35.介助の吐露
二日後、午前11時吉祥寺駅前にて。
「辰上のヤツ、退院したってマジなのかよ?」
介助は七海と共に漆紀の到着を待っていた。先日の勝利の打ち上げも兼ねて、漆紀曰く「ドカ食い歩き」を決行すると二人は連絡を受けていた。
「マジじゃなかったら、こんな誘いの連絡来ないでしょー? でも、たった2日で退院ってどうなってんだろね。辰上、銃で撃たれたってのに」
「オレはそれより、今後は銃を撃って来る連中が辰上を襲って来たりしねぇか怖くて仕方ねぇよ。あれ明らかに辰上だけ狙って撃って逃げたじゃねえか。オレ達は完全に無視だ。かえって怖ぇよ」
「それはそうかも。銃撃ってくるのはヤクザって相場が決まってるけど」
夜露死苦隊のバックには萩原組という暴力団が付いている。漆紀を銃撃したのは萩原組の組員ではないかと二人は薄っすら予測を立てた。
「悪い! 電車が遅延してた!」
遅れてやって来た漆紀が一言詫びを入れつつ小走りでやって来る。
「辰上、ほんとにピンピンしてるねぇー……」
「お前銃で撃たれたのになんで数日でそんな元気なんだよ」
本当に約束通りにやって来た漆紀を見て介助と七海は信じられない物を見て目をカッと見開く。
「みんな、札は持ったな!? ドカ食いすっぞ今日はッ!」
「急にハイテンションだな辰上……ちょっと痛いぞ?」
「アタシも今日はドカ食いすっぞ~! カロリーなんざ知るかドン太郎!!」
「誰だよドン太郎って、おいアテもなく歩くな! 迷子になるぞ! どの店行くんだよ?」
三人は吉祥寺の商店街に来るなりラーメン屋に入る。
「一発目からラーメン屋かよ!? いきなり重くないか辰上! あと下田までそれで良いのか!?」
「アタシはマジでなかなか太らないから気にせずバカスカ食べれるしヘーキヘーキ!」
七海は上機嫌そうにラーメン屋の扉に手をかける。
「辰上もこの店で良い?」
「あっさり系のラーメンか。いいぜ!」
「お、オレは!? オレの意見は!?」
問答無用で七海が扉を開け、素早く漆紀が続くと介助は口をつぐんで曇った表情を浮かべつつ入る。
そうしてラーメン屋で軽くラーメンを食べると、三人は商店街の店や商店街でない場所の店にも自由気ままに寄っていく。
甘味を食し、塩味を食し、辛味も食し、色々食べつつ三人は語らい、次第に介助も後の事を色々考えるのはやめた。
そうしてひたすら暴食と呼ぶべき「ドカ食い」を決行し、三人はショッピングモールの通路にあるソファーに座った。
吉祥寺ともあってか屋内も人が多く行き交っており、都民た三人からすればそんな雑踏が心地良いものである。それゆえか気絶するかの様に七海がソファーに座ったまま眠ってしまう。
「うわ、下田眠っちまってんじゃないか」
そう指摘する漆紀だが、介助はまじまじと七海の顔を見入る。
「マジか。んー……ほーん……下田、黙ってたらアイドルと変んないくらい顔面偏差値高くねえか? コイツ陽の者だろ。よし、ICCから追い出してやろう」
介助がそんな事を言いだすので漆紀はため息を吐いて「ないない」と手を横に振る。
「それより太田、今日はありがとな。俺や下田のドカ食いに付き合ってくれてよ」
「まあいいっていいって。久しぶりに食べたいモノを食べた気がする。それにオレは……お前が死ななかっただけ、正直すげぇ嬉しい」
「なんだよ急に、気持ち悪い」
「まあ待て待て。考えてもみろ、お前が死んだら学校始まるなり、クラスの連中やICCの連中が変な空気になるだろ? 死んだけど、その人については誰も触れないで腫れ物みたいに、最初から居なかった様に扱っちまうだろ?」
介助はどこか自分の実体験も含めている様に説得力のある例えと声色で漆紀に話を続ける。
「オレさ、そういうの嫌なんだ。別に誰かに殺されたとかでなくてもさ、事故で死んじゃったとか、病気で死んじゃった。そういう死因でも……顔も合わせた事ある知り合いや友達が全員その人の事を話さなくなったり、最初から居なかったみたいにするの……スゲー嫌なんだ。不謹慎とか、そんな事言うやつ居るけど、オレはそんなの嫌だ。わかるかな、こういうの……」
介助自身もうまく言葉で言い表せず自信なさげに話すが、漆紀は彼の言わんとするところが分かった。しかしその理解は介助の言葉から得た理解が10割ではなく、漆紀自身の体験も混じっての理解であった。
「太田、俺もそういう事を思った事があるんだ。中学校の事だ……クラスでバカやってたお調子者のクラスメイトが居た。ソイツはみんなから好かれてたけど、ある日いきなり死んだんだ」
「いきなり?」
「暴走族になってた同級生の一人がソイツの事恨んでてさ、縄で縛って転がして頭をバイクで引き潰して殺したんだ」
「それは……」
「そいつが死んでから誰もソイツの話題をしなくなったし、まるでソイツが最初から居なかったみたいだ。俺がソイツの話をしようとしたら、全員こう言ったんだ……不謹慎だってな」
集団での黙殺。亡き人を悼むと言うより、その死を忌避して最初から居なかったように振舞う同級生に漆紀は異常なものを感じていた。
「だから、俺からこの前の戦いに誘ってなんだけどよ……助けてくれて感謝もしてるし、あの時死なずに済んで本当に嬉しいぜ、太田」
「辰上……ああ、オレも全く同意だ。お前が死んだら、新学期早々またあの気持ち悪い空気を味わうからな」
その言葉を聞くと漆紀は軽く笑んで右拳に親指を立ててグッドポーズをして。
「ありがとな」
そう一言付け加えた。




