話だけど、正直助かるかどうか……』

「なんだよそれ……いや、下田は今どこに居るんだ!? なんでそんなこと知ってる!」

漆紀が電話越しに問いをぶん投げると、混乱ゆえか何か含みや隠し事でもあるのか、七海は歯切れ悪く拙い言葉で返す。

『あー、あっ、いや、あれだ、太田と居たから。今は病院! ごめん、混乱してて……とにかく、太田が撃たれたってコトを言いたかった。アタシ達は狙われてる、やりすぎたのかも』

「夜露死苦隊のバックに付いてる、萩原組か……」

『そ、そう! それ、その組! 多分その組のヤクザが撃った!』

真紀だけでなく、漆紀のクラスメイトの一人である太田介助まで撃たれた。真紀は一命を取り留めたが、介助に関してはどこを撃たれたのか何発撃たれたのかもわからず、助かるかどうかわからない。

七海の情報通りならば、介助は生死の境にいる状態であろう。

その事を聞くと、不意に漆紀は介助が先日ショッピングモールで言っていた言葉を思い出す。七海がドカ食いの末に眠ってしまい、ショッピングモールの通路に設置されたソファーに腰かけながら聞いた言葉だ。

『別に誰かに殺されたとかでなくてもさ、事故で死んじゃったとか、病気で死んじゃった。そういう死因でも……顔も合わせた事ある知り合いや友達が全員その人の事を話さなくなったり、最初から居なかったみたいにするの……スゲー嫌なんだ。不謹慎とか、そんな事言うやつ居るけど、オレはそんなの嫌だ』

脳裏にその言葉が、たった数秒で何度も繰り返し響き続ける。だが、介助の言葉が漆紀の足を前へと進める一押しとなった。

(早く奴らを潰さなきゃ、俺が終わらせなきゃいけないんだ)

もはや一秒たりとも悠長にしていられない。漆紀はいつの間にか運転席に乗っている父に目を合わせて言う。

「父さん、もう時間が無い。これから萩原組の事務所を叩きに行く」

「電話で何を言われた?」

「俺の友達が撃たれた。だから俺が、奴らを潰さなきゃ」

漆紀はこの時便宜としてではなく、初めて介助の事を本気で「友達」と呼んだ。

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