VS海堂王威2
「……無茶するんやな」
上がった土煙から一つの影が飛び出してくる。それは萬屋さんで、着地すると更に後退して距離を取った。服のところどころが破れ、血も流している。
土煙が収まると、二人が激突した場所に海堂はそのまま立っていた。服の数か所が破れ、僅かに擦ったような跡が残っているものの、大してダメージは受けていないようだ。
「お前の身体が防いでくれたからなァ……次だぜ」
紅龍が海堂の背後に回る。その紅龍の背に飛び乗った海堂はなんとズボンのポケットに手を突っ込んだ。
同時に一メートルほどの小さな龍が二匹、紅龍の背から現れる。その龍の体躯の半分弱は異常に伸びた頭部であり、剣のように硬く鋭く尖っていた。
「〈放〉×〈操〉×〈硬〉……《尖蓋龍》。いけ」
海堂の合図とともに《尖蓋龍》は萬屋さんへと突貫した。
「……《断界》」
萬屋さんは空間を遮ることで防御しようとするが、二匹の小龍は壁を迂回してきた。
「まぁ、〈操〉ってことはそうなるわな」
洒落やないでー、と誰にかわからない弁明をしながら両手に殺気を集中させる。先ほどの《神貫手》ほどの出力はないものの、相当の密度、硬度を持っていることは見ればわかる。
「片手で殴るだけで私の《重インパクト》よりダメージが出そうだな……」
僕の腕の中で瀕死の吐息を漏らしている唯我さんが呟く。
「だ、黙っててよ! 〈剛〉の維持に集中して!」
「これくらい大丈夫だろ……あの小さな龍も相当だな」
その言葉に僕は視線を戦いの方に戻す。萬屋さんはその強靭な殺気を纏った掌で《尖蓋龍》を破壊しようとしていたが、その硬く鋭い頭蓋を破壊できずにいた。
「チッ……」
「本体を忘れるなよ?」
伸ばした腕の先、拳銃の形に構えた手の指先へ殺気が渦を巻いて集まっていく。
「SHOOT」
放たれた鋭く速い一筋の殺気は、《尖蓋龍》を相手にしている萬屋さんに《断界》を発動する暇を与えず、その身体に突き刺さった。
「うぐっ……」
体勢の崩れた萬屋さんを一匹の《尖蓋龍》の頭剣が襲う。更に身体を削られながらも、萬屋さんは《尖蓋龍》の胴体部分へ手刀を繰り出した。
すると胴体は硬い頭蓋とは違い、あっさりと斬り裂かれた。《尖蓋龍》も光の霧となって雲散霧消する。
「……さよか」
もう一匹の《尖蓋龍》の攻撃もかわし、その胴体部分を殴りつける。あっさりと《尖蓋龍》は消滅した。
「気がついたか。だが《尖蓋龍》はいくらでも出せるんだぜ?」
再び両手をポケットに突っ込んだ海堂の背後、紅龍の胴体から《尖蓋龍》が現れる。
「押されてる……少しずつだけど、確実に」
僕は心配になり、小さく呟く。萬屋さんは何度も相手からダメージを受けているが、海堂はまだ自分の《紅鳴砲》の巻き込みでしか傷を負っていない。
「ですが、萬屋さんはまだ使っていません。……彼女の〈術〉を」
水沼さんの言葉に、僕は息を呑んで萬屋さんを見つめる。萬屋さんは口角を上げた。




